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異世界から来た奴がモテモテチート過ぎてウザい  作者: 痛瀬河 病
第三章 祭りに群がる者たち
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祭り、影

「『パンプキン祭』? なんだそれ?」


 ホイホイの城内、いつもの参謀室。

 しかし、その椅子に座るのはルークではない。

 彼女は机にぐでんと突っ伏し、部屋を訪ねて来た文化大臣から渡された書類に一応目を通す。

 ティグレ。

 気だるげに髪にウェーブのかかった年齢不詳の女。

 何故か、今日の彼女は働いている。

 それもルークの代理で。


 ちなみにホイホイ国内における文化大臣とは、祭りごとや国内の年内行事を取り仕切る役職で、正直あまり重要視されていない。

 ルークが適当に力量を見て選んだピンと張った髭が特徴の男だ。


 文化大臣はティグレのご機嫌を取るようにへらへらとした笑顔を張り付け、自身の手を揉む。


「へぇ、前年までのイリアタとは違い、兵力の高い我が国ホイホイでは、作物を食い荒らす魔物パンプキングの討伐数が例年より多くなっておりまして、例年までならその死骸は食材として城下町の市場に流通させるだけだったんですけど、今年はどうもそれでは量が多すぎて二束三文にしかならないのです」


 ティグレは理解してきるのか、していないのか「ほう」と適当に相槌を打つ。


「それなりに味も良く、このまま腐らせるのも勿体無いのでいっそ国全体で消費を促す祭りとして大々的に行事化しようと計画してみたのです」

「うーん、興味ないなー、私が判押すと私の仕事増えそうだしなー」


 文化大臣はティグレのあまり乗り気ではない態度に困窮する。

 しかし、文化大臣はこの計画書を敢えて今日持ってきたのだ。

 ルークに見せるより、今日突発的にだが、ティグレに変わったことでチャンスだと考えたのだ。

 文化大臣は扉の方に目を向けると「入ってくれ」と声を掛けた。

 

「おや、お前は」


 ティグレは呑気な声をあげた。


「ティグレ様、いつもご贔屓にありがとうございます」


 そこには小奇麗な中年の男性が立っていた。ティグレは普段城の中では半引きこもり状態なのであまり人と関わり合いがない。

 だが彼は城内ではある意味ティグレと最も関わり合いのある男だ。


「料理長のお前がどうしてこんなところに?」

「はい、本日は文化大臣の命を受けてやってまいりました」


 そう、彼は城内で出される食事の全てを取り仕切る責任者。

 長いコック帽、コックコート、前掛け、全部白で統一されていて清潔感が溢れている。

 つまり、食いしん坊のティグレからすると、最も合う頻度の多い人物だ。

 料理長は手に持った銀製の蓋の被せられたお皿をティグレの前に差し出す。


「……これは?」

「ティグレ様のお口に合うとよいのですが」


 料理長は敢えてその問いに一度目で答えず、蓋を開ける。

 その下には優しいオレンジ色をした一切れのケーキが鎮座していた。


「我々がこの日の為に研究に研究を重ね作り上げたパンプキンケーキです。どうか召し上がっていただけませんか?」


 ティグレは少しその皿の上のケーキを眺めて、口を開く。


「ふん、お前たちは大人しくモンブランだけを作っていればいいものを……まぁ、そこまで言うのなら、食べてやらんこともないがな」


 と、言う割には素早く手掴みでパンプキンケーキを口の前まで運ぶ。


(なるほど、下地はタルトか、ケーキと言うよりパイに近いのか、タイプとしてはモンブランに似ているな。ホイップクリームでデコレーションされた見た目も良い)


 目で楽しんだ後、ティグレの小さな口がケーキの先を飲み込んでいく。

 

「「「……………」」」


 三者は沈黙。

 部屋にはティグレの咀嚼音だけが小さく聞こえるのみだ。


 ティグレは、味覚のポテンシャルを最大限まで高める為に目を閉じる。

 そして、口の中の空にすると、無言で残りも口の中に運んでいく。


 その様子に文化大臣と料理長は顔を見合わせる。

 期待半分、不安半分。

 まだ、互いに安心はしていない。


 完全に皿の上を片付けたティグレは、いつもの気怠そうな半目からは想像もつかない大きさまで目を見開く。


(パンプキンは本来普通の食事として出される食材で、デザートと言う発想のない濃い味と果肉を過熱によるほくほく具合を楽しむものだと思っていたが、こうしてみると何故、今まで気が付かなかったのかとも思えるほど、しっかりとした甘みのある食材だ。パンプキンの濃厚さを上手く活かしている。口触りもしっとりとしててサクサクのタルトと調和している。そして、甘さの種類としては甘いが甘すぎない。パンプキンの用途がデザート、甘味のみにないことが強みとなっているのだろう。万人受けはしないがはっきりとした支持層を得ることの出来るタイプの味だろう)


「……まぁ、ギリギリ合格だな」


 その言葉に文化大臣と料理長は顔を輝かせた。


「「ありがとうございます」」


 二人は頭を下げ、文化大臣は少しだけ顔を上げると、ティグレに慎重に尋ねる。


「では『パンプキン祭』の書類に判を押してもらえるのでしょうか?」

「まぁ、仕方ない。料理長の顔に免じて今日だけだぞ」


 ティグレは恩着せがましく手元の判子を朱肉につけ『パンプキン祭』の企画書に判を押した。

 二人が満足気な顔で部屋を出ていこうとすると、ティグレが「料理長」と呼び止める。


「……シナモンはもう少しだけ量を減らせ、私はあまり好まん」

「承知しました」


 こうしてホイホイでは、約一か月後に祭りが開かれることとなった。


「面倒なことだ」




――ホイホイ下水施設


 ちゅうちゅう、ちゅうちゅう。


 どこからともなく、そんな声が聞こえてくる。

 その音に紛れるように僅かな足音が下水道を駆ける。


「おい、城へ続く道はどっちだ」

「待て、今地図を取り出して調べている」


 二つの影は一瞬その場で止まり、すぐに次の指針を決め、駆けだす。

 どうやら城への方向が分かったようだ。

 だが、そちらは、


―ビリビリ


「ぎゃあああ‼」

「どうした⁉」


 前方を行く一人が悲鳴を上げる。

 まるで見えない何かに攻撃されたようだ。

 慌てて倒れた相方に近寄る。

 しかし、抱え起こすも、もう息はない。


―コツコツコツ


 その二人の後方から靴音が下水道に反響する。


「やめておくのじゃ、こんな国入ったところで何もないぞ」


 その幼さの残る声から生き残った方は、この場にいることの違和感と不気味さに一瞬動けなくなる。


「どこの国のものじゃ? 言えば楽に殺してやる」

「お、おおお、おっ、俺はアシロに雇われただけの無所属の冒険者だ。あんたらに敵意はない。みっ、見逃してくれ!」


 冒険者だという男は必死に懇願した。

 彼女の目の下の入れ墨が闇の中で怪しく蠢く。


「すまんのぉ、お前はもう私の巣の中に入ってしまった」


 しかし、彼女にもう慈悲はなかった。




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