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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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寿司パーティ


 

 寿司の準備自体は、そこまで難しいものではない。


 酢飯を用意して具材を用意して……養殖所は寿司用にと注文したらその通り切り身を用意してくれるので実に簡単。


 問題は量で……獣人達を満腹にする量となると、大変な騒ぎだ。


 そういう訳で今回は手巻き寿司も用意し、自分達で好き勝手に食べてもらう。


 各種魚に蒸しエビにイカ、キュウリにセロリ、卵にカットしたトンテキや牛ステーキなんかも用意する。


 イクラに納豆、梅肉なんかも用意して……クルミを砕いて甘味噌に絡めたものもソース代わりに。


 あんまり種類を増やしすぎると量を用意出来なくなるので、このくらいにして……あとはこれをとにかく量揃えていく。


 買えるものは買って、作れるものは作って……そんな準備を進めていると、コン君が更に元気を取り戻していって……そして割烹着への着替えを済ませて手伝いをし始めてくれる。


 コン君とさよりちゃん、それとけぇ子さんにエプロンなどを用意してもらったヤノハちゃんも手伝いをしてくれて、それ程準備が難しくないこともあって、あっという間に出来上がっていく。


 手巻き寿司の目処がある程度たったら握り寿司。


 こちらは作りすぎてしまうと乾燥したりしてしまうので、ある程度を作ったら配膳してしまい……あとは食べながら作り足していくしかないだろう。


 最悪、自分は食べずに作る覚悟が必要で……まぁ、うん、これも仕事かと諦めて、酢飯を入れた桶と、ネタを入れたトレーにしっかりとラップを張ってから居間へと持っていく。


 すると居間には全員集合、着替えを済ませたコン君さよりちゃん、それとヤノハちゃん。


 テチさんと由貴もワクワクしながら待っている。


 そうか……由貴にとっては初めてのお寿司か。


 ならしっかり作ってあげないといけないなと覚悟を決めて……いつもの椅子に座ったら皆で、


『いただきます!』

 

 と声を上げての食事開始。


「握りも出来るだけ作るけど、間に合わないだろうから手巻きも食べてね。

 手巻きは好きな具を好きなように巻いて良いけど、具を多くしすぎると落ちちゃうから気をつけて。

 由貴は俺かテチさんに作ってもらうように、好きなので作ってあげるからね」


 俺がそう言うと由貴は早速、


「あれ! あれとあれ! 食べたいあれ!!」


 と、ベビーチェアから乗り出して指を指していく、ネタの名前が分からないのか、あれあればかりだけども、俺もテチさんも指の動きや視線で理解して……由貴お好みの手巻き寿司を作ってあげる。


 由貴に合わせたミニサイズだけども、それでも由貴は自分で選んだものが入っているとご満悦で……綺麗に巻いて渡してあげると、頬の毛を膨らませながら嬉しそうな顔をし、一気に噛みつきバリバリと食べていく。


 それに刺激を受けてヤノハちゃんも手巻き寿司を作り始め……そっとテチさんが手伝ってあげて形を整えていく。


 コン君とさよりちゃんは、自分だけでも器用に作り上げることが出来て……皆握りよりも手巻きに夢中だ。


 これなら手巻きだけでも良かったかな? なんてことを思うが……大皿3枚に山盛り用意したネタがあっという間に無くなっていく。


 ……いつも食欲満点な皆だけども今日は一段と凄まじい。


「……そ、そんなに美味しかった?」


 思わずそんな声が漏れる程で、皆の答えは、


「美味しいし楽しい!」

「とっても美味しいです!」


 と、コン君とさよりちゃん。


「はじめて、はじめて食べましたこれ、お魚って美味しい!」


 と、ヤノハちゃん。


 ……そうか、ヤノハちゃんにとっても初めてのちゃんとした寿司になるのか。


 回転寿司でも食べてはいるんだけども……まぁ、あれはちょっと特殊ではあるからなぁ。


 あれはあれで楽しく、子供達を喜ばせるものなのだけど、本当の寿司の美味しさが味わえるというものではないだろうなぁ。


 いや、美味しい回転寿司もあるんだけどね、ちゃんと良いネタで握っている所もあるんだけど……今回行った所はそうではなかったからなぁ。


 そして由貴は無言、無言で食べ続けている、その小さな体のどこに入っているんだというくらい食べ続けている。


 ……そして食べたらトイレに。


 最近の由貴はテチさんや俺の補助があればトイレで用を足せるようになっていて……俺は調理があるのでテチさんが補助。


 そんなテチさんは皆の世話ばかりであんまり食べていないが……とても嬉しそうというか幸せそうな顔をしているから問題なさそうだ。


 子供の世話はテチさんにとっての天職なのだろうということがよく分かる。


 トイレが終わったら洗面所で丁寧に由貴の手を洗ってあげて自分の手もしっかり丁寧に洗って……それからまた食事の補助へ。


 一応アルコール消毒ジェルなんかも用意してあるので、補助をしても問題はないはず。


「手巻き寿司も楽しくて良いですね!」


 なんてことを言いながらヤノハちゃんもどんどん食べていって……手巻き寿司の具があらかた無くなったなら握り寿司へ。


 既に作ってあるのから食べて、俺が追加で作ればすぐ食べて、ちゃんと美味しかったのだろう、昼間はあんなにがっかりしていたコン君も、満面の笑みで楽しんでくれている。


 食べて食べて食べて、コン君達も途中でトイレ行って食べて……いつかに見た食欲爆発モードになっているようだ。


 人間がこんなことしたら確実に病気になってしまうので、獣人の凄まじさを改めて痛感する。


 ……そして皆の食欲が落ち着いたら俺とテチさんも食べて……食べ終えたら意外なことにネタが余ってしまっていた。


 結構な魚やイカの切り身が残っていて……あれだけの食欲爆発があったのに残るとは、用意が過剰すぎたようだ。


「……実椋、余ったのはどうするんだ?

 明日食べるとかは厳しくないか?」


 と、テチさん。


 多分1日くらいは平気だと思うのだけど食事の間、常温で放置しまっているし、子供に食べさせるのは怖いという気持ちも分かる。


「うん、生のはあとで炒めておくから大丈夫。

 生姜醤油ベースで炒めて、炊き込みご飯にするかおにぎりにでもするか、他にも味噌汁の具にして出汁を取るって手もあるから平気平気。

 まぁ、明日も魚料理になっちゃうけど、そこは勘弁してもらうしかないかな」


 と、返すとテチさんも納得してくれる。


 出前寿司などを多く取りすぎて余ってしまった場合には、いつもこうやっていた。


 ネタの方は火を通してしまって、シャリはおにぎりにするかチャーハンにするか。


 酢飯でも胡椒なんかで味を整えてやればしっかりチャーハンになってくれて、なんだかんだ美味しく仕上がってくれる。


 今回は酢飯はしっかり食べ上げたので処理としては簡単な方で……そんな話をしているとお腹を膨らませて畳に寝転がっていたコン君が、こちらの食欲の目を向けてくる。


「今日はもう駄目だよ」


 と、俺がそう先んじるとコン君は、昼間とは全く逆の理由でがっかりとして……そうして畳に寝転がり、しばらくの間、ダラダラと幸せな食後の時間を堪能するのだった。



お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
ちゃんと美味い回転寿司って、大抵お高い方の回転寿司
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