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異世界から来た奴がモテモテチート過ぎてウザい  作者: 痛瀬河 病
第三章 祭りに群がる者たち
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追い、追われ

 男は走った。

 完全なる敗走だ。


「はぁはぁ」


 深い息遣いがホイホイの一区画の空気に混じった。

 ここはあらかじめ今回祭りの禁止区域として指定され、人払いが済まされていた場所。


「お前たちも勉強しておくといい」


 彼はそこに祭りに紛れていた獣族の男を誘い込んだ。


―スパッ


「うがぁ!」


 獣族の男はしっかりと敵と距離を取っていたのにも関わらず足を切り裂かれた。

 機動力を失った獣族の男はその場に蹲る。


 それを追う足音。あずき色の髪が揺蕩う。

 男にも女にも見える。

 その性別はルークですら知らない。


 つかつかと革靴の近寄る音。

 そこに連れだって数人の衛兵が背を追いかける。

 セブンズの一人ワンコ。


「ルーク様の計画はこうだ。わざと紛れ込みやすい催しを行い、最近うろちょろしていたネズミをあぶりだす。これぐらい大きな祭りなら他国の人間以外にも亜人や獣も入りやすくなる」


 まるで見習いに料理を教える料理長のようにワンコは幾人の衛兵に地面に伏せる獣族を指差し言葉を付けたす。


「獣族の一番恐ろしいのは機動力だ。攻撃が当たらない事には始まらないからな。一人が視線を集めているうちにまず足を潰せ。一対一になったら逃げろと言いたいが、それは彼らの機動力を考えると難しい。最低でも死を覚悟しろ」

 

―スパッ、スパッ、スパッ


 ワンコが説明をしながらも、地面は獣族の男の血を吸いこんでいく。

 ワンコが自ら攻撃を加えた様子はない。

 それでも獣族の男の全身は切り裂かれていく。


「だが、死を覚悟したお前たちに最後の希望を教えてやろう」


 ワンコは目の前で声をあげる力すら残していない獣族の男を見下ろした。

そして、身をかがめボロボロの身体の衣服を漁り、中から小さな巾着を取り出した。その口を開けると、きらきらと青光りする石のようなものが出てきた。


「これはトリニティだ。お前たちも名前ぐらい聞いたことがあるだろ。こいつらは大抵これを身体のどこかに身に着けている」


 兵士たちは緊張した面持ちで上ずった声で返事をする。


「こいつら獣族はハクアという森を主要の生息地にしているのも知っていると思うが、こいつらが領地の拡大も二の次であの森を守る一番の理由がこれだ。ハクアはトリニティの埋蔵量が段違い、この世界でぶっちぎりの土地だ」


 兵士はまだ言葉の真意を理解できず固唾を呑んで聞き入っている。


「獣族は高い身体能力を有している。だが、それはあまりに高すぎる。トリニティとは銃火器での弾丸に使われることでも分かるだろうが、力の方向性を一定にコントロール出来る性質がある。こいつらはそれを利用し、自身の力もトリニティの補助によってある程度コントロールしている」


 ワンコは結論を「つまりだ」と言い切る。


「つまり、これさえ奪ってしまえば自壊、自滅、暴走の目が出てくるわけだ。お前たちは一対一で死しか残されてないぐらいなら、最後にこいつらのどこかに身に着けているトリニティでも探してみるんだな」


 ワンコは今の例が当てはまるのは、あくまで獣族の一般の兵士レベルでの話で、上位の獣族の兵士には当てはまり辛いのは伏せた。上位兵は自身の力ぐらい自分でコントロール出来ている場合が多いからだ。

