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異世界から来た奴がモテモテチート過ぎてウザい  作者: 痛瀬河 病
第三章 祭りに群がる者たち
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半裸、ビリビリ

 四老獣バサギと相対するのは半裸のセブンズの一人ナナキだった。端の方ではもう一人のセブンズ、ムッツリもバサギの隙を狙っている。


「私のような強者と戦う時、相手は大抵ガチガチの装備を整えるものです。それをまさか半裸で向かってくる人がいるなんて驚きですよ」

「ふん、僕だって出来ればこんな醜い戦闘スタイルは使いたくなかったんだけどねッ!」


 ナナキは駆け出し、バサギとの距離を詰めた。

 しかし、獣族随一のスピードを持つ、彼女に人間のナナキの攻撃が当たるはずはない。

 ナナキが振り被った剣をバサギはゆっくり余裕を持って避けた。


(結局、何のための半裸なんだろ? 私が好みの見た目って言ったから油断でも誘ってるのかな?)


 バサギは呑気な思考で、攻撃を躱したが次の瞬間痛覚に危険信号が走る。


「っ! なに⁉」


 バサギは痛みに顔をしかめ、目を閉じた。

 その瞬間を見逃さなかったムッツリは銃弾を放つ。


「ちっ!」


 バサギは目を閉じていても、その長い耳で音を拾い、これを辛うじて躱す。

 だが、次に目を開けた瞬間には目の前にナナキが距離を詰めていた。

 両手剣を薙ぐが、これもバサギは余裕をもって躱した。


 だが、腹部に刺すような痛みが走る。


(なんで‼)


 バサギはこのままではまずいと、その跳躍力でバックステップし二人から距離を取る。

 人間より高位である獣族。

 その更に最上位に位置する四老獣の自分が人間相手に距離を取る事への屈辱は計り知れないものだった。


 バサギはまだ痛みの残る顔や腹部を手で探る。


(この痛みは剣による刺すや斬るような類の痛みじゃない。多分、剣は目くらましなんだ)

 痛みの種類はひりひりと痺れるような類の痛み。

 肌は何かが擦れたように焼き切れ、爛れている。

 

 バサギは口を一文字に結び、今度は自分から仕掛ける。

 分からないなら、分からなくてもいい。

 攻撃手段など判明する前に絶命させればいい。


 彼女の先ほどまでの余裕が消え、獲物を狩る捕食者の炎が瞳に宿る。

 そもそも両者には埋められないスペック差がある。

 案の定、ナナキはバサギのスピードに対応できていない。

 地面を滑るように移動したバサギはその拳をナナキの心臓めがけて突き上げる。

 ナナキはこれをモロに喰らい、嗚咽を漏らす。


(……あ?)


 が、同時にバサギの拳には先ほど同様の痛みが走った。

 何をされたのか分からない。

 その一瞬の混乱を見逃さずにムッツリは銃弾を放つ。

 それは呆けて反応の遅れたバサギの頬を掠める。


「ちっ、もうなんだって言うんですか」


 バサギは苛立ち、今度は援護射撃をしているムッツリの方へ駆け出した。

 ムッツリは狙いが自分であることに気が付き、咄嗟に腰に携帯していたダガーをバサギに向けて投げた。


「そんなもの当たりませんよ」


 バサギはこれを首を傾ける最小の動きで躱す。

(獲った)


 バサギの正面にいたムッツリが消える。

 バサギの超至近距離、背後にムッツリが現れた。


 ムッツリは拳銃を構え、発射する。

 流石にこれはバサギも避けようがなかった。


―パァン



【能力名】

 道化(ジャ・)魔術師(グリング) 

