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年下の女の子

「明後日には到着予定だが、調子はどうだ?」

「ふふっ、余裕だよ。挨拶のお辞儀とか、俺、もう神がかってるし」

「……やってみろ」


 夜、旦那様が軽い調子で聞いてきたので、俺は立ち上がって寝間着だけどスカートではあるのでそのままカーテシーを行う。

 どうだ? と旦那様の様子を伺うと、相変わらずの仏頂面でふん、と鼻をならした。


「まぁまぁだな。相手が相手だ。構わんだろう」

「またまた、もっと素直に褒めてもいいんだよ?」

「お前が二ケタにならない年の幼子なら褒めてやる段階だ。調子に乗るな」

「ぐぬ、ひどい。旦那様辛辣」

「ほう、難しい言葉を知っているな」

「こら! 侮辱だぞ」

「はいはい。お前ほどではないから、安心しろ」


 うー、何だよ。全然褒めてくれない。システィアは、旦那様相手には十分に合格点をもらえるって太鼓判押してくれたのに。あと、お辞儀だけじゃなくて、普通に淑女らしい話題の振り方とか、お茶会のマナーとかについても、ちゃんと学んでるのに。

 むぅ。なんでー? 褒めてもらえると思ってたのに。システィアは褒めてくれたけど、それだけじゃ足りないー。もっともっと甘やかしてよ! ぐぬぬ。


「もう、旦那様はほんと駄目だなぁ。ここは、頭撫でて褒めてくれたら好感度上がるとこなのに」

「……ふん。そうお前の都合通り、何でも進むと思うなよ。いいから早く座って頭を下げろ」

「わーい」


 座って頭を旦那様に向けると、撫でてくれた。ふふふ。よかろう。これだよ。私が求めていたのはこれだよ。

 気分がいいので、そのまま体を倒して、旦那様の膝に身をゆだねる。膝に半分身を乗り出すくらいのっかかる。結構勢いよく乗ったのに、全然動かない。旦那様凄いなぁ。

 膝も何だか固くて、撫でているだけで、どきどきしてきちゃうなぁ。


「あ、旦那様、ちゃんと頭は撫でてよぉ。私はまだまだ、褒められたりないよぅ」

「べ、別に、褒めているわけではない。調子に乗るなよ。俺は別に……」


 と言いながら、旦那様は俺の頭をちょっと乱暴に撫でるのを再開する。上にも旦那様、下にも旦那様。これはいい。


「ねぇ、旦那様。来るのって8歳の女の子なんだよね?」

「ん? ああ、言っただろう?」

「……可愛い子?」

「俺が最後にあったのは、2年前だ。男女として認識する年じゃないだろう」

「えー? 私のことは、じゃあ何歳の時から、お嫁さんにしようと思ってたの?」

「……お前は、女だから、男だからと、そう言う存在ではない」


 あれ、子供のころから目をつけられていたとは知っているけど、マジで8歳どころかもっと幼いころからなの? うーん。なんか、前は、きもって思ったけど、今は、むずがゆいって言うか、なんか……うう。この、ロリコンめ!


「うー、旦那様ー……頑張るから、終わったら、また、デートに行こうね」

「ああ……そうだな。お前も頑張っていたからな。お前が良ければ、来週から、少し離れたところにある、家が直接経営している農地などを見に行くが、お前も行くか?」

「えっ、そんなイベントが!?」

「ああ」

「行く行く! え、って言うか、女の子来なくて、俺が頑張らなかったら俺お留守番だったの? 旦那様一人だけで行ってたの?」

「遊びに行くわけではないし、三日程度だ。だがまぁ、俺が直接顔を出して、気にかけていることを分からせることが主な目的だ。お前がどうしてもと言うなら、妻として、連れて行ってもいいだろう」

「行くー!」


 うわー、そんなの絶対楽しみじゃん! 農地って言ってるけど、牧畜もしてるのかな? 牛とか馬とか、前世でも見たことないし、すごい楽しみ!

 旦那様の物言いに引っかかる部分がないとは言わないけど、でも行けるならこの際いいや! わーい。がぜんやる気が出てきた!


