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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十二章

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アンチョビ


 養殖所のタラのことは、あれからすぐに獣ヶ森中に広がったらしい。


 まずコン君がお母さんに話をし、お母さんのタラ料理を食べてみたいとお願いをし……それからタラ料理を食べたコン君の家、三昧耶さん家の皆さんが親戚や友人に話を広め、そこから爆発的に評判が広がったようだ。


 その結果、タラは一気に品不足に。


 養殖所もいきなりの需要増に驚いてしまっていて、慌てて数を増やそうとしているらしいが、そんなにすぐ増えるものでもないので、結果品不足となってしまっているようだ。


 そうなると当然コン君にとって辛い状況というか、大好物が食べられないというガックリ来る状況になってしまう訳だけど、養殖所の店員さん達がコン君のおかげで話題になったという認識を持ってくれているようで、コン君の家だけは特別に……こっそりとタラを融通してもらえるようになったようだ。


 その数は一日一尾。


 普通に考えれば十分な量ではあるけども、食いしん坊コン君にはやや物足りなくもあるようで、コン君のお母さんはちょっとだけ苦労する日々となっているようだ。


 基本的にコン君はワガママを言う子ではなく、態度も言葉も表に出さず、我慢してくれているようなんだけど、表情にはしっかり出てしまっているようで……コン君の表情を誰よりも読めるお母さんとしては、なんとかしてあげたいという気持ちが強くなっているようだ。


 結果お母さんは他の食材でコン君を満足させてあげようと張り切るようになり……コン君は贅沢なご飯を食べられる日々を過ごしているらしい。


 ……が、コン君のお母さんは生粋の和食党、いくらごちそうとは言え和食ばかりではコン君を満足させきることが出来なかったようで……ある日のお昼。


「にーちゃーーん! ピザ食べたい!!!」


 と、そんな声を上げながらコン君が我が家へと駆け込んできた。


「いらっしゃい、コン君。

 ピザなら……材料はあるから、出来上がるまで待てるなら用意してあげるよ。

 今から用意するからちょっと時間はかかるけどね」


 と、居間で由貴のことをかまっていた俺が言葉を返すとコン君は、洗面所へと向かって手洗いうがいをすませてから、さよりちゃんと一緒に居間へと駆け込み、元気な声を返してくる。


「おっけー! いくらでも待つし手伝う!!

 そんでさ、そんでさ、映画とかでよく見るアンチョビのピザっての食べてみたい!

 美味しいんでしょ? アンチョビ!

 にーちゃんもアンチョビ作れる?」


「お、おお、アンチョビか……確かに映画とかで話題には上がるよね。

 ……コン君はアンチョビって何か知っているかい?」


「知らない! 外国のなんかでしょ! 多分……木の実かな? 果物とか!」


「な、なるほど……。

 アンチョビって言うのは、英語でカタクチイワシのことで、そしてコン君の言うアンチョビっていうのは、イワシの発酵食品のことだね。

 日本では缶詰で売っているのが一般的で……で、作れるかどうかなんだけど、作ったことはあるんだけど、成功したのか失敗したのか、今ひとつ分からないままだったんだよねぇ」


「ん~~? どゆこと??」


「作り方はシンプルで、まず内臓とかを取り出して開いて、塩漬けにして発酵させる。

 発酵させたら、一旦水気を拭いて干して……それから油漬けにしたら完成。

 この油漬けにする際に缶に詰めたものが缶詰になる訳だね。

 ……で、問題はこの発酵の部分で、一度自分でやってはみたんだけど、物凄い匂いになるんだよね。

 これ、本当に食べて良いやつ? って感じの、これ本当に成功しているの? って感じの、物凄い匂い。

 それから一応油漬けまでやってはみて、それからは普通に食べられたしお腹壊したりもなかったんだけど、結局あれは本当に正しい作り方だったのか、どうなのか、今でも分からなくてねぇ……。

 そして美味しいかどうかと言うと、不味い訳ではないのだけど新鮮な魚が食べられる状況でわざわざ食べる意味は薄いかなぁとは思うかな。

 発酵した魚の風味が欲しいのなら魚醤を使うって手もあるしね」


「おー? そうなんだー……名前は美味しそうなんだけどなぁ」


「無理にアンチョビにしなくても養殖所のイワシでピザを作れば美味しくなると思うよ。

 イワシ、玉ネギ、ピーマンをメインにするとか、梅肉イワシピザも良い。

 開いたイワシの身に具材とチーズを乗せて焼き上げたピザ風イワシ焼きも美味しいかな。

 それか……ハラペーニョをたっぷり使った激辛イワシピザとか?」


 アンチョビが期待した通りの味ではないと聞いてガックリしていたコン君だったけども、俺があれこれ案を出すと案を聞く度に耳をピクピクとさせて、目を輝かせて……そして特に激辛イワシピザの所で興味を示す。


「……いや、激辛とは言ったけど、コン君達でも食べられる程度の辛さにはするからね? 常識外の辛さにはしないよ?」


 テレビが大好きなコン君のことだ、テレビで見るような激辛を期待されては困るとそんな念押しをするとコン君は、それでも構わないとうんうんと頷き……それだけでなく、


「でも玉ネギとか梅肉のも食べたい!」


 と、元気いっぱいのワガママを炸裂させる。


 いやまぁ、このくらいなら全然可愛いワガママなんだけども……。


「なら一枚のピザに三種類の味付けをしてみる? チェーン店とかであるよくばりピザみたいな感じで」


 俺がそう返すとコン君は、テレビで良くみるやつ! とテンションを上げて尻尾も高く上げ……黙って話を聞いていたさよりちゃんも同じく尻尾を振り上げる。


 そして、こっそり話を聞いていたつもりなのか、廊下にいたテチさんも同じように尻尾を振り上げていて……うん、どうやら皆の欲望を刺激する良い案だったようだ。


 自作でやるならそこまで手間のかかる内容でもないし、早速やろうかと立ち上がり、テチさんに由貴を預けてから台所に向かう。


 するとコン君とさよりちゃんは、手伝いをしたいのだろう、居間の隅で割烹着への着替えを始めて……そうして久しぶりに皆でのピザ作りが始まるのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
クォーターなんちゃらとかいうヤツ! アンチョビはねぇ、けっこう好き嫌い別れる味だと思うな まんまでも火を通しても味変わるし シンプルなマルゲリータが1番好きです(聞いてない)
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