【LEVEL】

LEVEL8  

~次のLEVELまで、合計三十七万キロの投擲が必要。

【スキル詳細】

 自身が投げた物と自身の位置を反転させる。

 ただし、投げてから一時間以内、自身との距離半径百メートル以内の物体に限る。

 同じ物体に二度以上このスキルを使用することは出来ない。



 ムッツリは自身のスキルを用いて、バサギの背後を通過したダガーとの位置を入れ替え、背後を取り、銃弾を見事バサギの右肩に命中させた。

 が、バサギ、獣族の反射神経を無視するほどの至近距離での射撃。それは当然、自身が攻撃の射程圏内に入ることを意味する。

 バサギの裏拳がムッツリの頬に強く打ち付けられ、彼は昏倒した。


「くそ、くそ、くそ、くそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそ‼‼‼」


 バサギは銃弾の通過した右肩を抑え、目と歯茎を剥き出しにする。

 怒りで頭に血が上り、そのぶつける方向を見失う。そして、まるで靴の裏のガムでも払うように念入りに何度も何度も地面を蹴る。

 ナナキ、ムッツリ、どれだけ優れている兵士といえども、これは人間の範疇での話。獣族の自分が後れを取って良い存在ではない。バサギは屈辱に打ち震えていた。

 だが、彼女も呑気そうに見えても歴戦の猛者。

 頭を切り替える為に静かに呼吸を整える。


(そう言えば、オオカが言っていたっけ。人間は亜人の下位互換。亜人程便利で多彩で高火力の攻撃手段はない。だけど、逆を言えば、亜人は自分たちでどれでも何個でも覚えられるが故に、各部門ごとの攻撃パターンの最大値が重なる事が多い。炎ならゼロ距離着火。雷なら直下落雷。それぞれの分野で最高火力、最適パターンの技を覚える。というより覚えた方が戦力になるので、そう教える。だから、亜人は多彩だけど、どれも見覚えを感じ私達は感覚で回避できることも多い。しかし、人間のスキル? は、亜人のマジックと違い覚えられる数も少なく、そもそも選べない事も多い。制約も面倒なものがあるらしい。だが、それしか武器がないのだ。だからこそその武器を磨き上げる。武器にまで昇華できる人間は少ないが、武器にまで磨き上げられればそれはオンリーワン、格上相手にも牙が届きうる存在になる可能性もあるとかないとか)


 バサギは息を吐いた。

 不覚を取った。

 だけど、一人は倒した。

 止めを刺しておきたいが、それは目の前にいるナナキの攻撃の格好の的になることは重々承知していた。

 つまり、ナナキを倒し、殺し、その後に昏倒しているムッツリを殺す必要がある。

 只の背景を破るのではない。

 明確に敵として殺すのだ。

 バサギは改めて目の前の半裸のパンツを被ったナナキを見据える。

 彼はいつでも戦闘に入れるように小刻みに揺れている。

 ふざけたことにこれが今の敵なのだ。


「ふぅ、見苦しいところをお見せしてしまいましたね」

「それ、僕の今の格好を見てわざと言っているだろう」

「まさか、それよりお仲間を助けないでいいんですか?」

「そんなことしたら、その瞬間に君に殺されるからね」

「ですねっ!」


 始まりはバサギが仕掛けた。

 ナナキは目で追うのではなく感覚で目の前で剣を振った。

 その剣はバサギの数センチ手前を通過する。

 が、


(知ってます。痺れるんでしょ)


 バサギの首筋に痛みが走った。

 が、今度はそれを無視し、剣を振りきったナナキのがら空きの腹部に拳を突き刺す。


(慣れてしまえば、一度や二度耐えられない痛みじゃない)


 が、その拳は少なくとも今回の戦闘では使い物にならなくなった。


「っ⁉⁉⁉」


 今までの比ではない痛みがバサギの拳から全身に駆け巡った。

 腹部を殴れば先ほど同様痛みが走るのは理解していた。

 だけど、今の痺れは今日の戦闘で最も大きい。

 人間はスキルを使う。

 この攻撃がその類であることは明白だ。

 ならば、何か? 

 剣を躱しても、直接殴ってもダメージを与えることの出来る攻撃。


(何それ、便利過ぎるでしょ)


 バサギはナナキを観察する。

 凝視する。

 彼はこちらの攻撃にいつでも対応できるように小刻みにリズムを取っている。早紀穂dの攻撃も目では追えないのでバサギのスピードを読んで、感覚で剣を振っていた。


(本当にそれだけ?)


 バサギはここに違和感を覚えた。

 バサギはもう開閉も億劫になっている左拳に視線を落とした。

 皮膚は爛れ、今も痺れが継続してチリチリと残っている。

 先ほどより腹部を殴った際に痛みの威力が増していた。ここに相手のスキルの正体があるはずだ。バサギはそう睨んでいた。

(湿っている?)

 バサギは左拳をあげ、目の前で凝視する。

 拳が僅かに湿っているのだ。

 その液体の正体を獣族の嗅覚で嗅ぎつける。

(ふーん)


「どうした? こないならこちらからいくぞ」


 ナナキは痺れを切らして、もしくは自分のスキルを突き止められるのを恐れて今度は自分から仕掛けた。

 三度、剣を薙ぐ。

 だが、今度は明確な変化があった。

 それはナナキにではなく、バサギの方にだ。

剣を振るはるか前から大袈裟ともいえるぐらい後退し、三十メートル近く距離を取った。


「……やっぱり、もう痺れない」


 バサギは口に笑みを浮かべる。


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