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面倒な仕事、誰もやりたくないよね

 深い森の中、霧も濃いその中で、その者たちは囁き合う。


「トライがやられたみたいだな。紅玉に反応が無くなった」

「え~、マジですか~、まぁ、トライさんは四老獣の中でも最弱ですし、仕方ないですよ」


 力強く野太い声の主の話に、呑気な声の主が余裕の笑みを見せて乗っかった。


「「…………」」


「え? 二人とも何で黙るんですか?」

「いや、ぶっちゃけ、トライより最弱なのは、寧ろ」

「えぇ、非常に言い辛いのですが、何というかバサギさんの方じゃ」


 知性的な声の主も言葉を濁しながら、会話に加わる。

 しかし、二人の結論に納得がいかないのか、切り株の机をバンっと叩きつけるバサギと呼ばれた呑気な声の主。


「もう! ほとんど答え言ってるじゃないですか! 私が四老獣最強の一人バサギちゃんですよ!」

「「いや、それはない」」


 二人の声が重なる。


「ちょっと! ここで、決着付けてもいいんですよ!」


 呑気な声は袖をまくり腕を回す。


「いや、今はそれよりトライさんの回収が先じゃないですか? 生きてはいるんですよね?」

「それがわからん、この紅玉は対象者の意識のある場合だけ現在地点を知らせるもので、そいつの意識が途絶えたら、紅玉の光は消える」

「えー、それ一世代古いタイプの紅玉じゃないですか、最新型買いましょうよ。四老獣がけち臭くないですか」

「馬鹿、上が節制することで、下がついてくるんだ」


 野太い声は、呑気な声をしかりつける。


「で、意識の途切れた場所はどこなんですか?」

「人間内領土だな。これは最近、話をした新国家のある場所じゃないか?」

「うわっ! あの若作りジジイ、自分は興味ないみたいなこと言ってたくせに、一番に乗り込んで返り討ちにあってやんの」

「そう言うな、トライの本能(ソウル)は貴重だ。いなくなってはこれからの戦争に不利だ。誰か回収に向かわせよう」

「まぁ、仕方ないですね。うちは探索メインの子ばかりなんで、ゴータンさんのところお願いしますね」

「馬鹿言うな、うちは戦力特化だぞ、亜人族を常に警戒する必要があるだろう」


 そう言いあうと、二人の視線が知的な声の主の方に向く。


「……はぁ、二人とも素直に可愛い部下を使いたくないと言えばいいでしょ。確かにトライさんが退けられたのがまぐれでないなら中途半端な部下を送っても駄目でしょうしね」


 二人の腹の内を読み、知的な声は溜息をつく。


「自力で帰って来るんじゃないですか?」

「……回収はあんたの提案なんだけど」

「こいつが一番適当だな」


 誰がやるのか、同僚に対して冷たさすら感じる三つの声は睨みあいを続けた。


「みんな、どうしたの?」


 そこに新たな声が加わった。

 三つの声は、すぐさま背筋を伸ばし、膝をつく。


「いえ、大したことでは」

「みんな、自分が自分がって、お仕事にやる気を出し過ぎてたんですよ」


 しれっと嘘をつく呑気な声の主。


「ふーん、まぁ、いいや亜人族との本格的な戦争の日取りが決まりそうだよ」

「それはそれは、ついにあの生意気な亜人どもに目にもの見せてやれますね」

「選ばれた者にしか持ちえない獣族の切り札『本能(ソウル)』これを一般兵にまで与えることが出来る策が出来たのですか!」


 声は皆どこか弾んでいる。


「うん、まだもうちょっと先かもしれないけど、ぼちぼちね」


 新たに加わった声の主がきょろきょろと辺りを見渡す。


「そう言えば、トライくんはどこ?」

「「「……………」」」


 弾んでいた三つの声が鳴りやむ。


「どこ?」


 呑気な声の主が慌てて誤魔化しにかかる。


「ええとですね、あの、その、ちょっとまた遊びに行っちゃったみたいです。次の時には帰って来るとは思うんですけどね」


 新たな声は少し黙って、納得する。


「ふーん、あの自由人にも困ったものだね。みんなが責任を持って連れて帰って来るんだよ」

「「「はい!」」」


 新たな声が消えた後、三つの声はクジでしぶしぶトライの迎えに行く係を決めた。


 そして、深い森の中で、霧に紛れるように、その声たちは霧散し、またどこかに消えていった。





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