単体、一国
「ふっ、ふっ、ふーん」
鼻歌交じりにパンプキン祭の人混みをするすると抜けていく者がいた。どれだけ人混みが激しくてもその者の足取りがスピードを落とすことはない。
不思議なことに誰ともぶつからず、誰も彼女を注目する者はいない。
「ふん、ふふーん」
彼女のテンションはマックスに近かった。仮装でつけられた片角も鼻歌に合わせて揺れる。
彼女はその体捌きで人混みを抜けていけるかもしれないが、周りは違う。
注文を受け、急いで出前を運んでいた前から走る商人の若者は彼女に直前、本当に目の前まで気が付いていなかった。
「あっ! あぶねぇ‼」
果物が大量に入った大きな網カゴを肩に背負っていたため、バランスを崩し、そのまま彼女に覆いかぶさるように倒れる。
ぶつかる。
商人の若者は、そう覚悟し目を瞑った。
「え?」
商人の若者は気が付けば自身だけが倒れて果物を地面にぶちまけていた。
何度、周りを見渡せど、もう彼女はいない。
「ふん、ふっふふ~」
彼女は倒れた商人の若者の数歩先にいた。
「早く会いたいなー」
彼女は再開を待ち焦がれていた。
「お姉ちゃん」
彼女のだらしなく半開きの口には出店の飴が加えられていた。
――ある場所
「くっそ~! あそこでなんで賽の目ゼロ出しちゃうかな~。仕事押し付けられた!」
呑気な声は、ホイホイに向かう。
薄桃色の毛並みが左右に揺れる。
深い森を抜け、軽やかな足取りで、なんの乗り物も使わずにびゅんびゅん向かう。
「これでトライさん死んでたとかだったら、まじで骨折り損だよ~。そろそろ先行部隊が付いたかな~」
部下の様子を気にしつつも自分の足も止めずにどんどん跳び走る。
目的地に向け、真っ直ぐに。
「部下の報告くるまで、どっかで待ってようかな~」
多分。
「よし、決めた。途中の国で遊んでいこーっと」
多分。
「トライさん、死なないでよ~」
いや、多分。
「あっ、あそこの国いいじゃん」
直角に曲がる勢いで彼女は方向転換していく。
ある国の門前に降り立ち門番たちをビビらせる。
明らかな不審な人物に門番は声を荒げる。
「おっ、おい、なんだ貴様は!」
「ここを人類最大領土保有国アシロの直轄領地だと分かっているのか!」
―バタ、バタ
次の言葉を発し、威嚇を試みようとする門番はすでに倒れていた。
「久しぶりに『姫殺しゲーム』でもしよっかな~」
足取りがホイホイから逸れていく。
彼女は寄り道を決めた。




