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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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畑にて


 今日は皆で畑へとやってきている。


 そろそろ秋になってきて、どの木も実を大きく膨らませていて……収穫前の状態チェックと、ヤノハちゃんにうちの畑がどんなものかを紹介するためだ。


 ヤノハちゃんだけでなく御衣縫夫妻もやってきていて……2人が休憩所から見守る中、ヤノハちゃんはなんとも楽しげに、畑の中を歩いていく。


 そこらに落下防止ネットが張り巡らされているので、あんまり自由に駆け回れないし、ほぼほぼ人間のヤノハちゃんが木登りをすることは難しい状態だけども、それでも楽しいようで……時折、早々落ちた栗の実のことをじぃっと見つめて、ネットの下からトゲを指で突いて笑いながら痛がったりもしていた。


 そして由貴も畑にやってきていて……由貴にとっては初めての畑ではないけども、初めてのイガグリを目にする機会で……ネットにぶら下がりながらイガグリを凝視し、匂いを嗅ぎ……ソワソワソワソワと、ネットを動き回ってイガグリの観察をしている。


 由貴にとって落下防止ネットは、アスレチックなどにあるぶら下がりネットと同じのようで、そこにぶら下がっているだけで面白いし、なんか美味しそうなものがあるしと、興奮が止まらないようだ。


「……おう、なんか実が大きくねぇか?」


 そんな子供達の様子を皆で見守っていると、御衣縫さんがそう声をかけてくる。


 言われて実が成る枝へと視線をやってみると、確かに去年より大きく見えて……数も多いからか、枝がひどくしなって今にも折れてしまいそうな状態になっている。


「……確かに大きいですね、今年は豊作……とか?

 いやでも、去年と同じような気候だったし、去年と同じような世話をしているし、うぅん、何なんでしょうね。

 テチさんはどう思う? あの状態……なにか手を打った方が良いかな?」


 と、俺がそう声を上げるとテチさんは、腕を組んで「ふぅむ」と唸ってから言葉を返してくる。


「大きく育った理由は分からないが、あのくらいならまだ大丈夫だとは思う。

 枝の様子は子供達が毎日確認してくれていて、折れそうと思ったら何個か実を落とすことになっているから、心配の必要もないな。

 ……もちろん枝のために今から実を収穫してしまうのも手だが、それをするとどうしても味が落ちるからなぁ、もう少しだけ待った方が良いだろう」


 その言葉に「なるほど」と返していると、子供達が次々にやってきて……俺や御衣縫さんに挨拶した後に、テチさんに挨拶をし、テチさんは出席簿にそれを記録していく。


 記録が終わった子供達は、仕事モードに入って木の世話のために駆けていき……それを見たヤノハちゃんが、これでもかと目を輝かせ始める。


 仲良しで親友のコン君とさよりちゃんとそっくりな子供達が数え切れない程やってきた……それはぬいぐるみ大行進とも言えるような光景で、あまりにも可愛い光景に心を鷲掴みにされてしまったようだ。


 すぐさま抱きつきたいという衝動に駆られ、ふらふらと子供達に近付こうとするが、


「ヤノハ、お手伝いに集中しなさい」


 との御衣縫さんの声があって、気持ちを立て直して、畑を見回るという大事な仕事を再開させる。


 今日は見回りが終わったら、落下防止ネットに落ちてしまっている栗の回収を行うことになっている。


 あのまま放置しても良いことはなし、落ちてしまったものはさっさと回収して、さっさと食べてしまうのが一番だ。


 そうしてそろそろ回収が始まるかなという時、我慢出来なくなったのか由貴がネットの隙間を通り抜けてネットの上側に立ち、イガグリにそっと両手を伸ばす。


「由貴、刺さると痛いぞ」


 と、俺がそう声をかける中、テチさんは止めるために駆け出す……が、由貴はそれより早くイガグリを持ち上げ、そしてその歯でもってどうにかイガグリを剥こうとし始める。


「こらっ」


 と、そう言って間に合ったテチさんは、革手袋をしてから由貴からイガグリを取り上げ……絶望して大口を開ける由貴を見て、仕方ないなという苦笑をしてから、手袋でワシワシとイガグリを剥いて、中の実を取り出しその一つ……大きく膨らんで、売っても問題ないレベルの実を由貴に持たせてあげる。


 すると由貴は大きな栗の実を両手で持って……尚も大口を開けたまま、まるで宝石でも見るかのような顔で、輝く目でじぃっと見つめて……こんなに嬉しそうな顔は見たことがないという顔をしてくれる。


 そんな由貴を見てか、興味を持ったらしいヤノハちゃんもやってきて、テチさんはやれやれとヤノハちゃんにも栗の実をあげて……ヤノハちゃんは由貴程のテンションじゃないにせよ、嬉しそうにそれを眺める。


 そして……我慢出来なくなったのだろう、由貴がその歯を栗の実に突き立てる。

 

 突き立ててバリッと皮を剥いて、渋皮も剥いて、向いたそれらをそこらに放り投げてまた突き立てて、どんどん剥いて剥いて剥いていく。

 

 それを見てヤノハちゃんも真似しようとするが、ヤノハちゃんの歯では……剥けないこともないのだろうけども上手く剥けずに苦戦する。


「由貴、ヤノハ、皮を剥いても構わないが、そのまま食べても美味しくないぞ。

 実椋に調理してもらわないと、本当に美味しさは分からないから、勿体ないことはやめなさい。

 それよりも今は栗の実を集めたほうが良いぞ、たくさん集めたら実椋がうんと美味しいご飯を作ってくれるぞ」


 と、テチさんがそう言うとヤノハちゃんは素直に「はーい!」と、そう言って……齧りかけの栗をポケットの中に入れる。


 元気になってからのヤノハちゃんは、デニム生地のオーバーオール姿で元気に駆け回っている。


 ……オーバーオールと言っても、両肩掛けではなく片方の肩に掛けるだけの片掛け式のものとなっている。


 最初見た時はバランスの悪さになんとも言えない気分となったのだけども、テチさんが言うにはそれが可愛い、らしい。


 逆に両掛けは少し古くてダサい……のだとか。


 俺にはよく分からない感覚だった。


 そんなオーバーオールには大きなポケットがついていて、ポケットには大きな茸のアップリケがしてあり、けぇ子さんがつけてくれたもの、らしい。


 そんなポケットに大事に栗をしまったら、テチさんからカゴと拾いハサミを受け取っての回収モードとなる。


 コン君達や他の子供達もそうなって……そして由貴は渋々、本当に渋々食べるのをやめてテチさんに言われる通りに道具を持って回収し始める。


 そうして子供達による栗の回収が始まり……畑の中が一気に賑やかになっていくのだった。


お読みいただきありがとうございました。




そして全く別件ですが、新作の連載を始めています。


『概ね善良でそれなりに有能な反逆貴族の日記より』

https://book1.adouzi.eu.org/n6648ld/


概ねタイトル通りの内容となっていますので、気になった方はチェックしてみてください!

よろしくお願いいたします!

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