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私のクラスに異世界の王子達がいるんだけど  作者: 奏多
第二部 恋する筋肉のトゥイスベルク

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2-10

 その日、私は目の下にうっすらとクマを作ったまま登校した。


 前日はヴィラマインの高級マンションにお呼ばれした。

 可愛らしいレースで飾られたカーテンやテーブルクロス、綺麗な花に彩られた部屋の中。紅茶を片手にうふふあははと会話をするわけではなく。

 ……筋肉を見つめ続けました。


 ヴィラマインはきゃっきゃとはしゃいでいた。友達を家に招待して遊べるのも嬉しかったらしいが、一緒に筋肉を観賞してくれたことに感激したらしい。

 そんな彼女が満面の笑みを浮かべながら説明してくれたので、とにかくヴィラマインの好みは把握した。うん。

 だけどオイル塗ってテラっとした隆々の筋肉が頭に焼き付いて、眠れなかった……。


 でも準備は万端だろう。頭がふらつくけど。

 小道具の世界史の教科書と、先生の筋肉がよくわかる写真も持って来た。


 ふらつきながら教室へやってきて、国語の時間は睡眠学習と思い定めて入眠。

 アンドリューやヴィラマインに心配されながら英語の授業を助けてもらい、なんとか放課後までたどり着いた。

 今日のヴィラマイン王女素敵筋肉選考会を開催する場所は、四階の第二視聴覚室だ。

 大画面のモニターの前は、舞台にできそうなちょっとした雛段がある。というか、演劇部とかが小さな劇をここで上演したりしている。

 そういう用途を考えてなのか、ひな壇前には緞帳を閉じることができるようになっていて、隅の扉から舞台裏に使える小部屋に出入りできたりするのだ。


 部屋を押さえていたリーケ皇女がここを借りてくれていた。

 私が用意したことになっている出場者も、リーケ皇女と彼女の国の騎士が誘導やらを引き受けてくれた。

 ヴィラマインと一緒に参加協力のお礼と挨拶をしたが、二人とも純粋に、筋肉比べができることを喜んでくれていた。ありがたい。


 そうしてヴィラマインと私、アンドリュー、ディナン公子達三人の求婚者が、視聴覚室の最前席に座って、筋肉自慢達を待ち構えている。

 やがて準備が整ったのか、リーケ皇女が閉じられた緞帳の前に立った。


「では、ヴィラマイン王女の目に適う筋肉自慢の方を探す品評会を始めましょう。まずはノルベルト殿下の選んだ三名から」


 リーケ皇女の合図で、緞帳が開かれる。

 そこに立っていた三人は、最初から隆々とした筋肉を見せつけるべくポーズをとっていた。ボディビルディング的な感じでと、聞いたからだろう。

 慣れたつもりでも、なんか上半身裸男子を直視するのはやっぱり気恥ずかしい。

 これで年齢差があったら良かったんだろうけど、なまじ年が違い人ばかりだと変な感じがするんだ。


 あと、下はボクサーみたいなハーフパンツで助かった……。

 私的にはズボンでいいと思うんだけどね。ヴィラマインは足の筋肉も重要とか言い出すんだから仕方ない。太ももまで露出しなかっただけマシだ。


 ノルベルト王子の選んだ三人は、学校のレスリング部から勧誘してきたようだ。

 確かに筋肉はしっかりとついている。でもこう、どこかむちっとした感じがするのはなんでだろう。筋肉がはちきれそうな感じは伝わってくる。

 隣のヴィラマインも真剣ながらも「ちょっと違う」と言いたい目をしていた。

 昨日叩きこまれたヴィラマインの好みと違うのは間違いない。


「次はフローリス殿下が選んだ三名です」


 次の三名は、わりとバラバラな運動をしていそうな部から勧誘してきたっぽい。どんな競技をしているのか私にはわからないけど、どちらかというと上半身からお腹までの筋肉量がすごい。叩いたら堅そう。

