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彼は何を、彼らは何を

 せめて、せめて一瞬だけでいい、動きを止めてくれれば。

 神崎は荒ぶる蟲大蛇に苦戦していた。

 捨て身、命懸け、特攻。

 最後の灯が強く煌めくように、蟲大蛇は不規則で、予想のつかない動きで神崎を翻弄する。


 無数の手が神崎を上から押し潰す。


 双頭(アクア・)(フレイム)、上空めがけて放つ炎は蟲大蛇の腕をいくつか焼き払う。


「……ふふ、先ほどまでと動きが違うだろう。そいつには最後に一泡吹かせてやれと死を覚悟した命令をしている。常に的にならぬよう暴れまわり、命尽きるまでお前に向かっていく」


 地面に大の字で転がっているトライは神崎に聞こえているかも怪しい声でぼそぼそと話した。


 焼く、殴る、蹴る。


 徐々に弱らせてはいっているが、決定打を打つには、的が動き過ぎる。

 大きな攻撃にはそれだけ溜めが必要だ。

 どうしてもモーションが大きくなる。

 それは今の蟲大蛇相手に許されないだろう。


「……あぁ、楽しかった。いい暇潰しだった。僕は暇じゃない」


 トライは死に際のうわ言のようにのたまう。


「あぁ、もう無理なんじゃない? 君も暇じゃなさそうだ、街は今頃崩壊しているんじゃないか?」


 神崎は、一瞬、あと一瞬の時間の制止を欲した。


 無数の手の先についた鋭い爪を神崎はへし折る。

 蟲大蛇は怯むことなく、今度は固い鱗に覆われた長い尻尾を後方から振り下ろす。

 これは炎で焼いたところで落ちてくる尻尾の重量に潰されてしまうので、回避に全力を注ぐ。

 躱したところで、すぐさま一発お見舞する。


 頼む、頼む、誰か、


ドリユ‼ ゴガリュ‼ ドラドラッラド‼


 それは神崎も何度か聞いた爬虫類の叫びのような声。

 神崎は当然聞いたことがるだろう。 

 今目の前にいる蟲大蛇、そしてトライが蟲大蛇たちに命令をするときに発していた声だ。

 それは蟲大蛇の鳴き声、しかし、それを発したのは目の前の蟲大蛇でもトライでもない。


 ハッとなる。


 目の前の蟲大蛇の動きが止まっている。

 魔物の表情は分からないが、それはどこか故郷を懐かしむような憂いを帯びた姿に見えた。

 その気持ちを汲み取る余裕は神崎にはない。

 そして、今喉から手が出るほど欲しかった一瞬が出来た。

 グッと拳に力を溜め、それを放つ。


 双頭(アクア・)(フレイム)〈最大火力〉‼


 その威力は999、馬鹿らしいほど凄まじい火力。

 炎もだが、放たれた炎の勢いだけで蟲大蛇の身体は浮き上がる。

 先ほどの最大火力はトライを逃がさない為の最大値の範囲攻撃だった。

 しかし、今回は止まった的に凝縮した一本の火柱を放った。

 同じ最大火力でも威力差は歴然だ。


 全身炭となった蟲大蛇はボロボロと表皮が剥げ、大きな地鳴りをさせえると、地面に倒れ、今度こそ完全に動かなくなった。


「は? 今のは誰が? どいつだよ、僕の暇潰しの邪魔をしたのは!」


 トライは起き上がることは出来ないが、その場で激昂する。


「……私です」


 門は崩れ、大地は蟲大蛇と神崎との戦闘で剥げあがった大地。

 そこに声の主は現れた。


 庶民でも、いやもっと貧民層でも簡単に手に入るスキルがある。

 究極に簡単な獲得方法。

 三回まわって「ワン」と吠えるだけで手に入る宴会芸、見世物にしかならないスキル。


【能力名】

 物真似(ワン)芸人(ワン)

【LEVEL】

 LEVEL3

 ~次のLEVEL到達まで、人前で二十三回見せて笑われなくてはならない。

【スキル詳細】

 五度以上聞いた動物、魔物の声を再現することが出来る。

 ただし、音域はスキル使用者の限界に準ずる。

 一日三回。

 

 トライは自分の傍に寄ってきた者に目を見開いた。

 そして、今度は目を閉じて、馬鹿らしそうに、満足そうに笑った。

 そこにもう怒りはない。

 最高のエンターテインメントを見た客のような感情が胸を支配する。


「ほら見ろ、やっぱり本物だった」


 トライに近寄る女の子に慌てて神崎が駆け寄る。


「君、そいつは危険だ! 離れて!」

「……大丈夫ですよ、ちょっと変わった人ですけど、悪い人ではないと思うんです」


 その女の子の名前はイチ。

 森でトライと出会った元奴隷の少女。

 イチの持つスキルも奴隷時代に見世物として無理やり習得させられたものだ。


 イチは地面に転がり動かないトライに告げた。


「……もう私達にはこの国しかないんです。ルーク様の作られた私たちの居場所を奪わせはしません」

「ははっ、誰だよ、そいつ」


 トライは笑った。

 満足いく結果だ。

 最後の最後に強者ではなく、弱者に敗れた。

 数々の猛者を殺してきた。

 面白い敵を探しては、ちょっかいをかけて殺した。

 どいつもこいつも手強かった。

 勝つこともあった、負けることもあった。

 結局、より強い者が勝つ、当然の結果だ。

 だが、当然なんてつまらない、退屈だ。


 暇じゃないか。


「この結末は読めなかったな、どうせ死ぬならこんな死に方がいいよ。最高だ、暇じゃない、笑い過ぎて暇なんてないね」


(何カッコつけて本物だとか、言っちゃったんだろ。最高に間抜けだな男の死に様だな)

 自分ですら退屈潰し、暇潰し、ショー出演者。

 ただの観客ではいられなかった。


「……何? 今、僕は満ち足りてるんだ。邪魔しないでよ」


 トライはジト目で何か言いたそうに見下ろす神崎を見た。


「……トライ」


 勝敗は決した。

 獣族、四老獣の一人、トライ。

 彼は敗れたのだ。


 その時、神崎は何を思う。




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