攻略、その糸口はあるのか
ガガガッ‼
ガジャン‼
ドドドッッ‼
ベリベリッッ‼
それはまるで工事現場のような騒音。
そして、それはあながち間違っていない。
その音はバレッタが、村中の建物を解体しながら、アレーニェに迫って来る音なのだから。
「馬鹿が! これ以上好きにさせるものか!」
―シュ、シュ
アレーニェは、バレッタに向かってダートを放つ。
時速にすれば、メジャーリーガーばりの百マイルだが、それはバレッタにあっさりと掴まれる。
「こんなおもちゃ、投げてるのが人間な時点でたかが知れてるぜ」
そう、弓とは違い手で投げるダートは射程もスピードも大幅に下がる。
しいて、性能が上がるとしたら、コントロールだろうか、それも達人クラス同士の間では微々たるものでしかない。
しかし、それでもアレーニェは、ダートの発射をやめない。
近距離戦になれば、アレーニェが不利だ。
距離を保つ意味でも、この攻撃はやめられない。
―シュ、シュ
「何度やっても同じだろうが!」
バレッタは、そのダートをやすやすと掴んだ。
アレーニェはその様子にほくそ笑む。
「……頭の足りん獣め」
―ビリッッ!
「くっ」
バレッタは思わず顔をしかめ、手に握っていたダートを放す。
バレッタの手は黒く焦げていた。
「ご明察の通り、私は電気を流すスキルを持っておる。お前がいちいち私のダートを掴んで破壊するなら、糸だけに流す理由もなかろう」
【能力名】
電気鼠
【LEVEL】
LEVEL7
~次のLEVELまで、七年三か月十一時間、人を殺めぬこと。
【スキル詳細】
触れた物質に電気を付加することが出来る。
ただし、付加できる物質は自身の体重と同程度までとする。
例)
スキル使用者が体重50キロとした場合。
10キロの物質5つまでに電気を付加できる。
電気詳細
・生き物に付加することは出来ない。
・付加された電気によって、その物質が破壊されることはない。
・電気は常に付加された物質に半永久的にとどまり、生物が触れた時点でその生物の身体に流れる。この場合、その生物は電気のダメージを負う。
・電気が生物に流れなくても解除は可能。
・威力300
アレーニェはただの電気使いのスキルにあらず、特殊な電気、付加する電気を使用するスキル持ちである。
つまり、アレーニェは今までダートに電気を付加しなかったのは、しないのではなく出来なかった。
小柄でぺったんこで、まだ幼いアレーニェの体重は38キロ。
村中に軽量の糸を用いることで自身のスキルのポテンシャルを最大まで利用していたが、バレッタが糸を破壊して回ることで無意味になった糸の電気を解除し、ダートに付加することに回したのだ。
これで、次回からバレッタはダートを掴みづらくなった。
しかし、回避に徹すれば、またその先に見えない電気の流れた糸があるかもしれない。
一度死んだ武器であったダートは、こうして生き返る。
村の建物の破壊は、アレーニェ攻略の鍵ではあるが、糸の電気が解除されればされるほど、アレーニェ自身が自由に使える電気が増え、本体のアレーニェが強化される。
村全体の建物の破壊率は現在三割程度、まだ上手く対角線に入られればバレッタはアレーニェに近づくことは出来ない。
そして、大雑把な建物の破壊でバレッタは何度も電気を受けている。
いくら毎日休日で自身の傷を回復できるといっても、使用するごとに疲労は溜まる。そして、電気のダートまで追加された。
じり貧だ。対バレッタとしては完璧なじわじわと距離を置いて弱らせていく戦法。
バレッタの頭の端で、ルークに助けを求めるべきなのではと言う思考が浮かび始めた。
スキルにおいてはルークも近距離型なため使い物にならないが、ルークは今も恐らく腰に拳銃を隠しているのだろう。
ダートよりも早く、威力も高い遠距離攻撃。
現在ルークが何発発砲可能かバレッタは把握していないが、ゼロはあり得ないだろう。
手を出すなと言った手前、ルークがバレッタに過度に干渉する様子はない。
せいぜいこそこそと糸の解除の補助程度だ。
バレッタが声を掛けるしかないのだろう。
戦闘狂のバレッタが自身の戦闘の手伝いをしろと言わなくてはならない。
これは屈辱でしかない。
バレッタは思考する。
飛び道具だ。
それもあの糸を潜り抜けるような小さくてもダメージを与えられるようなものがいい。
小さくて、ダメージを、糸を潜り抜ける?
