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異世界から来た奴がモテモテチート過ぎてウザい  作者: 痛瀬河 病
第三章 祭りに群がる者たち
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真の祭り、開幕

「前々から思っていたんですが、神崎様とルーク様はあまり相性が良さそうに見えませんが、どうしてルーク様に付き合っておられるんですの?」


 ニアリスは、まだ神崎に大会議で自分がただのお飾りの王になったことを言っていない。それを言うことはつまりルークの非道さをばらすことになる。ルークとともに自分の前に現れた神崎にそれを言っていいのかと迷っていたし、それを口にして神崎が自分ではなく、ルークについたとき、もう立ち直れないと思っていたからだ。

 そもそも性格も育ちもいいニアリスがこんな陰口めいたことをいうことすら自身の中での嫌悪が生まれるのだ。

 今も口に出したことによる、心苦しさは拭えない。


「うーん、そうだね」


 神崎は快晴の空を仰いだ。

 言葉を探していた。

 ニアリスになら、ルークのスキルのことを明かしてもいいのではないか。だが、それを自分個人の判断で行っていいものか。

 そして、自分がルークの味方をしているのは、本当に異世界から呼び出されたことによる縁だけなのか。自分の中でも解決していない疑問に納得のいく答えを探せない。


「……どこか」

「どこか?」


 神崎は口に出しかけて、これが本当に答えなのか迷った。こんな特殊な状況下にいる自分が正常な判断でルークと付き合えているのか。頼れるものがなかったから、なんとなく惰性で彼の認められない行為まで見て見ぬふりを続けてきただけじゃないのか。でも、自分の中でこの世界を好きになって、ルークと争いのない世界を作ってみたいと思ったのも事実。そして、この世界では自分にその力がある。


「きっと、どこか―」


―警戒はしていた。


『あれ、おかしい。お前がこの国で一番強そうだ』


 直後、ニアリスの前から神崎が消えた。正確に言えば何者かの攻撃を受けて吹き飛ばされ、近くの建物に叩きつけられたのだ。


―警戒はしていた。


当然だ。自分の隣にいたのは、どれだけ親しくなろうともこの国の王ニアリスだ。絶対に何かがあってはいけない。前もってこの祭りに獣族や亜人族が紛れているのもルークから知らせられて何人かと手合わせもしてみた。やはり獣族の頂点四老獣のトライが特殊だっただけで偵察兵程度に神崎が苦戦することはなかった。

 油断はなかったはずだ。

 なのに、反応すらできなかった。


 神崎は素早く体を起こすと、慌ててニアリスのもとに駆け寄る。幸い彼女は無事だ。もしかすると目的はニアリスではなく、自分なのかもしれないと神崎は思った。


「ニアリス、逃げよう」


 神崎が目的なら、神崎と行動を共にするのは決して上策とは言えないが、敵すらわからないこの状況でニアリスと別行動するほうがもっとまずい。


 あたりはパニックになり、人々は慌てて逃げ出すが、どちらに逃げたら正解なのかも曖昧だ。神崎は周囲を警戒して見渡すが、敵の影は見えない。


「ここ」


 神崎は息をのんだ。

 神崎の目の前には、一人の女の子が立っていた。

 橙色の髪は肩口まで伸び、左右に雑に結ばれている。頭には仮装だろうか、角がついている。 瞳は大きく、だけど焦点のはっきりとしないぬぼっとした目の色。口は半開きで締まりがない。服も着崩していて、肩から上着がこぼれている。そして、それら全ての外見的特徴がどうでもよくなるような死神張りに大きな鎌。

 こんな女の子が町中を歩けば確実に騒ぎになるであろうことは想像に難くない。


 だが、本当に今の今まで気が付かなかったのだ。神崎ほどの実力者にそんなことができうるものが、この世界に何人いるのだろう。

 神崎は動揺を悟られないために、出来るだけ落ち着いた口調で尋ねた。


「目的は僕か?」

「え? お兄さん誰?」

「…………」


 ちょっと恥ずかしかった。

 そんな神崎の羞恥など無視して女の子は話を続ける。


「キキね、お姉ちゃんを探しているの」

「お姉ちゃん?」


 神崎は眉をひそめた。相手を刺激してはいけない。相手の目的は何であれ、神崎はほんの数秒前に攻撃を受けたのだ。

 十中八九、敵だ。

 ちらりと後方のニアリスを見た。

 そして、言葉を探す。


「人を探しているのかい?」

「? 違うよ」

「なら、お姉ちゃんって―」


 言葉をそこで切れた。

 女の子の小さな拳が神崎めがけて飛んできたからだ。


「今度はよけたね。お兄さん、やっぱり強い」


 女の子は「でもね」と口の中に言葉をためた。


「お姉ちゃんは世界一強いの」


(世界一? それって)


