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異世界から来た奴がモテモテチート過ぎてウザい  作者: 痛瀬河 病
第三章 祭りに群がる者たち
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絶望の能力、鬼

―トプン


 そんな音がした気がした。

 そして、音がしたかしていないかはともかくとして、大鎌の刃が消えた。


「な!」


 否、消えたのではない。

 地面に沈んでいるのだ。

 鬼々はその大鎌の刃を地面に潜らせたまま、ルークと神崎のもとに走り寄ってくる。

 

(くそ、刃の軌道が読めない)


 鬼々の持っている鎌は刃が大きなこと以外至ってシンプル。

 長い柄の部分にも目立った装飾はない。つまり、刃が隠れてしまえば、その刃がどちら方向を向いているのか完全にわからないのだ。

 神崎はともかく完全にスピードで負けているルークは大鎌を持つ鬼々にすぐに追いつかれた。


「ざぷーん」


 鬼々のそのふざけた調子の声で大鎌は地面からせり上がってくる。

 大鎌の柄が袖に隠れていたため気が付かなかったが、限界まで先端を持っていたようで、大鎌の刃はルークの股を潜り背後から現れた。


「ルーク!」

「くそ!」


 ルークは反応が遅れ、苦し紛れに前進し鬼々に突進する形をとる。

 鬼々の拳がルークを襲うのは覚悟して身を固める。


(何発が殴られても切り裂かれるよりはましだ。あわよくば、このまま押し倒す)


 しかし、ルークの予想は大きく外れた。

 大鎌があり得ない軌道を描いたのだ。

 鬼々は大鎌を一気に自分の方へ引き寄せた。それも引き寄せるなんて生易しいものじゃない。まるで、自分ごとルークを切ろうとでもする勢いだ。

 

―スパァ


 結果として切られたのはルークの背中だけだった。


「ぐっ」


 ルークはそのまま地面に転がると、強華が慌てて駆け寄り、脇抱えたまま鬼々から距離をとり、傷を見る。


「ルーク、傷は」

「背中を切られた。そこまで深くないが、止血を頼む」


 鬼々はその様子を見て、ここにきて初めてルークに興味を抱いた。


「あと、一歩踏み込む勢いが足りなければ、背骨のあたりまでがっつり裂けていた。鬼々が鬼だとわかっていて、よく全力で懐に飛び込めたね。凄い勇気。実はルークが三人の中で一番強い?」

「ふっ、それだけはないな」


 ルークは痛みに耐え、苦悶の表情の中でも無理に笑みを作った。浅くない傷を負った。しかし、それは代償だ。得たものも確かにあった。


「……透過か?」

「ルーク?」


 神崎はルークの呟きに怪訝な顔をする。


「今、俺はこいつの懐に飛び込んだ。だが、気が付けば背中を切られ、地面の転がっていた。自分の懐に向かう俺に鎌をふるうなんて自分ごと切れてしまうはずだ。おそらく、こいつは武器を透過させて地面や壁に潜らせたり、自分を透過させて自分の武器で傷付かないようにしているんだ」

「ワタシもそれがしっくりくる」


 強華も頷く。

 だが、神崎だけが納得がいっていない様子だった。透過、確かに現状その能力を鬼々が有していると考えるのが妥当なのかもしれない。でも、それならば自分との出会い頭に、こちらが全く認識できずに現れたトリックは?

 透過とは、突然相手の目の前に現れたり出来るものなのか?


「……ルーク、決めつけは危険だよ」


 確信はない。だから、神崎は警告にとどめた。


「あぁ、分かっている。数ある中の可能性として考えておいてくれ」


 三人が情報の共有をしているさまを見ていて鬼々は冷めていくのを感じた。そんな必死になって自分のこの力を当てようとしたところで意味はないのに。

 知ったところで絶対に攻略なんて出来ない。


「鬼って、なんで、なんでそう呼ばれているか知ってる?」


 鬼々は三人の誰と話すでもなく口を開いた。三人は様子を探っているのか、誰も返事はしない。


「鬼の言葉の由来は(おぬ)。そこに(おぬ)。どこにでもいて、どこにもいない。(おぬ)存在にすら誰もが恐怖する。いないのに、そこにいるのではないかと恐怖する。そして、いないと一たび胸を撫で下ろせば、そこにいる。そういう存在をいつしか魔族の間では(おぬ)、そして、おに、鬼と呼ぶようになった。もうかれこれ数千年も前のお話だけどね」


『恐怖の作り出した化け物』


 それはいつしか骨格を持ち、肉をつけ、動き出す。


 鬼々はすぅっとその存在が儚くなる。そして、完全にルークたちに視認できなくなると、その声だけがその場に響いた。


『見えないものへの恐怖は次第に肥大し、際限なく大きくなる』


 三人は辺りを見渡すが、影すらつかめない。

 

『一人目』


 強華の腹に拳が刺さった。

 神崎とルークはすぐに強華に視線を向けたが、わずかに鬼々の小さな手と鬼々が先ほどまで身に着けていた衣服の長い袖が見えただけで、すぐにまた虚空へと消えていった。


「強華!」


 ルークが蹲る強華に声をかけ近寄ったが、それは悪手だった。


『二人目』


 強華のいる場所の手前で突如足が現れ、ルークの鳩尾に前蹴りを炸裂させた。ルークの口から短く空気が漏れる。そして、数メートル転がりその場に倒れる。

 

(ルークや強華に不用意に近づくには危険だ。鬼々はきっとそこで待ち構えている)


 神崎は仲間の元へ駆け寄りたい気持ちを抑え、その場で五感を研ぎ澄まし、敵の襲撃に備えた。


滋養(マッスル)強壮(・アッパー)で身体能力は強化され、五感も多少鋭くなっている。きっと、攻撃前の予備動作なんかに音や本人の匂いが出たり僅かな出現ヒントがあるはずだ)


『三人目』


 神崎はその声を確かに聴いた。だが、その音の出現箇所が全く分からない。そして、気が付けば後ろから思いっきり後頭部を殴りつけられていた。

 三人はそれぞれの場所で呻き声を上げて倒れた。その中心に狙ったようにすぅっと鬼々が三人にも見えるように現れた。


「これが実力差。少し期待したけど、やっぱり所詮人間だね」


 いち早く回復していた強華がぎりぎりまで引き付けて、倒れた姿勢から持ち前の異常な身体能力を活かして、鬼々に頭突きを打つように飛び掛かった。

 だが、それを鬼々はバックステップで難なく躱す。


『無駄』


 空振りに終わったが、すぐに態勢を整える。鬼々の消えた個所に物凄い風切り音のする蹴りやパンチを繰り出すが、それが鬼々にダメージを与えたようには見えない。


『それこそ無駄。鬼々は透明になるとか、そういうちゃちなことをしているんじゃない。本当にそこからいなくなるの。そして、またどこかに現れる。影も形も音すらなく、現れては消えていく』


 その言葉の後に強華の背後に現れ、大鎌の峰で頭を打ち付けると、地面に倒れた強華の頭を踏みつける。踏み心地でも確かめるようにごりごりと足で強華の頭を挽く。


「うん、なるほどね。もう分かった。今からこいつの頭を潰す。これが最後のチャンス。お姉ちゃん、世界最強の吸血鬼の居場所を知っているなら教えて」


 圧倒的。この三人を瞬く間に制圧する実力。全ての力を嘲笑うかのような存在感。ルークと神崎はよろよろと立ち上がり、同時に立ち上がって自分たちに何ができるのかと、絶望の中、頭を回転させる。



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