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異世界から来た奴がモテモテチート過ぎてウザい  作者: 痛瀬河 病
第三章 祭りに群がる者たち
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牢の中の化け物、自由

――ホイホイ城、地下、罪人収容施設。


「すいません、お願いします」

「うん、別にそこまで震えなくっても大丈夫だよ」

「すいません。あの伝説の化け物が今ここにいるなんて信じられなくって、看守として情けないんですけど、近付きたくもありませんよ」


 石造りの階段をコツコツと一段一段降りていく。

 その足音の主は神崎礼嗣。

 彼は陽の灯ったろうそくの明かりを頼りに薄暗い城の地下に降りていた。

 そこは静かで時折小動物の足音が聞こえるほどの空間。

 神崎の手には一食分の食事の乗った木製のトレイ。

 地下にはずらっと鉄格子のはめられた牢があり、その一番奥に彼はいた。


 中性的な顔立ちだが、所々に火傷の跡が残る。

 真っ白の短髪に所々に黒の縞のような模様の入った髪型。


「やぁ、トライ、住み心地はどうだい?」

「まぁまぁ、快適さ。食事に不自由しないしね。自由は少ないのが欠点かな」

「そりゃ牢だからね。それぐらいは我慢してもらわないと」

「……我慢ね、いつお迎えが来るのやら」


 トライは頭の裏で腕を組んで枕を作る。

 そして、ぼうっと石の天井を眺めている。

 彼にこれといった拘束具はつけられていない。

 というより、獣族内でもトップクラスの身体能力を持つトライに人間規格の拘束具を付けたところで何の意味もなさない。

 彼はその気になれば、いつでも今いる牢を抜け出すことが出来た。

 

「君もよくわからない男だな」

「そうさ、僕はよくわからない男。だけど、これぐらいはわかる」


 トライは神崎の方をチラッと見て、また視線を天井に移す。


「この国は混沌の中心となる。今、世界がギリギリのギリギリで保っているような均衡、平衡を崩す中心点になるだろう。つまりここにいるのが一番暇しないってわけさ」

「でも、君がここにいるとまた君を奪還しに来る獣族の上の人間が来るんだろ? 正直、迷惑な話なんだけどな」

「来るだろうね。最低でも幹部クラス、下手すれば四老獣の誰か。そして、またここは混沌の瘴気の濃度が増す」

「……もう、牢開けとくから出ていってくれない?」


 トライはにやっと笑う。


「あの男が許すかな?」

「ルークのこと? 会ったの?」

「うん、挨拶に来たよ。自分の国を半壊させた男に仲間にならないかと誘ってくる変わった男だった。まぁ、丁重にお断りしたけどね」

「そうか、それは残念だ。出来れば君とは二度と戦いたくないんだけどね」

「僕はいつかリベンジしたいと思っているよ」


 トライは自由な男。

 そもそも自身の生まれが獣族だったので、そこに属していただけで自分の陣営にもさほど興味も思い入れもなかった。

 もし気が乗れば人間につくかもしれないし、また迎えでも来れば獣族の陣営に戻っていくかもしれない。

 もしくは、まったく違う陣営に加わる可能性もある。

 そんな自由な男だ。

 ただ、暇を潰せる楽しみがそこに存在さえしていればいいのだ。


「誰が来るかなー、でも今は僕が壊した分の修復作業に兵士まで駆り出されててるみたいだし、もう少し後の方が楽しいかもなー。隠密かな、それとも真っ正面からど派手に来るのかなー」

「来ない可能性は?」

「なくはない。自由に振る舞って来た僕だからね。ましてや人間の国で本当に捕まっているなんて信じないかもね。自力で戻って来るだろうと放置される可能性もあるけど、もうすぐ亜人族と本格的な戦争も始まる。早めに戦力を揃えておきたいだろうから、奪還しに来る可能性の方が高いかな」


 神崎の希望はトライの現実的な予想に潰され、藻屑となった。

 ルークたちは直接的に獣族と戦っていないので分かっていないだろうが、神崎は目の前のトライと死闘を繰り広げ、文字通り骨身に染みた。

 避けられるのなら避けたい戦いだ。


「にしても、ルーク? だっけ、君とは正反対のような男だったけど、よく組んでられるね?」

「……それは」


 神崎はルークのスキルによって、この世界に呼ばれた。

 色々、複雑ではあったが、一度死んだ身だ。そこからまた生きるチャンスを貰ったのだ。その恩義自体は感じている。ルークの考え方は極端ではあるが、それで最終的に全ての争いが収まるならと納得して協力もしている。

 しかし、本当に今のやり方で世界は平和になるのか?

 それもまた神崎の胸のどこかで感じていることであった。


「色々あるんだよ」

「色々ねぇ、不自由そうな顔してるね」


 転生のことはトライには秘密なので、最終的に濁した答えにとどめた。


「……ご飯、ここに置いておくね」

「ここの料理は何気に美味しいよね。僕の国なんて肉焼いて食えばいいみたいな考えの奴ばっかでね。今日は何だろ……オレンジのポテト?」

「パンプキンだよ。僕の世界にもあったけど、こことは収穫方法が違うみたいだ」

「僕の世界?」

「あっ、違う違う、僕の田舎ね。僕の生まれ故郷の話さ」

「ふーん、僕の住んでたところでも見ない野菜だ……野菜だよね?」

「……多分」


 一瞬神崎は異世界の事を漏らしそうになったが、トライは特に気にした様子もなかった。


「じゃあ、もう行くよ。鍵開けとくからね」

「別に開けてなくても、気が向いたら勝手に出るよ」


 こうして神崎の最近増えた日課の一つを終えた。




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