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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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その後のヤノハちゃん



『毒……はありえないでしょう、彼女はずっと入院していただけでなく、どうにか原因を見つけられないものかと病院で検査を受け続けていたのですから……。

 ……しかし、そうすると何故獣人であることに気付かなかったのかという疑問も残ってしまいますが……』


 花応院さんに電話をし、事の次第を報告するとそんな答えが返ってきた。


 ……確かにその通りだ、病院でレントゲンなり遺伝子検査なりをしたら獣人であることは分かっていたはずだが……その辺りはどうなっていたのだろうか?


「……人間は平気でも獣人だけには毒になるとか、そういった成分を接種していた可能性もあり得ますから、一応調査をしておいてください。

 病院や医者が獣人であることに気付いていたのか、隠蔽していたのかも、一応お願いします。

 ……とりあえず経過は順調で回復しつつあることは確かです。

 何が原因でそうなったかは分かりませんが、今のところ可能性が高そうなのはやはり毒になるのかなと思います」


『……分かりました、そちらにお任せしたのが間違っていなかったと知って安堵しています。

 可能でしたら今の状態の写真など送っていただければ幸いです。

 ……こちらでできる限りの調査も進めておきますので、どうぞよろしくお願いいたします』


 と、そんな会話でもって通話は終了となる。


 色々と疑問が残ったままだけども、とりあえずヤノハちゃんが元気になっていることは良いことなんだろう。


 このまま元気になれば普通の暮らしが出来るようになるはずで……そうなったらコン君達と元気に遊び回る姿が見られるかもしれない。


 という訳で、進展があるまで様子を見ることになり……数日後、御衣縫さんからヤノハちゃんが目を覚まし、リハビリを始めたとの連絡があった。


 体はほぼほぼ健康体になってきたのだけども、ずっと寝たきりだったからか筋力が無いに等しく、しばらくは看護師さん達による看護を受けながらのリハビリをするようだ。


 マッサージを受けたり、ストレッチをしたり、それが上手くいけば歩行訓練などをしていくことになるらしい。


 歩けるようになるまで数ヶ月……今年中に少しでも歩けたら運が良い方とのことだけども、ヤノハちゃんはまだまだ若く成長期なので、運が良ければ年末頃には歩けるようになっているかもしれない……とのことだった。


 そういうことならとりあえず俺達に出来ることはなく、寂しくないように何日か事にお見舞いにいくくらいのことしか出来ないかなと、そう考えていたのだけども……更に数日後、御衣縫さんからまさかの連絡が届くことになった。


『なんか元気になっちまってよ、歩行器さえあれば歩けるようになってんだよ。

 看護師も医者もびっくりしちまってなぁ、リハビリ見てくれてる先生も前例がないって驚いちまってるよ。

 ……意識を取り戻したヤノハちゃんが、差し入れだと思ってあの種を食べちまったのが影響しているのかもしれんなぁ』


 ……数ヶ月のリハビリがたった数日で??


「えっと、それは獣人の身体能力のおかげですか?」


 と、俺が返すと御衣縫さんからは、


『いや、獣人の回復が早いのは確かだが、ここまでじゃぁないな。

 いっくら回復が早い種族でも1・2ヶ月はかかったはずだ』


 と、そんな言葉を返してくる。


 何にせよ異常なことではあるようだ……。


「わ、分かりました。

 とりあえず皆の支度が終わったら、お祝いのお見舞いということで様子見に行きます。

 ……レイさんとこのケーキでも持っていこうと思うんですが……あの種を食べられたなら、食事はもう出来る感じですよね?」


『ああ、もう普通に……何人前もの飯を食ってるな、うちの野菜を食べ尽くす勢いで、全く可愛らしいったらないよ』


「そ、それはお手数おかけしています」


 と、そう言って通話を終わらせた俺は、テチさん達に事情を話した上で、お見舞いの準備を進める。


 車を出して、レイさんのお店にいって……季節のピーチケーキというものがあったので、それを皆の分とヤノハちゃんの分……多めに買って、御衣縫さんの下へ。


 神社に向かうと境内を歩行器で歩いている、白いワンピースを着た女の子の姿が視界に入り込む。


 色が抜けていた髪は、けぇ子さんが染めてあげたのか黒黒としていて、肌もツヤツヤ。


 歩行器がなければ元気いっぱいの10歳くらいの女の子に見える。


 そして……女の子の頭の上には、大きくて丸い獣耳が生えてしまっていて……それを見つけた俺は、目を擦って、二度擦って再確認をし、見間違いではないことを確認してから、御衣縫さんから話を聞きたいと周囲を探す。


 と、すぐに御衣縫さんがやってきて……俺の側に立って声をかけてくる。


「ありゃぁリカオンの獣人だな」


「り、リカオンですか? えっと……アフリカでしたっけ? そこらの犬科動物ですよね?

 ……え? リカオン獣人って存在するものなんですか?」


 と、俺が返すと御衣縫さんはなんとも難しい顔で言葉を返してくる。


「存在はする、海外の特区にだがな……。

 そうなるとあの子は、その特区の誰かの血を継いでいることになる。

 ……本当に首相のお孫さんなのか? いやまぁ、父親か母親のどっちかがそこの出身者か、血筋だってなら納得は出来るがなぁ……。

 耳だけでなく尻尾も少しずつ生えているようで、もう数日もしたら立派な尻尾になるそうだ」


「……なるほど……?

 えぇっと……リカオン獣人だとして、どうすべきですか、ね?」


「さてなぁ……リカオン獣人だとして何故今まで耳がなかったのか、それがなんで今生えてきたのか、何故大人の獣人の姿なのか。

 元気になったことも含めて分からんことばっかりだ。

 ……だけどもまぁ、その謎を解くのはこっちの仕事じゃぁないからな、あの子が元気になりさえすれば、それで良いだろうよ。

 調査だなんだは、政府の連中にまかせておけば良い。

 ……それとなんだが、その……なんとも気まずい話なんだが、ヤノハちゃんがオイラと嫁さんのことをお父さんお母さんと呼ぶんだが、アレはどうしたもんだろうね?

 好きにさせてやれば良いのか、訂正した方が良いのか……医者達が言うには精神が安定するまでは好きにさせてやれってことなんだが……」


 と、そう言われて俺は腕を組んで頭を悩ませる。


 本当にお父さんお母さんだと思っているのか、側にいる頼れる大人をそう思いたいだけなのか……そしてどうしたら良いのか。


 なんとも答えが出ない俺は、とりあえず、


「プロが言う通りにしたら良いと思いますよ」


 と、そんな当たり障りのない言葉を返す。


 すると御衣縫さんは半目になりながらも頷いて……それからヤノハちゃんの方へと歩いていって、


「おーい! お客さんだぞー!」


 と、そんな声を張り上げるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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