飯盒炊爨カレー
数日が経って……いざという時に備えての飯盒炊爨会は、保護者への通知を行った上で、道具のレンタル予約をし、スーパーに材料に注文をした時点でほぼ準備完了。
あとは子供用ナイフやらを用意し、材料が届き次第簡単な下ごしらえをしたら良いとなったのだけど……それだけではちょっと物足りないかなと、俺はトッピングの準備をしていた。
「トッピング?」
台所であれこれと材料やらを揃えていると、いつもの椅子に座ったコン君が声をかけてきて、俺は作業を進めながら言葉を返す。
「今回作るのは普通のカレーで、美味しくなる工夫とかは大変だろうから省略するつもりなんだよね。
一番の目的が飯盒での炊飯で、次にカレー作りで……美味しさは二の次といったら聞こえが悪いけど、まず何よりも完成させることを優先するつもりなんだ。
初めて料理する子もいるだろうし、料理が何なのかよく分かっていない子もいるだろうし、細かい作業が苦手な子もいるだろうから、とにかく完成が優先。
ただそうなると、美味しさがどうしても疎かになっちゃうから、そこをトッピングで補おうかと思ってね」
「なるほどー? どんなトッピングするの? カレーにだと……えっと、オレんちだと納豆とか生卵いれたりするけど!」
「そういうトッピングもありだとは思うけど、今回は少し違うかな。
まず唐揚げ、そして生じゃなくて温泉卵、それとトンカツに揚げソーセージ、そしてチーズ&クルミにしようかと考えているよ。
この中から好きなものをトッピングしたなら、カレーがぐっと美味しくなると思わない?」
「なるなる! すごくなる!
オレだったら何にするかなー……チーズクルミと、唐揚げかトンカツかなー」
「私は温泉卵がいいです」
と、さよりちゃんが参戦、手を上げチョキを作り出していることから、温泉卵を二つカレーに乗せたいらしい。
「私はトンカツだな……あとはハンバーグもあると良いな、ハンバーグ」
テチさんまで参戦、居間からやってきてそんな声を上げる。
「ハンバーグかぁ……ひき肉があったから作れると言えば作れるけど、そんな数は作れないかなぁ。
追加のひき肉買いに行けば良いんだろうけど、流石に時間が足りなさそうだし―――」
と、俺がそんなことを言っているとテチさんは、スマホを取り出し電話をし始める。
「ハンバーグの材料を買ってきてくれ、できるだけたくさん、子供達と食べるんだ。
お金は後で出すから、すぐに頼む」
……相手は多分レイさんかな。
飯盒炊爨の際、監督役として来てもらうことにはなっていたのだけど、まさかおつかいまで押し付けてしまうとは……。
そしてスマホの向こうのレイさんは、テチさんのこんな言動には慣れているのだろう、素直に承諾してくれたようで、特に揉めたりすることなく通話は終了となる。
「よし、これでハンバーグも大丈夫そうだな。
……簡単な作業くらいは私も手伝うから、さっさとやってしまおう」
と、そう言いながらテチさんが手を洗い始め……それを見てコン君とさよりちゃんも居間に移動し、割烹着を着用し始めての、手伝いの準備をしてくれる。
そうして皆で作業をしているとレイさんと、レイさんの彼女である彌栄さんも手伝いに来てくれる。
これだけの人数がいると台所は手狭になるけども、そこは皆が気を利かせて居間で出来る作業は居間でやってくれて、それぞれ邪魔にならないよう気遣ってくれて……順調に作業が進んでいく。
本番は明日、明日になればフキちゃんと長森さんも手伝いに来てくれるので、人手は十分。
下拵えも大体終わったし、トッピングも順調だし……あとは炊飯とカレー作りさえ上手くいけば問題はないだろう。
天気予報も晴れ予報で……何もかも問題はないだろうと確信を得ての翌日。
予想外のことが起こることになってしまった。
飯盒炊爨は問題なく終了、保護者さんも何人か手伝いに来てくれたので、全く問題なく行えた。
カレー作りも問題なし、まぁ下拵えはこっちでやったし、実質的にはカットして煮込むだけだったので、楽に済んだ。
問題は実食。
ご飯は美味しく出来上がり、カレーは……かなり美味しく出来上がった。
長森牧場提供の豚肉が凄く良い豚肉で、大きくてゴロゴロで脂身が甘くて最高の出汁が出てくれて、野菜も獣ヶ森産の良いものだったので、嬉しい計算外が起きてくれた感じだ。
そこに俺達が作ったトッピングを追加。
これが子供達の食欲を爆発させてしまった。
「美味しい! 凄く美味しい!」
「自分で作るとこんなにおいしーんだ!」
「肉がうめ~~!」
「ほんっとうに美味しいです!」
「もっと! もっと! おかわり!!」
「たくさんたべたい!!」
なんて声を上げながらワイワイと騒ぐ子供達。
もっと食べたいのなら自分達で作るしかないのだけど、子供達の意識は完全に食べることだけに向いてしまっているようだ。
仕方なしに大人達で追加を作ろうとするが……何しろ飯盒やメスティンが人間サイズ、獣人の食欲を満たすには小さすぎて間に合わない。
慌ててレイさんがポータブル電源と炊飯器を持ってきてくれて、大鍋でのカレー作りも始まって……追加のトッピング作りも家の台所で行わなければならない。
……まさかこんなことになろうとは。
いや、今までのイベントでも食欲を爆発させていたし、普段コン君達の食欲を見てもいたし、ある程度は予想していたのだけど、今回のこれは予想以上だ。
「……皆成長してきたということだな……!」
と、忙しく駆け回りながらテチさん。
そう言えばこの森に来てからもう一年と数ヶ月になるのか……。
それだけの時間があれば子供はうんと大きく成長するし、食べる量だって相応に増えるし……うん、去年と同じ量では足りなくなって当然だろう。
更に言うなら何人か、新しく畑にやってきた子供達もいて……単純に人数が増えているというのも考慮に入れておくべきだったか。
うっかりしていた……そしてその代償を今支払うことになっている……。
「と、とにかく今は乗り切ることだけを考えよう! 反省会は終わった後で!」
と、そんなことを言いながら俺は台所を動き回り……それを受けて集まった大人達は忙しなく、子供達のために働き続けるのだった。
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