パンプキン祭、直前
―ミックスがリンに襲撃から二週間後。
ホイホイの城下町、そこではある一枚のチラシが至るところで踊ってた。多くの者はそれを目にし、心も躍らせた。
この姉妹もまた、そのうちの一組だ。
「これはね、国中で開催されるお祭りなんだよ。多分、この辺はお城にも近いし、一番盛り上がると思うわ」
チラシを持った妹ニーに読めない字を読んでやり、本人も楽しそうに笑うイチ。ルークのホイホイ内での奴隷解放宣言によって奴隷から解放された二人の幼い姉妹だ。現在、ホイホイ城下町のはずれの方にあるホイホイ通な客の間では密かな人気を誇っているパン屋『ラフィジェル』で住み込みで働いている。
今日はその店の主人に頼まれて町の中心の方までおつかいにやって来たのだ。
「凄ーい、ニーお祭り大好き!」
「私も!」
ニーは待ち切れなくなったようで、イチの袖を引き「いつ、いつするの」の目を輝かせている。
「うーん、丁度来週みたいだね。三日間も続けて行われる。大きなお祭りみたいだよ」
「えー、三日もやるの! 凄いね! これもルーク様が考えたのかな!」
「多分そうだよ、ルーク様は凄いからね」
二人はルークによって奴隷から解放された経緯もあって、少々ルークに対して信仰心のようなものが芽生えている節がある。
二人ほどではないが、基本的にホイホイ国内でのルークの評判は基本的に上々、好意的な意見がほとんどだ。あまり国内で噂になってはいないが、植民地などから重税を課し、搾り取っている影響で国内からは最低限の税で済ませているルークのやり方はそこに住んでいる者たちからすれば過ごしやすい国になっているだろう。
「おやおや、まだ若いのに大した慧眼ですです」
二人の姉妹が祭りの話題に盛り上がっているところに、声を掛ける人間がいた。だが、その人物が食いついた話題は祭りのことではなく。ルークに関してだった。
二人が振り返ると、そこにはセブンズが一人、ワインレッドの髪が綺麗に編み込まれた少女ヨハネがいた。
イチは賛同が嬉しかったのか、特に警戒することもなくヨハネに話し掛けた。
「お姉さんもルーク様のファンなんですか」
「ですです、あの人はいずれ世界を取りますよ」
ヨハネも嬉しそうに相槌を打つ。
ここから数分のルーク愛好会談笑という世にも奇妙な時間が続いた。
「はい、あの眼帯がいかしてますよね」
「ですです、あと髪もぼさっとしてて撫でたくなるですです」
「わかります!」
流石にニーが退屈してきて欠伸をし始めたところでヨハネが気が付き、会話を止めた。
「おや、妹さんが眠たそうにしていますですね。もうすぐお昼寝の時間ですかね。それでは私はこれで失礼するですです」
それをきっかけにイチはここに訪れた本来の目的を思い出した。
「あっ、いけない。お使いを頼まれているんだった」
「おや、それは尚更邪魔したですです」
「いえいえ、普段あまり人と話さないことだったので楽しかったです」
「因みに、お求めの商品は?」
「パンプキンです。なんでも、もうすぐ開催される『パンプキン祭』に私が住み込みで働かせていただいてるパン屋の店長さんも稼ぎ時だって言ってパンプキンを使った新商品を開発しているみたいなんで、その材料の買い出しに」
「……へぇ、パンプキンですかぁ」
その言葉を聞いたヨハネは目が薄っすらと細めた。イチはその様子に小首を傾げたが、特に何かを質問することはなかった。
ヨハネは最後にイチと握手を交わし、最後に一言だけ残して手を振って別れた。
「パンプキン、急いで買った方がいいですです」
その言葉を聞いたイチは尚更首を傾げ、ニーは笑った。
「あのお姉ちゃん可笑しいね。パンプキンは今いっぱい取れるからどこでも大量に売ってるんでしょ?」
買い物に出掛ける前にイチがニーに教えたことを、ニーはイチに聞き返す。
「う、うん。そのはずだけど」
こうしてイチ、ニー姉妹とヨハネの謎の邂逅は終わった。ちなみに、この時ヨハネは名は名乗ったが自分がセブンズだと言うことは名乗らなかった。
ルークはある人物に合う為に、ホイホイ城内を歩いていた。目的の施設は城の一階にあり、誰でも気軽に訪れることが出来る場所。
しかし、今は時間も遅く、もう月も空の真上にまで登っていた。
そこはそんな遅い時間に利用する者はいない場所。
だが、今回はルークがアポイントを取って先に待ってもらっていた。
ノックもなく部屋に入ると、そこに約束の相手が刃物を研いで待っていた。
「待たせたか?」
「いえ」
「では、これが事前に話していた物だ。取り敢えず試しに使ってみろ。足りなくなったら俺かリオンに知らせてくれれば追加を用意する」
ルークは手に持っていた麻袋をその人物に渡すと、受け取った相手は軽く頭を下げた。
「効果は試したのですか?」
「レポートの上なら知っているが、直接目にはしていない」
二人の不穏な会話をルークは下卑た笑みで締めくくる。
「祭りが始まってからのお楽しみさ」
祭りはすぐそこまでやってきていた。
誰のための祭りか、それはまだ誰も知らない。
祭りは終わってみるまで分からない。