 神崎の思考を区切るように、大鎌が蜃気楼のように揺らめいた。

 次の瞬間、神崎は切りつけられていた。


「⁉⁉⁉」


 地面から突然飛び出したように感じた大鎌は神崎の腹部をかすめ、前髪を攫っていく。

 後ろにいたニアリスは「礼嗣様!」と悲痛の叫びをあげる。

 深くはないが、腹部からは出血が始まった。


「今ので死なないんだ。お兄さん、お姉ちゃんとキキの次ぐらいに強いかもね」

「……どうも」


 神崎は腹部を左手で抑えるが、じんわりと熱い何かがせり上がってくるのを感じる。それは、死の予感だったのかもしれない。


「礼嗣様!」

「来ちゃだめだ、ニアリス!」


 ニアリスは神崎の制止も振り切り、自分の身に着けていたスカートを破ると、神崎の腹部を止血のために縛った。


「こんなことしかできませんが」

「ありがとう、助かるよ」

「? 助からないよ、二人とも」


 謎の女の子は大鎌を自分の体の一部のように自由自在に振り回す。

 それは威嚇ではなく、まるで手癖のようだった。

 そして、その様子がこれまで何人もの命を刈ってきたであろうことを容易に想像させた。


 双頭(アクア・)(フレイム)


 神崎はとにかく鎌の射程から逃れるために、炎の渦を作り出し、謎の女の子に向けて放った。交わされることは、承知で放った一撃だったが、謎の女の子は、交わす様子はない。


「こんなもの?」


 炎の渦は謎の女の子自体も歪ませるような勢いで飲み込んだ。


「な⁉」


 自分で攻撃しておいて驚く神崎。

 だが、驚くのはまだ早かった。


「うーん、君、名前は礼嗣だっけ? やっぱり四番目ぐらいかな」


 背後から聞こえてくる声に悪寒が走った。

 同時に滋養(マッスル)強壮(・アッパー)で強化した肉体で、ニアリスを抱え、とにかく力の限り上方に跳躍した。


「きゃっ」

「あれはダメだ。とにかく逃げなきゃ」

「でも、このままじゃ一般の方たちが」

「わかってる! 君を安全なところに避難させたら、僕はすぐにあいつの元に戻る」


 ニアリスの目から見ても神崎は明らかに余裕をなくしていた。

 自分が足枷となり、自由に戦えないだけならまだいい。それだけでなく、強敵の襲来に勝てるかどうかの確信が持てていないことへの焦りが見えていたのだ。


「逃がさないよ?」


(上に跳んだっていっても、角度はつけたからあいつのいるところから軽く数十メートルは離れたはずだぞ)


 神崎は空から足元を見ると、そこにはあの謎の女の子が既に待機していた。


「別に滞空時間の方がキキの移動時間より長かっただけでしょ」


 薄々わかってはいたが、相手は人間ではない。

 神崎は唇をかむ。

 苦し紛れに双頭(アクア・)(フレイム)で滝のような勢いの水の放水を謎の女の子に向けて放水した。


「あれ? 水も出せるんだ」


 当然の如く、彼女は避けず、そしてダメージも通らない。

 放水は蜃気楼のようにゆらゆらと実態をなくし、彼女を通過する。


(炎も水もダメなのか‼)


 このままでは、下で待ち受ける謎の女の子にニアリス共々切り刻まれるだけだ。

 

(何かないか、何かないか、何か、何か、なにか)


「恨みはないけど、取り敢えず殺すね」


 謎の女の子は大鎌を構えた。

 神崎はせめてニアリスだけでもと祈りながら、深抱きしめることしかできない。



「よう、何気に共闘は初めてじゃないか?」



 その声音は神崎はこの異世界で初めて聞いた声。


 謎の女の子立っていた道路の左右の建物が崩壊する。

 きっと、馬鹿みたいな身体能力の女の子が左右の建物を壊したのだろう。

 神崎はその瞬間を逃さず、地面に着地すると、崩壊した瓦礫から距離をとった。

 神崎は彼の隣に立つ。


「お前が苦戦する相手だ。今のでは死なないだろうな」

「デートの邪魔して悪いね」

「そっちこそな」


 神崎の隣にはルーク、強華、リオンの三人が立っていた。


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