表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/284

もう一人の怪物、その名は

「一体、これはどうなってるんだあい?」


 ニニは困惑していた。


 セブンズの一人、ニニは街の中に侵入した魔物を討伐するために神崎と分かれ、魔物を追った。

 彼女もホイホイ屈指の実力者には違いないが、今回街に侵入を許した魔物の中には蟲大蛇がいた。

 この手足が百足のように多い巨大な蛇のような魔物は本来人間の生息エリアとは交わることはなく、また出会えば命はないと言われるほど強く凶暴な魔物だ。

 ホイホイの中でこの魔物を倒せるとしたら、神崎か強華、もしくはセブンズが複数でかからないと無理だろう。


「あれは、もしかして?」


 しかし、目の前に広がる光景はその理屈も現実も裏切った。

 街の中に侵入した二体の蟲大蛇を圧倒する者がいた。


「……あの時、ナナキんと稽古してた一兵卒君?」


―ドラァァ‼ グラァァ‼


 蟲大蛇の奇怪な咆哮がホイホイに響く。


「ヴァアアア‼」


 しかし、その蟲大蛇と戦っている人間も負けず劣らずの奇声をあげていた。


 そして、その様子を目にしたのは、ニニだけはなかった。


「……あいつ、何してんだよ」


 一般市民を非難をさせていたホイホイの兵士ルイもまた困惑の声を出した。


「……本当にあいつがバルコスか?」


 バルコスと言われた青年兵士は、人間の限界を遥かに超えた跳躍を見せ、蟲大蛇の眼前に飛び、いつも使っている剣を乱暴に獣のように振り下ろした。


―ガツ‼ ガツッ‼ ガツッッ‼


 それはもはや剣としても用途を成しておらず、こん棒のように殴りつけるようだった。

 その一撃、一撃が重く、蟲大蛇の顔面は大きく地面に落ちる。


「ヴァヴァヴァヴァ‼」


 バルコスはもはや自我を失っているように見えた。

 ただ、目の前の敵を滅ぼすことだけに集中していた。


 次第に蟲大蛇は衰弱していき、あと一歩のところまで追い詰められていった。


「ヴァヴァヴァウウアア‼‼」


 バルコスは相変わらず一方的に攻撃を繰り返し、徐々に興奮の度合いを強めていった。


 すると、びきびきと卵にひびが入るような音がした。

 そして、彼の瞳は本来の色を侵食するように紅く濁っていく。


「ん? あれは?」

「おい! ふざけんな‼ なんで、バルコスが」


 どちらも離れて様子を窺っていて同じ場所にはいなかったが、ニニとルイの言葉が偶然重なった。


「「濁血化!」」


 バルコスの額から鹿のようなたくましいうねった角が一本生えてきた。

 肌が露出した腕からは人のものとは思えぬほど毛並みがよく強靭な体毛が生えてくる。



 遠くの土地でルークは思う。


「あいつは確か十五パーセントだったな。そこらが限界だな」


 ルークはアレーニェの姿を見て興味があったといった。

 ルークはバルコスに力を与えると約束した。

 ルークは自国の兵を他種族にも負けぬほど強化したかった。


 結論は見えていた。



 濁血化したバルコスはさらに圧倒的で、蟲大蛇二体の命をあっさりと奪った。

 身体中に蟲大蛇の血を浴びたバルコスは放心し、辺りをきょろきょろと見回した。


「ヴぁヴぁヴぁ‼」


 突然、風のように姿が見えなくなったかと思うと、蟲大蛇の他にも街を襲っていた魔物の首を手刀で落とした。


「ヴぁヴぁヴぁ‼」


 次々と魔物を殺して回るバルコス。

 辺り一面の魔物が片付き、ようやく落ち着きを見せるかとニニとルイは様子を窺っていた。

 しかし、店先でその光景に怯え、失禁し動けなくなっていた少女がいた。


「ヴぁヴぁヴアアアア‼」


「あの子、敵と味方の区別ついてないじゃあん!」


 ニニは慌てて少女とバルコスの間に割って入ろうとする。

 しかし、ニニの距離からではギリギリ間に合わない。


―バシュ、鈍い音が虚しく辺りに響いた。


「もういいんだ。もう終わったんだよ、バルコス」


 距離の関係から、ルイはバルコスと少女の間に割って入ることが出来た。

 ルイはバルコスの頭にそっと手を置いた。

 

「ヴァヴァ?」

「私だ。ルイだ。忘れてんじゃねーぞ」

「ヴァイ?」

「そうだ、ルイだ。散々稽古つけてやったろ」

「ヴァイ……ルい……ルイ?」


 バルコスの角と豊富な体毛は体内に引っ込み、瞳の色も正常な色に戻っていく。

 バルコスの濁血化が終わり、意識が戻って来た。


「……ルイ、これは僕がやったのかい?」

「気にするな、丁度ピアスの為に耳に穴を開けたかったんだ」

「でも、でも、これは」

「……耳も腹も変わらねーわな。あと、出来れば早く病院に連れていってくれ」


「うあああああああああ‼」


 バルコスは涙した。

 ルイの腹にはバルコスの手刀が刺さり、貫通していた。


「君、とにかく彼女を病院に運ぶんだあい」


 ニニは冷静に状況を判断し、バルコスにかけより言葉を送った。


「ニニ様、僕は、僕は」

「大丈夫だあい、これぐらいじゃ死なないから」

 

 バルコスは大切なものを守りたかった。

 そのために力を欲した。

 その結果がこれではあまりに報われない。

 しかし、安易な力にリスクは付き物なのだ。


 バルコスは、自身の進退を今一度考えなくてはいけない。


(うーん、これ多分ルークさんの仕業だよなぁ、普通の病院に運んでいいのかなぁ)

 ニニもまた複雑な立場に立っている己の中の葛藤と悪戦苦闘していた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本作をお読みいただきありがとうございます。
出来れば1ptだけでも評価を戴けると嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