だが、せめてもの希望を持たせてやろうと考えた。


兵にレクチャーを終えると、思い出したようにボロぞうきんのような獣族の男を見下ろした。


「やはり、この程度の雑兵では練習にならないな。お前たち次は私がある程度弱らせたものと対戦させてやろう。実践経験に勝るものはないぞ」


 後ろでやや引いていた兵士たちが「はっ、はい」とやや声を詰まらせながらも返事をし、ワンコはそれを満足そうに目を細めた。

 ワンコは最後に意味はないと知りながら赤い肉の塊となった男に声を掛けた。


「さて、お前、今回の訪問の理由でも教えてくれれば楽に殺してやるがどうする?」


 この後、獣族の男は全身千か所以上の切り傷を受け絶命した。



―――――


 南門では多くの観光客が祭りに満足し家路につこうとしていた。


「待ちたまえ」


 セブンズの一人、ナナキは一人の男に声を掛け、足を止めさせた。


「なっ、なにか?」


 男はおどおどと怯える様子でナナキの顔色を窺う。


「さては君、亜人族だな」


 ナナキはまるで犯人でも当てるようにその男を指差す。

 ナナキの後ろに控えていた兵士たちは息を呑む。

 亜人族、それは人間の完全上位互換、本来なら人が対峙するべき相手ではない。

 男もごくりと唾を呑んだ。その音は、人通りの多いこの場所でもはっきりと聞こえた。 

 そして、男の乾いた唇がゆっくりと開き、


「……いえ、ちがいますけど」


 ナナキは頭を抱えた。

 苛立っているのか、語気も少し荒い。


「本当か? 君たちその男の身体検査だ!」


 兵士たちは恐る恐る男に近付いていき、身体を検査するが、亜人族特有の長い耳や特殊な武器類は見つからない。


「ナナキ様、本当にシロのようです!」

「くそ、これで何人目だ。ルークさんは見ればわかるって言ってたけど、全然分からないじゃないか!」


 ナナキ、他種族との実践経験を積む前にそもそも発見できず。



―――――


 祭りに浮かれ、いつもより帰りの遅い住宅街。

 灯りのついている家も少ない。


「おい、そこで何をしている!」


 一人の顔立ちの整った女性が、民家で怪しげな動きをしている男に声を掛けた。男は自信満々に身の潔白を証明する。


「やましい事はないもない。ただ、パンツを盗んでいただけだ」

「それがやましくないとはお前の倫理観はどうなっているんだ!」


 顔立ちの整った女性は腰から武器を抜いた。ドーナツ状に中心が空洞で外側にだけ刃のついた武器を手首でクルクルと回す。


「他種族の国とは言え、私は貴様のような卑劣漢が一番許せん! この二番隊隊長、カズカベ二段が成敗してくれよう!」


 亜人族の中で軍に所属している者は、段位が与えられている。最高位が六段、入隊時十級から始まる。

 それは絶対的ではないが、主に亜人たちの力量を示し、段位が上に行けば上に行くほど実力者が多い。 だが、あくまで軍。最高司令官は師範、次に師範代、六段の者は亜人族の中で僅かに三人。だが、彼らが三段、四段よりも強いかと言われれば疑問を抱く余地が生まれる。


 何故なら高齢なのである。


 偉いものほど段位も隊属年数も高い、なので必然高齢や事務作業に追われ実力は衰退もする。誰も口には出さないが、実力で言えば亜人族で最も強者が蠢いているのは脂ののった初段から四段辺りなのである。


 下着泥棒兼セブンズが一人ムッツリは首を傾げた。


「あれ、向こうから来た?」


 ムッツリも当然セブンズとしてルークに祭りの来場者の中から亜人族または獣族を見つけ、実践経験を積むよう言われていたが、全く興味がないので下着漁りに精を出していたが、まさかのエンカウントである。

 ナナキの苦労が泣けてくる。

 だが、それでも下着泥棒が本職のムッツリは、この時点で亜人族が男だったのなら、その場から離脱し、また別の民家で下着を漁っていただろう。

 そもそも興味がないのだから。

 だが、目の前の亜人族は顔立ちは凛々しいが女性だった。


「まぁいい、亜人族のパンツは初めてだ」


 ムッツリは今宵の獲物に目を細めた。



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