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出会い、邂逅

 森の中をボロボロの彼と手を繋いで歩いた。

 彼は身なりは汚いけれど、顔はハンサムで私は場を繋ぐために必死に話しかけた。

 自分の身の回りの話をした。

 変わったメイドがいること、家のことや、親の仕事の話。

 ボロボロの彼の虚ろな瞳は、私が自分の事を話す度に明るくなっていったような気がした。


 そして、暗く大木に隠されていた陽の光が再び差し込み始めた。


 私は「やっと迷子が終わるのね! 案内してくれてありがとう」と言った。


 彼は「どういたしまして」と言って、もう一言付け加えた。


「君は恵まれてるんだね」


 彼はボロボロの衣服の内側から、人差し指ほどの長さの果物ナイフを取り出した。

 嘘でしょ?

 信じられない事態に、私は自身が毎日稽古していた格闘術も全く動かない体には無意味だった。


「羨ましいなあ、死んでよ!」


 ボロボロの彼はナイフを振り下ろした。

 私は目を閉じ、短い人生の終わりを覚悟した。


『馬鹿か、お前は』


 ボロボロの彼は、横から聞こえてきた声に一瞬動きを止め、次の瞬間には殴り飛ばされ、気絶していた。

 殴り飛ばした声の主はもっとボロボロだった。


「裕福な相手なら、殺さずに家まで送ってやってお礼なり、寄生するなり、甘い蜜を吸う方法はいくらでもあるだろうが、何故真っ先に殺そうとする」


 もっとボロボロの汚らしい彼は、心が更に汚かった。

 彼の言っていることは私を利用してやるつもり満々だった。

 しかし、その時の私は状況をよく理解できておらず、とにかく助かったのだと、お礼を口にした。


「あっ、ありがとう」

「そうだ、俺は今お前を助けてやった。だから、お礼を貰えるのは当然だよな?」

「え? うっ、うん家に帰ったら、パパとママに聞いてみるね」

「あぁ、俺は今暮らすところがないんだ。ボロ小屋でいいから家を一つ貰えると助かると言っておいてくれ」


 もっとボロボロの彼の要求はとても図々しかった。

 しかし、今まで私にそんな態度をとるものがいなかったため、とても新鮮に思えた。

 さっきまで殺されそうになっていたことも忘れ、私は肩の力が抜け、笑ってしまった。


 だから、気が付かなかったのだろう。

 背後で気絶していたと思っていたボロボロの彼が目を覚ましていたことに。


「おい、馬鹿! 後ろ!」


 もっとボロボロの彼が声を荒げた時には遅かった。

 ボロボロの彼のナイフに反応できるだけの時間は私にはなかった。


 だけど、もっとボロボロの彼は反応した。


 私と自身の身体の位置を入れ替えると、迫りくるナイフにその身をさらした。

 もっとボロボロの彼は自身の脇腹にナイフが食い込み、その場に膝をついた。


「ちっ」


 ナイフを持っていた少年の舌打ちが聞こえる。

 そして、もっとボロボロの彼の脇腹に刺さったナイフを今度は私に刺すために、引き抜こうとする。


 だけど、もうそんな時間はなかった。


 私はナイフ少年の顎に思い切り掌底を繰り出すと、怯んだ隙に下段蹴り、倒れた状態のナイフ少年の腹に全体重を加えた膝を落とした。

 今まで、教えられてきた護身の技を始めて実践で使えた瞬間だった。

 私の中にあった怯えのようなものがこの時完全に消えていた。


 私の目の前には二人の男の子がうずくまっていた。

 

「はやく、そいつを殺せ」


 刺された方の男の子は物騒なことを言っている。

 私はその言葉を無視して、その子に質問する。


「なんで、私を助けたの?」


 刺された方の男の子は、脇腹を抑えながら笑った。

 しかし、声を出すのはどこか辛そうでもあった。


「お前が…金持ちの娘なら…命の恩人になっておくのも…悪くないと思っただけだ」


 それは完全に見え見えの後付けの理由で、結局その子は本当の理由なんて教えてくれなかった。もしかしたら、自分でも分かっていないのかもしれない。


「俺は命の恩人だ、お前の命は俺のものでもある、そいつを殺せ」

「なんで、殺すの?」


 その子は殺すことにこだわった。

 命は奪ってはいけないと私はよく教わっていた。


「自分の、命を、脅かす者は殺しておかなきゃ、いけない」

「自分の命がそんなに大事?」

「当たり前だ、俺は魔王になる男だ」


 男の子はわけのわからない虚言を吐き、私はますます首を傾げた。


「じゃあ、もし私があなたについて行けば、魔王の右腕になるってこと?」

「あぁ、してやる」


 男の子は大真面目に頷いた。


「この世のものは二つに分けられる。自分のものと他人のものだ。魔王になればそれは一つになる。全部、自分のものだ。お前、名前は?」

「リオン、リオン・リィ・バティスティよ」

「そうか、ならお前が俺の最初の所有物だ。命を救ってやったんだ。文句はないだろ?」


 当然、文句はあるが、それを口にする気にはならなかった。

 ただ、私の中でこの子と居ると、全てが嵌っていく気がしたのだ。

 不思議なことに彼の為なら、私は百パーセントの力を振るえた。


 命を救われたのは事実だし、このまま貴族の娘として行儀の良い人生だけでは、つまらないと思っていたのだ。

 何も出来ないと思っていた私はこの男の子といただけで、目の前のナイフを持っていた少年を撃退できた。

 この男の子が最底辺から私を得て、どこまで登れるのか見て見よう。


 そして、咄嗟に私を身を挺して庇ってしまったように、これの奥底には本当は誰よりも優しい、そして言葉には出来ないものが眠っているはずだ。

 それは彼自身も分かっていない事。

私だけが知っているのだから、私は傍にいてあげたい。


「あなた、名前は?」

「ルーク、ルーク・レビヨンだ」

「そう、ルーク、良い名前ね。魔王になれる日を楽しみにしているわ」


 私はルークの脇腹に刺さったナイフを強引に抜き、その手にしたナイフでナイフ少年の首を掻っ切った。

 そこに躊躇いの気持ちは薄かった。

 彼の為ならと言う気持ちが勝っていた。


「さぁ、まずは帰りましょう……ん?」


 その当時は知らなかったが、ナイフを抜いたことで腹からの出血がひどくなり、ルークは一週間程昏睡状態で意識が戻らなかった。

 あの時はアレットがかなり慌てていた。


これが私とルークの出会いだった。

 それから数年は彼の実力が威勢に伴ってない事を知り、それでもいいかと楽しく暮らしていたのだが、まぁ、それだけで終わるわけはないと分かってはいた。

 神崎、ティグレ、まるで何かの開始の合図のように二人がルークの前に現れるのだった。




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