デート、デート
順調な勝利報告を受け、ルークは安堵した。
「よしよし、やはり計算通りあいつらレベルなら他種族にも通用している。いくらかバカも混じっているようだが」
ルークは報告のないムッツリとそもそも敵を見つけられなかったナナキを思い嘆いた。
上機嫌な様子を隣で見ていたリオンは、言葉を突っ返させながら、ルークに話しかける。
「ねっ、ねぇ、ルーク。パンプキン祭も順調みたいだし、参謀室にこもってないで、私たちも明日は外を見て回らない? 直接見る市場調査も大事でしょ?」
あからさまなデートの誘いに、今までだったら特になんとも思わなかったルークもぎくしゃくとした返答になる。
「あっ、あぁ、それぐらいなら特に問題ないぞ」
その様子を茶化すように部屋の端でティグレがモンブランを食べる手を止めて「ヒューヒュー」と下手な口笛を吹く。
ルークの上気した頬は一瞬で冷め、右手で何かをつまむようなジェスチャーをする。
「……ぷにぷに」
「ひっ」
ティグレは何も見ていませんと視線をそらし「ピーピー」と今度も下手くそな口笛を吹いた。
ルークは明日のことを思い浮かべているのか、少し天井に視線をやったあと「そうだ」と目を見開いた。
「俺、実はこの間スキルがレベルアップしたんだ。ナロウじゃないほうな。だから、俺たちもコンビなら他種族を狩れるかもしれんぞ。セブンズか強華、神崎辺りを一人同行して、俺たちも他種族狩りの練習しておかないか? いつ狙われる身とも知れないしな」
名案を思い付いたように顔を輝かせるルークに、リオンは断り辛い空気を察してしまう。ティグレは呆れたものを見るように「そこは素なのか?」と小声で呟いた。
リオンは観念したように息を吐く。
「せめて同行する人選は私に選ばせてね」
「あぁ、勿論だ」
こうして明日のデート()が決定した。
同行者は、無難に強華に決定した。リオンからしたら、セブンズなんてほぼ面識はないし、ヨハネやワンコのような面倒な存在も出来れば関わりたくない。
強華には「いいの?」と聞かれたが、これが最善である。何より、強華も遠慮しながらも少しテンションが上がっていた。祭りを楽しみたいのだろう。
パンプキン祭二日目の賑わう人込みを歩きながら、リオンはルークに質問した。
「ところでここ最近、神崎を見ないけど、何してるの?」
「あぁ、あいつ結構祭りごととか超好きみたいでな。文化祭の準備期間にはしゃぎすぎて引かれるタイプだったらしい。ここ最近は一人で祭りの準備手伝ったり、ニアリスを連れてお忍びデートをしているよ」
「文化祭?」
「何でもない。とにかくパンプキン祭は俺もできるだけ神崎に関わってほしくないし、好都合だ」
リオンはお忍びデート羨ましいなとか思いつつ、強華が邪魔者だと感じて居心地が悪くならないように必死に表に出さないよう努めた。
「はぁ、せめて敵を探しながらきょろきょろ歩くのだけでも辞めたいわ」
「リオン、ワタシに任せて」
「……強華も祭りを楽しんでいいのよ」
と、言わなくても強華に両手にはいっぱいの祭りならではの食べ物が抱えられていた。
それを見ていた祭りに来ていた子供が強華を物珍しそうに見上げる。
「お姉ちゃん、食いしん坊ならパンプキン祭の名物のパンプキンケーキは食べておいたほうがいいよ」
「ワタシ別に食いしん坊じゃない。それはティグレの役割」
強華は心外だとばかりに、頬を膨らませたが、その後、ふっと表情を柔らかくし、子供の頭に手を置いた。
「でも、ありがとう。機会があったら食べてみる」
子供と別れた後に、ルークに念を押される。
「わかってると思うが」
「うん、わかってる」
三人は午前中、それなりに祭りを楽しんだ。
こちらもデートだった。
神崎とニアリスはルークの言った通り、お忍びでデートをしていた。ニアリスは市勢を見て回りたいと無理を言い、神崎はそれに折れる形でデートとなった。
ニアリスは顔の周りを帽子やスカーフで隠し、逆に怪しさを醸し出していたが、こぼれる白銀の髪に、その下は美人であろうことは誰もが容易に想像がついた。
