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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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真実は


 今年の栗は良さそうだ。


 そんな情報を出荷先やら花応院さんやらに連絡し……頭の中はもう出荷のことばかりだったのだけど、その際の電話で花応院さんからこんな言葉が返ってきた。


『ヤノハちゃんのことなのですが、大体の調査が終わりました』


「おお、早いですね、何か分かりましたか?」


 と、俺が返すと花応院さんは、少し言葉に詰まってから返事をくれる。


『……まず母親の浮気などといった可能性は否定されました。

 そういった可能性はほぼないといって良く、また先祖返りの可能性も低そうです』


「……そう、ですか。

 ……そうなると難しい話になってきますねぇ」


 浮気の可能性がないと断言するのは難しいと思うのだけど、まぁ他人が触れて良い問題ではないのであまり深くは突っ込まないことにする。


 ……つもりだったのだけど、花応院さんはあえてその辺りのことの説明を始める。


『実は父方の流れに遺伝病の方がいるそうでして……出産前、出産後に遺伝子検査を行っているのです。

 それにより両親の実子であることが確認されています』


「ああ、なるほど、それなら浮気の可能性は確かにないですねぇ……。

 ……うん? 遺伝子検査したんですよね? その時に獣人だって分からなかったんですか??」


『はい、分かりませんでした。

 言ってしまうと遺伝子検査はその後も行われています、病床に伏してこれは遺伝病に違いないとの両親の希望で複数回、検査が間違っているのではないかと複数の機関での検査が行われています。

 結果は特に問題なし、だったそうです』


「……はい? えっと、人間と獣人って遺伝子が違うんです、よね?」


『はい、違います。

 以前、妊娠中の奥様……とかてちさんの検査をした際も、奥様からは獣人特有の遺伝子が見つかっています』


「……なるほど?

 で、えっと、ヤノハちゃんは、獣人ではない??」


『遺伝子的にはそうなります。

 ……今こちらでは、そちらへの搬送中に入れ違いが起きたのではないかと、大騒ぎになっています。

 つまりそちらにいるヤノハちゃんは別人ではないのか? ということです』


「……何を馬鹿な。

 ……いやまぁ、その疑いを晴らすのは簡単でしょう? もう一度遺伝子検査をしたら良いんですから」


『……はい、そちらも既に獣ヶ森の病院と連携して進めています。

 病院で採血した血液がまだ残っていましたので……。

 慎重に進めている関係で検査の完了にはまだ時間がかかり、確定したことは言えないのですが、他の検査項目や身体的特徴から見るに、同一人物ではあるようです』


「……つまりヤノハちゃんは、遺伝子的には人間だけど、外見が獣人ってことですか?

 テチさんによると、頭蓋骨に獣人特有の穴があるそうですけど、それでも獣人ではないと?」


『……はい、遺伝子的にはそうなります。

 ……こちらとしても混乱している状態で、はっきりしたことは言えないのですが……ある御用学者は後天的な獣人化説を唱えています』


「……そんなこと、あり得るんですか?」


『分かりません。

 そもそも獣人については分かっていないことばかりなのですが、逸話としてそういった逸話は存在しています。

 ……あるいは、こういう説を唱える学者もいます。

 つまり今回の件は全て扶桑の木の起こした奇跡だと。

 ……あのままでは助からなかった、死ぬ寸前だった。だから扶桑の木が助けようとした……助けるためには獣人化が必要だった。

 だから獣人になった、というものです』


「……それは……いや、あり得る……んですかねぇ」


 そんなまさかとも、そんな馬鹿なとも言えなかった。


 と、言うよりも、その説を信じた方がまだ納得出来るから、本心が信じたいと訴えていた。


 そう信じると確かに納得がいく、獣ヶ森に来て急激に回復したこと、獣ヶ森に来てから耳や尻尾が生えたこと、だというのに遺伝子は人間だということ。


 そういった超常の力が関わっていると言われた方がありがたく……同時に恐ろしくもなる。


「仮にその説が正しかった場合、色々な病気の人が獣ヶ森に来るだけで助かる、ということになっちゃうと思うのですが……?」


『……いえ、それはないでしょう。

 と、言うのも今までも何度か致命的な病気を抱えた人間が、そちらにお邪魔したこと、それ自体はあるのです。

 政府関係者や政治家、それらがガンとの闘病中、あるいはガンに気付かずにお邪魔したことが何度もあるのです。

 ……が、彼らが回復、または獣人化したという記録はありません』


「それは、瀕死ではなかったから……とか?」


『……実は扶桑の樹の力に期待して、瀕死の政治家がそちらのホテルにお邪魔したことがあるのですが……その際にもそういった異常は現れませんでした』


「……なるほど、そうなるとヤノハちゃんだけ特別な何かが……何か。

 ……あ、そう言えば御衣縫さんは枕元に扶桑の種を置いていたような……アレですかね?」


『それ、でしょう、ねぇ』


 と、花応院さんはため息を誤魔化すためといった形で、ため息混じりの声を上げてくる。


 それを早く言って欲しかったと言わんばかりで……確かに、その後にお見舞いに行った時には、扶桑の種はなくなっていたなぁ、なんてことも思い出す。


「そうなると……あの種が何かしてヤノハちゃんが獣人になっちゃったのか。

 ……えーーっと……そうなると俺達がヤノハちゃんを獣人にしちゃったようなものなんですけど、これって大丈夫、なんですかね?」


『……まぁ、そこは証明しようがありませんし、命が助かったのですから文句は言わせませんよ。

 奇跡に期待して預けて奇跡としか言い様のないことが起きた、ただそれだけのことでしょう。

 ……ただし、奇跡が二度三度と続くと確実に混乱が広がってしまうので、そうならないよう気をつけてください。

 こちらもそんなことが起こらないようにしたいと思います。

 実椋さんも他言無用でお願いします、当人にも奥様にも言わないように。

 ……それと扶桑の種の扱いには十分気をつけるよう、お願い致します』


「……はい、そうします」


 と、俺がそう返すと花応院さんは、声にいくらか力を取り戻して……そうして今後のヤノハちゃんについての話し合いを、あれこれとすることになるのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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