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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第四章 コンフィなど結婚式のごちそう

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試作コンフィ


 コンフィ、語源はフランス語のコンフィルで、その意味は『保存する』。


 保存食作りを趣味としている身としてはこれ以上ない保存食だというのに、何故今の今までこの料理を知らなかったのだろうか。


 いや、正確なことを言うとフランス料理としてのコンフィのことは知っていたのだけど、まさかそれが保存食だとは思ってもいなかったのだ。

 ただの鶏肉料理というかなんというか、鶏肉のローストくらいの意味だろうと思っていて……まぁ、レストランとかで食べる分には、調理工程を知ることはないし、それも仕方のないことなのかもしれない。


 ネットなどで調べた感じでは基本的な料理法としては下味をつけてから油で煮て、その後にオーブンで焼く訳だけども、味や香りをつけた油で煮たり、オーブンで焼く際に味をつけたりと色々な料理法があるようだ。


 そして煮るときにはとにかく、一定の低温でじっくりと煮ることが重要であるらしく、ここを失敗してしまうと肉が固くなりすぎたり、ぐずぐずになってしまったりと中々難しい料理であるらしい。


 安定するのは油をいれた鍋ごとオーブンに入れてしまってオーブンで加熱するという方法と……それと、炊飯ジャーを使ってしまうという方法。

 

 一定の低温で、長時間加熱。

 炊飯ジャーの得意分野というかなんというか、温度管理もすごく楽で、おあつらえ向きとはまさにこのことだろう。


 ちょっとした工夫がいるし、オーブンよりは味が落ちることもあるそうだけども……楽に確実に調理できるならそれに越したことはないからなぁ。


 後はまぁ、コンフィには肉+油という調理法の関係で、カロリーがとんでもないことになるという欠点もあるのだけど、高カロリーを求めているテチさんとコン君的には全く問題ないのだろう。


 ……俺に関しては……よく運動をしてカロリーを消費していくしかないかな。


 そんな風に調べ物をして就寝して翌日。


 昼食を終えてスーパーに買い物にいって、試作コンフィ用の鶏肉を何個か買って帰ってきて……もう一日預かることになったコン君と一緒に夕食の準備をしていると、仕事を終えたテチさんが帰ってくる。


「おかえり」


「おかえりー」


 俺とコン君がそう声を上げるとテチさんは「ただいま」と返してきながら洗面所へと向かい、手洗いうがいなどなどを済ませてから……台所へとやってきて、何処か申し訳なさそうにしながら、何か言いたいことがあるらしく、話を切り出してくる。


「あー……その、なんだ。

 昨日のコンフィの話を家族にしたらな……皆もその、コンフィを食べたくなってしまったそうなんだ」


「ああ、うん、そういうことなら今度機会を作って皆で食べようか。

 前のバーベキューみたいにしてさ」


 俺がそう返すとテチさんは、更に申し訳なさそうにしながら言葉を続けてくる。


「いや、それが……どうしてそうなってしまったのか、皆は結婚式の時に食べられるものだと、そう思い込んでしまっているんだ。

 結婚式の日程が決まったこととかと同時に話をしてしまったのが悪かったのか、いつの間にやらそんな流れになってしまってな……だから、その、今から間に合うだろうか?」


「あー……うん、まぁ……うん。

 燻製とかと違って漬け込む必要がないから出来なくはないんだけど、問題は美味しくできるかどうかってところかなぁ」


 何しろ俺はまだコンフィ初心者で、相手は歴史と伝統のある奥深いフランス料理。

 素人が準備不足、経験不足の状態でやってどこまで美味しいものができるかは……なんとも微妙な所だろう。


「……美味しくなくてもまぁ、問題はないさ。実椋ならそれなりのものに仕上げてくれるに違いないしな……。

 だからまぁ……うん、来週の結婚式の時によろしく頼むよ」


「うん、そういうことなら了解したよ。

 ……ただ、あれだよ? 燻製肉丼も結構なカロリーで、それにコンフィと更にウナギとか食べるとなると、獣人にしても多すぎるんじゃないかってくらいのカロリー量になっちゃうんだけど……その点は大丈夫なのかな?」