「まさか、二日も続けてとわね」
「礼嗣様、私とのデートはつまらないですか?」
「え? いやいやそんなことないよ」
「ふふ、動揺してますね」
ニアリスは慌てる神崎に微笑ましく見つめると、ある屋台を指差した。
「礼嗣様、そろそろ昼食の時間ですし、そこに出しているパンプキンケーキでもいかがですか?」
「えぇ、お昼ご飯にケーキはちょっと。ティグレじゃあるまいし」
「あら、デートの最中に他の女性の名前はおやめ下さい」
「いや、うーん、ティグレは、なんだか近所にいるふてぶてしい野良猫みたいなものなんだけど、一応そうだね」
「礼嗣様の中でのティグレ様の評価は散々ですわね」
「まぁ、日頃の様子を見ているとどうもね。それに昨日もあれ食べたじゃないか」
ニアリスは両手の拳を可愛く胸の前で握ると、頬を可愛く膨らませた。
「乙女に甘いものは別腹なんです」
「それはどこの世界も共通なんだね」
正直、神崎はあまり甘いものが好きではなかった。だから、何か回避する手立てはないかと、よく屋台を見回した。
「あっ、でもニアリス見てごらん。あれはホイホイ公認の刻印が入っているよ。あれはルークに食べちゃダメだって言われてじゃないか」
「あら、確かに」
パンプキン祭前にルークは神崎やニアリスに一つの念を押していた。それはパンプキンケーキを食べる際、国公認のものを食べるなということだった。
「でも、不思議ですわね。国公認のものを食べろなら、まだ利益のためにわかるんですが、食べるなっていうのは」
「うん、そうだね。何か考えがあるのかもしれないけどね」
「また、悪巧みでないといいのですが」
「そう願うしかないね」
神崎が祈りのようにそう呟くと、後方から声を掛けられた。
「あれ? 神崎様?」
神崎は後ろを振り返り、笑顔を返す。
「やぁ、シエル。今日はメイド服じゃないんだね」
そこにいたのは、ホイホイの城内で雇われているメイドのシエルだった。サイドのポニーテールと本人こだわりのメイド服が特徴的な彼女だが、今日はメイド服ではなく普通の私服だった。
「今日はオフですからね。神崎様こそ変なお面はいいんですか?」
「まぁ、この人混みならね。ていうか、よく僕だってわかったね」
「それは、ごにょなる異性はごにょですよ」
「え? なんだって?」
神崎は必殺技を発動した。
因みに本人は本当に聞こえていない。
「なんでもないです。これで神崎様のお顔を見るのは二度目ですね」
「そうだっけ?」
「あっ、酷い忘れてましたね。お城の中じゃ変なお面ばかりつけてるんですもの。いい加減あれなしで城内を歩けないんですか?」
「ごめん。あれには深いような浅いような理由があってね」
ホイホイになる前のこの国の兵士を散々ボコボコにしたからである。
一通り挨拶を終えると、シエルは神崎の隣にいたニアリスに気が付く。
「あら、そちらの方は神崎様のご友人ですか?」
「あっ、うん、そうだよ。そうそう」
変装の甲斐があったようで、シエルは目の前にいるのが自分の使えている城の主ニアリスだと言う事には気が付いていない。
ニアリスはばれないように軽く会釈だけで挨拶を済ませる。
シエルは訝しげにニアリスの顔を覗き込んだが、気付く様子はなかった。
「相変わらずおモテになるんですね。今度は私ともデートしてくださいね」
シエルは他に約束でもあったのか、あっさりとその場から去っていった。
「ふぅ、危なかったね」
「おモテになるんですか?」
「え?」
「今の方が随分とおモテになるとおっしゃっていましたけど、礼嗣様は私のいないところでも沢山の女性とデートなさってるんですね」
「いやいや、そんなわけないじゃん。シエルが勝手に言ってるだけだよ」
「どうだが」
ニアリスは少しだけ不機嫌になったが、その拍子に先ほどの話の続きを思い出した。
そして、神崎の横顔をじっと見つめた。
「前々から思っていたんですが、神崎様とルーク様はあまり相性が良さそうに見えませんが、どうしてルーク様に付き合っておられるんですの?」




