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異世界から来た奴がモテモテチート過ぎてウザい  作者: 痛瀬河 病
第三章 祭りに群がる者たち
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その名は、その首は

 ルークとセブンズがそれぞれ別れた後、その一人ミックスは大きな肩幅を震わせ、紅葉のように広がった髪を揺らし、含み笑いをしていた。


「ふっふっ、いよいよ始まるね。やはり俺は運がいい」


 ミックスはうっとりとした表情で自身の首筋を長い指でなぞった。乾いた肌の感触は彼のテンションを一段階上げた。


「まだまだこれからだ。やはりルークさんについてきて正解だった」


 ひとしきり謎の満足感を得ていると、彼の自室の前に到着した。

 セブンズはそれぞれが好待遇を受けており、自室も大きく、左右にも部屋はない。


「…………」


 一度、部屋の中に人の気配を感じないことを確認して鍵穴に鍵を差し込む。


「さて、魅惑のコレクションたちを一通り堪能して今日は早めに寝るか」


 ドアノブを引き、一歩室内に足を踏み入れた。

 喉に冷たい何かが首筋に当たった。


「動くな」


 耳に冷たい声が耳に流れた。


 ミックスの自室のドアの裏側には何者かが忍んでいた。

 ミックスは動揺を見せず、落ち着いた声音でその不躾な訪問者に問いかける。


「……誰だ?」

「誰でもいいだろ」

「俺が声を上げれば近くの見張りがすぐに駆けつけてくるよ」

「出来るもんならやってみろ」


《ふっ、大した自信だ》


 ミックスは違和感を感じた。

 自分の声が自分の耳まで届かないのだ。


(何が起きている? スキルか?)


「分かっただろ? お前の声は外には響かない。なんせ、無音だからな」


 部屋には侵入者の潜めた声だけが、地面に染みる小雨のように静かにじんわりと流れる。

 このまま背を取られている状況はまずいと判断したミックスがタイミングを計る。

 一瞬の気のゆるみを見て、身体を反転させ攻勢に出なくてはいけない。

 ミックスは無駄かもしれないが、口を動かす。


「用件を聞こうか」


 今度は声が通った。

 ミックスはそのことが意外で全身を小さく震わせる。


「何驚いてんだ。さっきのは理解させるために無音にしただけだ。お前の声はこれから私の耳に届く限界まで小さくした音で拾う」


 侵入者はミックスの疑問をすぐにくみ取り補足した。

 そして、メインの用件を静かに言った。


「……人を探している」

「街のギルドにでも依頼しなよ」

「無理だな。これはお前らが深くかかわっている。探れば消されるのがオチだ」


(お前ら?)

 ミックスは言葉の中からそれを拾う。

 どうやら、侵入者はミックス個人ではなく、ミックスが属する集団に用があるらしい。それならば、辺りを付けることはたやすい。ミックスは現在所属しているセブンズが、さらにもう一枠大きいルークが世界征服の為に結成したチャトランガ、この二つだろう。


「そこまで分かっているなら、諦めな。今、この国で俺たちに逆らうことは死を意味するって分かっているだろ?」


 ホイホイに死刑と言う制度はない。

 幽閉か、国外追放だ。

 それはルークが人格者として、この国での地位を確固たるものにするための一案だった。

 だが、現状この国での大罪人は死罪、それよりも惨たらしい結末を迎える。

 ミックスも詳しくは知らない。

 だが、最近できたと噂されるルークの足として使える秘密裏の別動部隊が罪人を攫っては地下でとんでもない苦しみを味あわせているとかいないとか。

 ミックスは恐ろしくてルークに尋ねようとも思わないが、ワンコやヨハネ、強華辺りなら知っているのではないかと踏んでいる。


 結局、犯罪者の中からいなくなっても困らない人間を捕まえて殺しているのだから、市民に一考させることの出来る死罪より惨い。

 ルークは国の利益になるのなら、場合によっては犯罪者も見逃すことが多い。

 ただし、理由は分からないが、奴隷商人だけは嫌い頑なに国に入れない。

 ミックス個人はロリコンだからでは? と予想している。


 ミックスの言葉を聞き、愁いを帯びた湿った声が耳に入って来る。


「諦められない人間もいる。お前にはいないのか?」

「……運の良い事にいないな」

「そりゃ、運が悪いって言うんだ」


《―ガッッ!

―ザンッッッ!》


 先にミックスが動いた。

 しかし、それに侵入者は一切動揺せずに、首筋に押し付けていた刃物を一閃に薙いだ。

 その反動で、ミックスの首筋には刃が触れ、部屋の中で転がり白い小さなチェストに衝突した。

 勿論、その戦闘音も転がって家具を破壊した音も無音だ。


 家具の周りに積もっていたのか、まるでミックスを隠すように埃が舞う。

 その様子を侵入者は静かに見守る。

 今の一撃のダメージを計るように、ただ彼が起き上がるのを持っている。


「おかしいじゃねーか」


 侵入者はミックスの首筋を手に持っていた小刀で一閃した。

 そして、ミックスはそれをガードすることが出来なかった。

 即死だ。即死でなくてはおかしい。


 侵入者は視線を切らずに、小刀を持った方の手の感触を確かめる。

 僅かな痺れ。


「最初から余裕があったはずだ。刃物程度じゃ死にませんってか? お前、本当に人間かよ」

 

 その投げた言葉に返答はない。

 ただし、彼の周りの埃はまた地面へと落ちていき、その姿を露わにする。


「いや、流石にここで油断して近付いてくるような間抜けではないか」

「感触が悪かった。というより、人間の肌の感触じゃねー」

「……勘がいい」


 ミックスは静かに立ち上がった。

 彼の首筋には傷一つ入っていない。

 そして、立ち上がる彼の姿に侵入者は息を呑む。

 もう一度、問うた。


「本当にお前人間か?」

「失礼な、これでも結構焦ってたんだぜ、背中か喉元でも刺されれば致命傷だった」


 彼の首筋には鱗がびっしりと張り付いていた。

 彼の右腕の周りにはまるで風の流れでもあるようにまだ埃が舞っている。

 彼の左腕にはちりちりと炎が燃えている。


「まだ、完全体じゃないから不格好だが、勘弁してほしい」

「それは、まさか、可哀想(シェル)な(タ)兵士()?」


 その姿は確かに通常の人間の容姿ではなかった。


「おいおい、あんな死ぬかもしれないハイリスクな実験に参加している実験動物たちと一緒にしないでくれ。俺のは正真正銘スキルさ」


 ミックスは肩で笑うと、侵入者の方を見て、悩まし気に頭を振った。


「それにしてもお前だったとはね。俺は運がいい。また、こうして功績をあげられるのだから―」


 ミックスは侵入者を真っ直ぐ見つめる。


「―裏切り者の粛清と言う功績をね!」


 そう、侵入者はホイホイの国の人間。

 身内、味方、同僚。

 それはかつてルークとともに死線をくぐり、あの化け物、ラブジルの次期国王バレッタ姫との戦闘において生き延びた人物。


「正直、俺はそこまで親しくないが、何度かあいさつ程度はしたかな?」


 音量を操るスキルをメインとして戦う戦士。


「なぁ、リン上等兵。もしくは修練場師範代? 第三中隊長?」


 多くの呼び名は彼女の有能さを証明している。

 褐色の肌に、アッシュグレーぼさぼさの髪、小さな体躯からは想像できない力強く、素早い戦闘技術の数々。

 それはリン、その人だった。




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