あれも、これも 後編
「俺は、たった一つしかないというアドバンテージを活かし、たった一つだけを極めた。他の人間が二つ鍛えるところを俺は一つでいいんだ、単純に時間は二倍だろ? そして、LEVEL6辺りになった時、最初は物真似程度だったスキルがこの性質に変化した」
ミックスはリンと距離がある中、軽く右足を振るった。
リンは意味は分からなかったが、咄嗟に身構えた。
「⁉⁉⁉」
そして、それは正解だった。
その空を蹴ったかと思われた足はリンとミックスの十メートル近い距離を埋め、しなる鞭のようにリンの元に届き、リンがガードの為に構えていた腕を真上に払った。
「四つ目⁉」
「俺は殺した相手から肉体を奪い取れるスキル。スキルなんていちいち習得しなくてもこうやって俺は代々受け継いできた親父のスキルだって使えるんだ」
「……てめー、親を」
上体の浮いたリンとの距離を詰めるミックス。
次に燃える左腕を振り下ろすようにしてリンを殴りつける。
両手でガードはするものの、表皮にひりついた感触を覚える。しっかりと火傷を負ってしまったのだろう。
もう完全に優位に立ったと思ったのか、ミックスは両手でリンを殴りつけながらも、べらべらと口を動かすのをやめない。
「前々から殺す機会は窺っていたんだ! ルークさんは本当にいいところに来た! 混乱に乗じて簡単に殺せたよ‼ 親父の最後の言葉がこれまた傑作でな『背中は任せろ』だぜ‼‼ 笑えるだろ⁉」
ミックスはべらべらと自分のスキルを話し、どんどんテンションをハイにしていく。それだけの圧倒的自信があるのだろう。
「きっと、俺こそが他族の化け物どもすら殺せる選ばれしスキルホルダーに違いないよな。だって、これ無敵だろ⁉ あぁ、早くルークさん、地下にいる四老獣も殺してくれないかな。そうすりゃ、俺は更に最強に近づける」
燃える左腕、風の渦巻く右腕、伸びる左足、固い首回り、まだ何か隠しているかもしれない。
しかし、リンは慌てない。敵が強いのは初めから分かっていたことだ。
「お喋りついでに聞きたいが、本当にバルゴスの行方は知らないんだよな?」
「あぁ、興味もないな。なんだ? 空振りだから、今から逃げますってか? そうはさせないぞ」
嵐のようなミックスのラッシュは止まない。
リンの両手はもうすでに焼け爛れている。
ただですら、病み上がりのリンにこれ以上戦闘を長引かせてもいいことはない。
ミックスの言う通り、リンは逃げる選択肢も考えていた。
だが、相手がべらべらとスキルの内容を話してくれたのだ。そこに一筋の勝機を見出した。
この戦闘期間中、一見リンはスキルも使わず、ただ防戦一方のように見えた。
だが、彼女はずっとスキルを使っている。
この戦闘は城の一室で行われているのだ。普通、ドンパチやり始めれば、すぐに警備の兵士がやって来る。
初めにも言ったが、リンは戦闘音を音量を操るスキルによって無音にしていた。
【能力名】
調律師
【LEVEL】
LEVEL6
~次のLEVELまで、二十九万八千十三文字の会話が必要。
【スキル詳細】
耳で捉えることが可能な音の波を大小、方向を変化させることが可能。
また、完全な波をゼロにすることも可能とする。
また、音の上限はスキル発動者が出せる音量(声)の最大までとする。
なお、発動回数は無制限だが、連続での使用は最大十分までとし、発動時間分のインターバルが必要とする。
(例、五分発動する場合、次の発動可能になるまでに五分かかる)
発動対象の音が自分から離れれば、離れおるほど持続効果時間も微減する。
そろそろ連続発動限界の十分が経ってしまう。
その前が勝負だ。
暗闇から光。
空中から水中。
無臭から激臭。
人は落差に弱い。
慣らせば対応が出来る事も、急激な変化の中では全く対応できない。
引き算だ。
5から10へいくよりも、0から10の方がより効果的だ。
ただ防戦だったわけじゃない。時間をかけることに意味があったのだ。
相手が今の特殊な戦場に馴染むように。
リンはミックスのラッシュの嵐に窓のある壁際まで追い詰められた。
だが、そこで真に追い詰められたのはミックスだった。
その壁際にはリンがこの部屋に入った時から目を付けていたものがあった。
一輪の赤い花の刺された花瓶。
窓の傍に置かれた白いガラスの花瓶。
リンはミックスの拳に圧されるように、そこに背中からダイブした。
花瓶は一メートルもない床へ無残に落ちていく。
無音から爆音へ。
裂ける様な、強烈な音を更にリンのスキルで最大限まで強化する。
パアリィィィンンンンン‼‼‼‼‼‼
その音は城内に響いた。
高い耳障りな音は、ミックスの鼓膜に異常をきたす。
手で耳を塞ぐ、慣れない爆音に一瞬目を閉じる。
ミックスの活動が止まる。
リンはその一瞬に全て賭けていた。
ボロボロの腕を最後の力で振るう。
小刀がミックスの胸元めがけて振るわれる。
ミックスもすでに目を開けている。攻撃には気が付いている。対応できるギリギリの絶妙なタイミング。
結果、小刀はミックスの右胸に深々と刺さった。
「お前は選択肢が多すぎる。今の攻撃にしたって防ぐのに何通りものやり方があった。だから、刹那の勝負所で負けるんだよ」
リンは言葉を吐き捨て、小刀を更に奥にぐっと押し込んで抜いた。
「ぶはっ‼」
ミックスの口から大量のドロドロとした血が床に吐き出される。
抑えても抑えても右胸から溢れ出す血液。
膝が地面についた。




