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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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練り物


 由貴にジャーキーを食べさせたことで気付いたのだけど、由貴の歯も消化機能もだいぶしっかりしているようだ。


 ジャーキーでもしっかり噛んで食べられるし、今まで一度もお腹を下したことはないし……人間だと1年くらいは食事に気を使う必要があるのだけど、由貴はその必要もないように見える。


 テチさんにその辺りの話を聞いてみると、そもそも獣人はそこまで離乳食に気を使わないらしい。


 離乳食でいきなり刺激物とか生のものとか、色々与えてしまうようだし、それで病気になるとかもないようだ。


 ……成長が早いにしてもそんな馬鹿なことがあるのか? なんてことを思ってしまう話なんだけども、ここで一つ気付いたことがある。


 成長が早い獣人の赤ちゃんだけど、妊娠期間は十月十日のままだった。


 成長が早いのであればその分だけ出産も早まるはずなんだけど……しっかり十月十日。


 ということはもしかして、由貴はテチさんのお腹の中である程度育っていたのではないだろうか?


 お腹の中でじっくり育ったから、外に出てからの成長というか、歯が生えてくるのも言葉を喋るのも、元気に駆け回るのも早かったのかもしれない。


 草食動物とかは生まれてすぐ立ち上がって動き回る。


 それはそうなれるまで……肉食動物に追われても逃げ切れるように、お腹の中でしっかり育てたからで……恐らく由貴にも同じことが起きているのだろう。


 生まれた時点で人間で言う生後数ヶ月とか半年とか、そのくらいの成長をしていたと考えると、今元気に喋って駆け回って、色々なものを食べられるのも納得できる話だ。


 ……まぁ、そうだとしても俺はこれからも、少なくとも1歳になるまでは色々と気をつけるつもりだけどね。


 まんま離乳食ではなく、食べられる固形物はどんどん出すけども、しっかり火を通した安全なものばかりにしていくと思う。


 病気になってから後悔しても遅いから……ということで今日は、養殖所で買ってきた魚をすり身にしていく。


 あそこなら寄生虫とかの心配はないのだけど、それでも火を通した方が良いだろうと捌いて、フードプロセッサーですり身状態にし……骨とか残ってないかの確認をしたら、その中にスーパーで買って冷凍しておいたイカやタコを細かく刻んだものを投入する。


 噛まずに飲んでしまっても、由貴の小さな体でも問題ない程度に細かくしたもので……それでもちょっとした歯ごたえになってくれることだろう。


 投入したものをしっかり混ぜたら形を整えて……蒸し器に並べてコンロへ。


 あとはしっかり蒸してやれば魚介の練り物の完成……新鮮な魚でやるのは少しもったいないけども、あそこの魚で作ったならきっと美味しく仕上がってくれるはずだ。


 他にも玉ネギ入り、ニンジン入り、セロリ、ピーマン入りなんかも作っておく。


 正直セロリやピーマンは練り物には合わないのだけども、今のうちから苦手なものを無くせるようにとの思いで入れてみることにした。


 子どもの舌というのは大人より鋭敏らしいから……とにかく幼いうちから色々な味に慣れておいたほうが良い……はずだ。


 そんな練り物作りをしていると、いつもの椅子に座ったコン君達が興味津々、腰を浮かせてこちらの作業を覗き込んでくる。


 もののついでだからと、棒にすり身を巻き付けてちくわっぽいものを作ってみたり、団子状のものを作ってみたりと、自由に練り物を作っていく。


 それらを全部蒸し上げて、皿の上に並べれば……練り物フルコースの完成だ。


 こうなってくるとおでんを食べたくなってしまう訳で……ただ練り物だけを食べていては飽きてしまうので、そこまで本格的ではないけども、おでんも作ってしまう。

 

 具材は大根、タマゴ、昆布、コンニャク、練り物セット、それと串を通したタコの足も数本入れてしまう。


 今日は肉の用意がないのでタコを多めにして……そうこうしているうちに台所中に漂う練り物が蒸し上がった匂いとおでん鍋の匂いで、コン君達の口の中で唾液が唸ってしまっている。


「……もうすぐ出来るからね。

 それとこれはお昼ごはんだから、いつもよりは少なめだよ」


 と、作業を進めながら声をかけるけども、コン君達の食欲は気にした様子もなく炸裂している。


 これはしっかり準備しないと不味いかなと慌てて我が家の炊飯器全てで全力炊飯をして……おでんも2つ目の鍋を用意する。


 ゆで卵を量産し、大根を切りまくり……予定よりもかなり時間を超過する形で昼食が完成となり、テチさんと由貴が待つ居間へと持っていく。


 すると由貴は既にエプロンをつけた状態でベビーチェアに座っていて……、


「ぱー!! もーー!」


 と、配膳が遅いことへの不満を声と態度で精一杯に表明してくる。


「ごめんごめん、美味しく作ったから許してよ」


 と、そう言いながらベビーチェアのテーブルの上に由貴用の食器を置くと、由貴はいつものようにすぐ食べることはなく、じっと見つめ始める。

 

 それから皆を見回して、また皿を見て……何かを待っているかのようにまた皆のことを見回す。


 どうやらいつも皆がいただきますと、そう言ってから一緒に食べ始めているということに気付いてくれたようだ。


 だから皆の準備が終わるまで待つつもりのようで……自分の皿と皆を交互に見つめ続け、俺達は慌てて配膳を進めて席に腰を下ろし、手を合わせ声を上げる。


『いただきます!』

「まー!」


 と、そう言ってから由貴は蒸し上がりたての練り物に手を伸ばし、まだ温かいそれへと齧り付き……そしてすぐにその美味しさに気付いたようで、猛然と食べ進めていく。


 それに続いて皆もまずは練り物からと箸を伸ばし……俺もそれに続いて箸を伸ばし、半月型に整えたものを口に運ぶ。


 ……うぅむ、自作だからなのか作りたてだからなのか、それともあの養殖所の魚だからなのか、旨味が凄い。


 噛んだ瞬間旨味が溢れてきて、練り物とは思えない味だ。


 刻んだタコイカも良い仕事をしていて、歯ごたえが楽しいし、小さくても味がしっかり出ているのでたまらない。


 おでんもまた魚介の出汁が出まくっていて……タコ足も柔らかいながら旨味がつまっていてたまらない美味しさだ。


 由貴には、お椀に細かくした大根と練り物、それとタマゴを崩して入れてあげて……それにつゆをかけて崩したタマゴの黄身を溶かし、ちょっとしたタマゴスープ状態にしてから出してあげる。


 するとお椀に口をつけてスープをすすり……すぐに美味しさに気付いて両手でお椀をガシッと掴んで、猛然と……それはもう凄い勢いで中身を食べ尽くしていくのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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