バレッタは、ルークに求める助け、その言葉を飲み込んだ。
彼女は一人で戦う事を選んだ。
「うおおおおりゃああああ!」
バレッタは、アレーニェめがけて破壊した家屋の角材を投げつける。
勿論、アレーニェはそんなことは計算して糸を張り巡らせているし、その大きな角材は糸に引っかかり跳ね返り地面に転がる。
「やはり、頭が空っぽじゃの、そんな大きな角材が糸を潜り抜けるはずがなかろうて」
次に足元の石をバレッタは握力超過で砕き、飛礫にして投げつける。
これは細かく、いくつかはアレーニェの元に届くが、そんなものが当たったところで大したダメージはない。
「ふん、こんなもの意味は無かろう」
「…………」
更に、足元の石を握るバレッタ。
今度は、握力超過の力加減を変え、飛礫ですらない砂のように細かくすり潰す。
そして、アレーニェに向かって投げる。
投げる。
投げる。
執拗に繰り返し続けたことで、砂が舞って視界が悪くなる。
しかし、二人の距離は優に三十メートルは離れている。
「いくら私の視界を奪ったところで、姫には私に届く攻撃手段がないじゃろ、無駄じゃ、私たちの糸は攻防一体」
まず、横の攻撃をイメージさせた。
バレッタのスキルは判明していて、現在、攻撃手段はない。
視界を悪くしたのは、バレッタは自分の動作を見られたくなかったからだ。
投げることに変わりはない。
しかし、投げる方向は、
―ガッ‼
「⁉」
アレーニェの頭に大きな角材が直撃した。
―ガッ、ガッ、ドッ
角材は次々とアレーニェの小さな体を捉え始める。
慌てて、回避にまわるアレーニェ。
「なんじゃ! 糸の壁は完璧なはずじゃ!」
それは、壁をすり抜ける。
なぜなら、そこには何の制約もない。
砂のカーテンが開け、バレッタの投球動作があらわになる。
彼女は大きな角材を見つけてはアレーニェ向かって投げつける。
彼女めがけて、空高くに投げ上げる。
そう、壁は越えられる。
バレッタは、糸などない空に投げ上げ、弧を描きアレーニェに直撃させていた。
「くっ、空からか」
回避しながらも歯噛みするアレーニェ。
もしアレーニェの体重が成人男性並みにあったら、また結果は違ったかもしれない。
天井の壁を作る発想に至ったかもしれない。
しかし、彼女の体重分で作れる壁は平面が限界。
限界まで使用した電気、これ以上はないと発想に至っても不思議ではないし、実際大抵のものはこれで十分相手取ることが出来る。
一定の距離を保ち続けると、角材の雨は止む。
「ふっ、しかし、姫よ、お主にだって投げられる距離には限界があるようじゃな」
そう、この攻撃もタネが割れてしまえば、簡単に回避できる類のもの。
弧を描けば、その分スピードは落ちる。
だから、バレッタは最初に砂で煙幕を張って攻撃を悟らせなかった。
『アレーニェ様! 駄目です‼』
その声が聞こえた時には遅かった。
それは隠れていた村の女の子の危険を知らせる叫び。
避けることに必死にならず、客観的に見れば、俯瞰して見れば分かる。
奇しくも、その戦法はアレーニェがダートによって、とっていたものと同じだ。
角材の攻撃はそのポイントへの誘導でしかない。
そこはバレッタがせっせと破壊した住居の周辺、つまり糸のないゾーンだ。
「これでもう二人の間に障害はないな」
振り返れば、何にも遮られず真っ直ぐに向かってくる悪魔の姿。
それは一瞬で間合いを詰めた。
「死んでくれや」
バレッタは初めてアレーニェに拳の届く距離にきて、その拳を振り下ろした。