「旦那様、俺、頑張るね」

「ああ。そうしてくれ」


 旦那様が撫でてくる手に、頭をこすりつけながら気合を入れた。旦那様は目を細めて、ちょっとだけ口元をゆるめた。









「遠いところ、ようこそおいでくださいました。クリフォード・マクベアの妻、シャーリーでございます。お目にかかれて光栄です」


 正しい手順で部屋に入り、順番を守ってきちんと礼をして挨拶をした。我ながら完璧である。そして後は、ひたすらあたりさわりなく、可愛い笑顔でいる。これに尽きる。

 にこにこしていると、すぐに旦那様がじゃあ二人で話すから、俺とその子供のアンジェリカが二人で会うことになり、素早くお茶会の準備がされた中庭へ移動した。これにて第一段階はクリアだ。


 この後は、とりあえずアンジェリカちゃんをおだてて、無難に時間を稼げば終わりだ。ふっ。造作もない。

 用意された席に向かい合って座り、改めて軽く会釈しながら挨拶をする。


「改めまして、初めまして、アンジェリカ様。今日はよろしくお願いしますね」

「はい。突然の訪問を、快く受け入れてくださったこと、私からもお礼を言わせていただきますね」


 おー……さっきの挨拶もそうだったけど、二人きりになってもぶれないで、ちょーしっかりしてるなぁ。これが貴族の女の子か。うう。練習通りできるか、不安になってきた。


「どういたしまして。退屈していたところなので、お客様はいつでも大歓迎ですわ」


 なーんてな。今のところ、システィアの考えた会話の流れ通りだ。この次は、会話の主導権を握って誘導していかないとな。


「私どもの領地の特産品である、リラブルを用意しておりますわ。時期が短いので、王都ではそれほど出回っていませんから、お楽しみいただけるのではないかと思い、お持ちしました。今、出してもよろしいですか?」

「!」


 お、おっと! ここは俺から、用意したお茶菓子の話題を振るつもりだったのに。でも、そのリラブルってのは知ってるぞ。システィアが用意した話題の一つで、確かモモ系で、黄色の甘い果物だよな。旦那様も、二人が来たらお土産に持ってきてくれるはずって言ってた!

 えっと、えっと。


「はい、是非お願いします。私も、旦那様からお話を聞いて、食べられる日を楽しみにしておりましたの」


 こ、こんな感じかな。うん。システィアも微笑んでいるぞ。

 俺が了承したことで、アンジェリカが自分付きの侍女に指示を出して、テーブルに果物が用意される。思っていたより小さい。スモモって感じだ。ほう。


「これがリラブルなのですか。初めて見ましたわ」

「繊細なものなので、長距離輸送に耐えませんから。シャーリー様は王都から出られたことがないそうですから、当然ですわね」


 耐えませんから……なんか、言い回し固いなぁ。いや、そういうものだって習ったけど、ぱっと出るか普通。8歳児が。気合を入れねば。これはミスできない。お互い練習とかって旦那様言ってたけど、全然相手練習感ない。


「さぁ、どうぞ召し上がってください」

「は、はい」


 って、え? これどうやって食べるの? 皮ついてるけど。え? いっつも果物は、皮剥いて切り分けてフォーク刺した状態で出されてたけど、これ、マナー的にはどうするの? ブドウとか……も、自分で皮むいてないや。前世だと皮ごと口にいれてむいてたけど、こっちだと剥かれたのを用意されてた。

 あ、それはともかく、これは……このまま出されたんだから、皮ごとだよね。うん、そのはず……は! 違う。ひっかけだ! システィアがさっきから下手くそなウインクしてる。これは自分を使えってことだ!


「システィア、お願い」

「はい。すぐに」


 短くお願いすることで、内容を知らなくても、さぞ知っていて指示した体を装える。完璧な擬態だ。

 システィアはナイフを使ってするっと皮をむくと素早く皿にのせてだした。出されてすぐに、よっぽど身が柔らかいのか、自重で実が崩れてきている。


「では、いただきますね」


 慌てて見えないように気を付けて、そっとフォークで端を切って食べる。


「あ、美味しい」


 甘い。遺伝子操作とかしてない時代なのに、こんな甘いものなのか。あと、皮がないと駄目なくらい柔らかいから、溶けているみたいで、その食感も面白い。デザートみたいだ。

 って、素で反応してしまった。


「とても美味しいです。こんなに美味しいものと出会えて幸せです。ありがとうございます、アンジェリカ様」

「……どういたしまして、それほどまでに喜んでいただき、こちらとしても光栄です」


 よし、セーフ。じゃ、今度はこっちの番だな。


「ではアンジェリカ様、私の方でも、アンジェリカ様に喜んでもらうために、ご用意させていただいたお茶菓子があるのです。こちら、試していただけますでしょうか?」

「まぁ、ありがとうございます。嬉しいですわ」


 よしよし。この調子で、食べ物の話題を続けるのだ。だって女の子が興味あって俺が多弁に話せるのって、精々が食事に関するくらいだし。


 アンジェリカの様子を伺いながら、俺はお茶会を続けた。


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