 ……と検分しながら、同級生の裸をじっくり見てる自分が嫌になってきた。

 ああ早く終わらないかなこれ。

 ヴィラマインはもちろん、頬を染めて彼らを見つめている。


 エドよ。ヴィラマインを釣りたいのなら、やっぱり君も筋肉を集めるべきかもしれないぞ。


「次がディナン公子の選んだ三名です」


 次に現れた三人は……ちょっと危なかった。

 肩幅とか、がっしりとした胸板とか、ヴィラマインの好きな要素が……ほら、ヴィラマインがちょっと身を乗り出してる。

 肘でつついて、何でもないふりをしろと合図を出し、ようやくヴィラマインが我に返った。危ない……。


「ヴィラマイン様。この中でお気に召した方はいらっしゃいませんでしたか?」


 ずらりと並ぶ9名を手で示して、ディナン公子が立ち上がる。

 さっきの様子を見ていて、ヴィラマインが自分の選んだ三人に心ひかれていたのがわかったからだろう。

 そしてヴィラマインは、好みに遭遇して心がぐらついていた。


「ええと……」


 彼女の目が、じっと一点に注がれていた。

 それはディナン公子が連れてきた、バスケットボールの三年生。背の高い彼は肩幅も広く異世界人並みだ。私もおっと思って何度もちら見してしまった。

 まだ私の番が残っているとはいえ、この時点で誰かを選ばれてしまったら、後で押しきられる要素を残してしまう。危険だ。急がなくては。


「待って下さい。まだ私が選んだ三人をお見せしていませんよ。その三人と比較しながら、ヴィラマインには講評してもらいます!」

「そうですわね。全員が並んでもらった方がいいでしょう」


 リーケ皇女もうなずいて一度緞帳を閉じさせてしまう。

 ディナン公子が悔し気な表情をしているが、私はほっとした。


「……ヴィラマイン。お待ちかねの人が来るわよ?」


 私は隣のヴィラマインの耳元にささやき、彼女がはっと目を見開いた。

 そうして登場した三人を見て、彼女は恋をしている乙女のように頬を赤らめ、ふんわりと笑顔を浮かべる。


 ……良かった。

 写真だけで選んだ上、ここに登場するまでヴィラマインは服を着た彼らとしか会っていないのだ。すなわち、まだ筋肉を拝んでなかったわけで。

 理想に近い筋肉を目の当たりにしたヴィラマインは、まさに恍惚とした表情をしている。

 もうこの三人以外からは選びようがないだろう。


 だけど私は、約一名をどうしても直視できなくて困っていたけれど。

 ボディビルディングを趣味にしている二人は、夏のセールの広告に出られそうなほどこんがりと日焼けしてきた上に体にオイルまで塗り、ぐっと力を入れてポーズまでとってみせる。

 ボディビルディングのことを良く知らない異世界の王子達は、二人の動作の理由はわかっていても、その自信満々な様子に押されたのかやや引き気味だった。


 そんな二人のとなりでじっとしているエドは、日焼けしていると言っても元が色白の人種だ。

 異世界人の騎士は、普通の人よりは筋肉がそれほどがっしりとつかないらしいというのはエドにも適用されていて、人を抱えたまま恐ろしい高低差をジャンプしたりできるわりには細身だった。


 っていうか、やっぱり良く知っている人間の裸なんて恥ずかしい。

 だけど昨日のヴィラマインの解説が頭にこびりついてしまっているせいだろう。どうしても足に目が行く。筋肉のラインを目でなぞってしまって、そんな自分に頭の中で苦悶した。

 うう、自分が変態になった気分……。

 でも私は今から解説しなくてはならない。自信満々に。


「この三人なら、間違いなくヴィラマイン王女のおめがねに適うはずです」


 そう発言しながら、私は心の中で誓った。

 この選考会が終わったら、しばらく二次元の世界に没頭しよう。誰か乙女ゲーム好きがいたよね。そっちならきっと、服を脱いで筋肉を見せつけるキャラはいるまい。

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