錆、わさび
騒ぎを聞きつけてきたのだろう。
「さて、まずは相手の素性でも聞こうか」
ルークは無駄に不敵な笑みを作って瓦礫の中に視線を送る。
瓦礫の中からは、特にダメージを負った様子もない謎の女の子が大鎌をもってこちらを物珍しそうに睨んでいた。
「キキはキキ。弱そうなのに一番偉そうなお兄さんの名前は?」
「ルークだ。お前はうちの国出禁決定だ」
ルークはキキと名乗る女の子を指さす。
かっこ良く決めた所で、ルークはリオンに耳打ちをした。
「おい、リオン。お前はニアリスを連れて城の方に戻れ」
「でも、この状況じゃ一人でも戦力がいた方がいいでしょ」
「ふん、こっちには最強の二人がいるんだ。単体なら魔王だって怖くない」
ルークは神崎と強華を交互に見て、口の端をにやりと歪める。
「負ける気がしないな」
リオンは渋々と言った様子で了承すると、ニアリスを説得し、その場を離れることになった。
二人は名残惜しそうに言葉だけを残す。
「礼嗣様、無理はなさらないで下さいね」
「ルーク、すぐに援軍を連れて戻って来るから」
残った三人の背を行くニアリスとリオンに神崎たちは振り向かずに手だけで返事をした。
「で、こいつは何なんだ?」
「わからないんだ。お姉さんを探しに来たとかなんとか。とにかく強いよ」
ルークは戦況把握に努めたが、神崎の方から芳しい答えは帰ってこない。
「お姉さんね」
ルークは神崎の言葉を口に含む。
「おい、お前、キキとか言ったか、お姉さんとやらはお前の本当の姉っていう意味であってるか?」
「そう、お姉ちゃんはキキのお姉ちゃんだよ」
「本当にこの国にいるのか?」
「多分いる」
「そのお前の姉を差し出せば、これ以上危害を加えずに、この国から出て行ってくれないか?」
ルークは戦闘の前に最後の交渉に出た。戦いを避けられるのなら、それに越したことはない。ましてや、ここは戦場ではなく自国の領地のど真ん中だ。できる限りの被害の大きい争いは避けるべきだ。
だが、キキとルークの会話を聞き、神崎がルークに耳打ちをする。
「ちょっと、ルーク。お姉さんだからって、あの子が何もしないとは限らないんだよ。もしかしたら、あの子の元から逃げ出してこの国に来たのかもしれないし」
「馬鹿、今更そんな一個人のことを気にしてどうする。このままじゃ街が滅茶苦茶になるかもしれないんだぞ」
「でも―」
「いいよ」
二人の会話を遮るようにキキは返事をした。
神崎は不満そうな顔をしたが、ルークは儲けたとキキに対する言葉が下手になる。
「話が早くて助かるよ。これでも俺はこの国じゃかなり偉いんだ。人探しなら、お手の物だ。そのお姉ちゃんの特徴を教えてくれれば、何百の兵を使って今日中には探し出して見せる」
強華は、なんだ自分の出番はなさそうだなと足元の小石をこつんと蹴った。
「人じゃない」
「へ?」
「お姉ちゃんは人じゃないよ」
「あぁ、あんた確かに尋常じゃない強さのようだしな。この国に多種族は珍しいし、なおさら探しやすい。で、獣族か? 亜人族? 見たところあんたはどっちでもなさそうだし、混合種族か?」
世界が書き換えられたのかと思った。
そのぐらい周囲の空気が変わった。
「そんなのと一緒にしないで」
キキはまるで下界でも見下ろすように瓦礫の山から煽り顔でルークたちを見下ろす。
「鬼々(きき)は、鬼族を束ねるこの世界二番目に強い存在、鬼長。そして、お姉ちゃんは現在世界に一人しか存在を許されていない世界最強の並ぶことのない神、吸血鬼」
鬼々の存在感が、相手にかける重圧が何層にも厚くなる。
三人の額からは等しく冷や汗が垂れる。
「……ルーク。確か鬼って」
「あぁ、この世で唯一魔王とも張り合える種族だ」
これには日頃表情の起伏の薄い強華も口から言葉がこぼれる。
「その中で一番強いって」
「らしいな」
「さっき、ワタシたちなら魔王にも負ける気がしないって言ったのは本気?」
「まさか、言葉の綾だ」
ルークは今日ほど過去の自分を呪ったことはない。
開国して間もないころ、ルークは新興勢力をつぶそうと企む他国への牽制として、ホイホイにはある者がいるという法螺を吹聴した。
吸血鬼。
そもそもその前身である鬼のことすら多くを知っているものは少ないのだ。吸血鬼なんて完全に幻の存在である。
だからこそ、気味悪がり、周りが二の足を踏むことを祈って数ある策の一つとして、その名を借りたのだ。当然、吸血鬼が現在この世に一人しかいなかったなんて知る由もないし、まさかそれを訪ねて鬼族のトップが国を襲撃に来るとは思わなかった。
「完全に身から出た錆だね」
ルークが口に出す前に神崎が先に口にした。