「ああ、カロリーとかそこら辺のことは全く問題ないだろう。

 一日や二日、食べすぎてしまったとしても、翌日よく働いてよく体を動かせばそれで済む話だ」


「うぅん、流石獣人というかなんというか……凄まじいなぁ、本当に」


 俺がそんなことを言って、呆れ半分驚き半分の表情をしていると、いつも使っているのとは違う、曾祖父ちゃんが使っていた旧型の炊飯ジャーがピーっとアラーム音を鳴らす。


 それは事前に予約設定しておいた保温が切れるよとの合図で……それを受けてテーブルの上に置かれた炊飯ジャーの前で正座をしていたコン君の耳と尻尾がピンと立つ。


「ミクラにーちゃん! できたよ!!」


 嬉しそうに弾む声でコン君がそう言ってきて、俺はその声に微笑みながら炊飯ジャーの蓋をあける。


 炊飯ジャーでコンフィを作る場合は、まさかジャーの中になみなみ油を注ぐ訳にもいかないので、市販のチャック付き保存袋を使うことになる。


 保存袋に鳥の骨付きモモ肉を入れてオリーブ油をいれて……ハーブ、タイムやローズマリーを入れて、ニンニクやらを入れて……好みでイタリアンパセリやローリエを入れても良いのかもしれない。

 

 肉を入れるだけじゃなくてジャガイモとかニンジンとかの副菜も一緒に保存袋に入れてしまって加熱するというのも一つの手なんだけども、今回はあくまでコンフィの練習なので副菜に関してはノータッチとなっている。


 ともあれそうしたら、今度は保存袋から空気を抜く作業だ。

 完璧には無理でもそれでも可能な限り頑張って空気を脱いたなら、しっかりとチャックを閉めて……70~80度のお湯をジャーの中にいれて、そこに保存袋を沈める。


 後は保温ボタンを押して3~5時間放っておいたら加熱は完了で……今回は4時間のタイマーを使っての調理となる。


 炊飯ジャーでの加熱は、鍋で煮るよりは使う油の量も少なく済むし、その後の処理が簡単だし、保存袋を使っておけば炊飯ジャーを油で汚したり変な匂いをつけたりもしないので、手軽にコンフィを作りたいならこの方法が一番なんじゃないかと思う。


 問題は味の方なのだけど……それに関してはこれからしっかりと仕上げて、試食してみないことには分からないかな。


 なんてことを考えながら保存袋の端を摘み、炊飯ジャーから引っ張り出したら、それを流し台へと持っていき……保存袋の中から骨付き肉をトングでもって引っ張り出し、用意しておいたフライパンの上に乗せる。


 すると事前に加熱しておいたフライパンはなんとも良い音を立て始めて……後はフライパンでもって皮がぱりっとするまで加熱したら完成だ。


 もちろんオーブンで焼いた方が美味しく仕上がるので、できるのならばそうした方が良い。


 今回はあくまで練習、手軽に作りたいと思ってのことなので、フライパンで簡単にさっさと三人分……三つの骨付き肉を焼き上げていく。


 匂いはハーブを使っただけあって完璧、肉も硬すぎないようだし、ボロボロ崩れるという感じもない。


 段々と皮に良い焼色がついてきて……その様子をすぐ側で見ていたコン君とテチさんが「ぐー」とお腹を鳴らし始める。


「あー……うん。

 パンとかサラダとか、スープも用意してあるから、配膳を始めてくれるかな?

 コンフィも焼き上がり次第もっていくから、もうちょっとだけ待っていてよ」


 そんな二人に俺がそう言うと、二人は凄まじい機敏さで動き始めて……いつになくテキパキと配膳を仕上げていくのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 何年か前にテレビで、科学の実験用の器具で油を一定の温度に保って鴨肉を調理している料理人を紹介してました。 今は鍋に差し込む棒状の低温調理器があるようですが、温度を一定に保つのって大変ですね…
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