威力、死を
突然だが、直接的攻撃力のあるスキルには威力という項目がスキルカードに存在していて1から999までの範囲でその威力が表されている。
神崎の滋養強壮やバレッタの握力超過ように本人の能力に依存するものにはないが、リオンの威風堂々(ダストデビル)、神崎の双頭竜、アレーニェの電気鼠はそれに当たる。
それぞれ威風堂々(ダストデビル)が12、双頭竜が999、電気鼠が300となっている。
これは分かりやすく言えば、人間基準のダメージ度で、高ければ高いほど命を奪える威力になってくる。
1~49はかすり傷や小さな痣が出来る程度の威力これはもはや直接殴った方がマシなまである。ただし、遠距離攻撃系のスキルなら牽制としての意味は持つ。
50~299はかなりのダメージを負わせることが出来る。範囲が広すぎるが、50がこん棒で殴る程度、299ならスイカぐらいの石を時速百キロでぶつけられるぐらいだ。例えが難しいが、人間基準なら大ダメージを負わせられると思ってもらえればいい。
300~ここからは、分かりやすい基準がある。人の命を一撃で刈り取れる威力。そう思っていただければいい。
つまり、神崎とアレーニェのスキルは、
躱せないスピードなら、躱さなければいい。
とんでもないパワーの攻撃なら撃たせなければいい。
つまり、凄いスピードとパワーを持った奴を相手にするなら、常に自分が攻め続ければいい。
神崎の一撃いちげきの拳と蹴りは鋭かった。
トライにイノシシのように向かっていき、息もつかせぬ猛攻を繰り広げる。
当然、トライは避け続けるが、先ほどより明確に殺意のこもったその攻撃に反撃の機会を見失いつつある。
「こなくそ、いい加減にしろ!」
トライは無理気味に得意の猛スピードパンチを神崎に食らわせた。
「「ぐっ‼」」
しかし、これに神崎も反撃の拳で返す。
相手の拳が自分に触れていると言うことは、手の届く位置に相手がいると言うことだ。
ともに、パンチの勢いで数歩下がり、たたらを踏む。
神崎のリミッターを外した戦闘においての互いの力関係は、スピードはそれでもトライ、パワーは互角。
今は神崎に勢いがあるが、このまま肉弾戦を繰り広げればまた徐々に押され始めるだろう。
ならば、近接に付き合い続けるのは、得策ではない。
「……ふぅ」
神崎は小さく息を吐く。
そして、上空へ高く飛んだ。
「馬鹿だね、格好の的だ!」
トライは重力によって落ちてくる神崎を待ち受ける。
双頭竜
神崎の手からはゆらゆらと妖しい炎が見え隠れし始めた。
「また、それか! 僕の見てから躱せるスピードの前では無意味だ!」
双頭竜の威力は999、これは人類最大火力を意味する。そして、彼はまだ一度も人を殺めたことがない。
スキルカードに示された威力はあくまで最大値を示しており、そこから威力を加減し弱めることはスキル使用者には可能だ。
つまり、神崎はまだ全力で撃ったことはない。
双頭竜〈最大火力〉‼‼‼
「は?」
その炎は大地を覆った。
逃げ場など存在せず、どんなスピードも無意味と化した。
轟轟とうねる炎は、後ろで主人の戦闘を見つめていた蟲大蛇も焼き、炎の中心にいたトライの肌を焼き、は体を地面に転げまわらせている。
究極の範囲攻撃。
「……これが最大火力か」
神崎は自身の足元と後方の森に燃え移った炎を双頭竜の水で沈下させた。
その頃には、転げまわっていたトライと蟲大蛇はピクリとも動かなくなっていた。
神崎は初めて獣族とは言え、人型の生き物を殺めたことに良心の呵責を覚えた。
せめて死体は供養しようと、黒焦げのトライに近寄っていく。
「……そうだ、トライとは街の蟲大蛇を止めて貰う約束をしたんだった」
悲しいかな、初めて殺した相手に対して、殺したことへの最初の後悔の理由はとても打算的なものだった。
早く街の中に戻ってニニたちの手助けをしないとな、そう思いトライの死体に手を伸ばした。
「……獣族の生命力を侮るなよ」
伸ばしたその手は死者によって掴み返された。
否、トライは生きていた。
その美しい中性的な顔や身体を火傷に爛れさせ、炭のように黒くなりながらも生きていた。
人間なら絶対に死んでいる火傷面積。
しかし、彼は姿が似ていようとも人間ではない。
神崎は相手に悟られないように驚愕の感情を隠し、死者と思っていた相手と淡々と会話を始めた。
「生きててくれて嬉しいよ。勝敗は決したよ、約束通り街や門周辺の魔物たちを引かせてくれ」
これに大した時間も掛けずトライは了承する。
「……ちっ、わかったよ」
トライは何度も咳払いをして、煙を吸った喉を整えた。
「ドッリュ‼ ゴリュ‼ ドラドララッラ‼」
トライはどこにそんな余力を残していたのかと驚くほどの大地に響く大声を発した。
そして、またばたんと全身を大地に広げる。
「……ねぇ、君、名前はなんて言うんだい?」
「神崎礼嗣、これが僕の名だ」
「そうか、礼嗣。最後に一つ忠告だ」
神崎はやや眉をひそめたが、次の瞬間には巨大な手によってその場から剥された。
「……敵を信じるなよ」
死んだと思っていた後方の蟲大蛇までもが生きていた。
そして、恐らくトライの発した謎の鳴き声で神崎を正確に捉えたのだろう。
強大な手に掴まれた神崎は、今度こそしっかりと止めを刺そうと、拳に力を込めた。
「……へへ、そいつで君を殺せるとは思ってないよ。最後の嫌がらせだ。でも、そいつは僕の声で意図的に錯乱状態になったから、さっきまよりは少し手強いよ」
そう、これは時間稼ぎ。
トライの目的は、街の魔物たちが一人でも多くの人間を殺すための時間稼ぐことだった。
「へへ、精々足掻きなよ」
逃げる力すら残っていないトライは、その場でいやらしい笑みを浮かべて最後の戦いを見守った。




