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防衛団長、アシュバルと言う男

 南門では、防衛団長のアシュバルが虫の息だった。


「蟲大蛇だけに、蟲の息かな?」


 蟲大蛇、神崎が退けた魔物が三体。

 南門に集まっていた。

 意図的に、恣意的に、計画的に、無計画に、だが、誰かの手によって集まっていた。


 その人物は中央の蟲大蛇の頭部に胡坐をかいていた。


「いや強いねー、僕も暇じゃないんだけど、これは見物料取れるぐらい熱い戦いだったんじゃないかな?」


 それは、森で元奴隷だった少女、イチとニーが遭遇した獣族。

 名前をトライ。

 美女の様な見た目の男。


「実際、蟲大蛇相手に出来る人間なんて見たことないし、仕方ないよ。最初の啖呵は聞かなかったことにしてあげる」


 トライは楽しそうに体を左右に振った。


「ここに三体、他の門にも一体づつ。それに他の魔物も放ってる。僕、暇じゃないけど、もしかしてこの国滅ぼしちゃうかも」


 トライの言葉がアシュバルの耳に届いているかも怪しい。

 だが、彼は笑いながら話し掛ける。


「早く君が立たないとさ、みんな死んじゃうよ?」


 そう、蟲大蛇三体は南門にいたアシュバル以外の全ての兵士を飲み込んだ後だった。


「次は門の中かな」


 トライは、左右の二体の蟲大蛇に合図を出し、南門を攻撃させた。

 鱗に覆われた頭が一度後方に引かれ、勢いをつけ門や周辺の壁に頭突きを食らわせる。


―ドガシャーン‼


 分厚い木製の門と石や土で作られた南門周辺の壁はあっさりと破壊された。

 その轟音は国中に響き渡っただろう。

 トライが頭に乗っている蟲大蛇だけを残して、二体の蟲大蛇が街の中に進んでいく。


 そして、その後続に他の魔物たちも続く。


「ほら、立ちなよ。国のピンチだ」


「………………」


 アシュバルは無言でゆっくりと立ち上がった。

 彼は強力なスキルを持っている。

 

「おぉ、本当に立つんだ? 暇なの? なら、暇じゃない僕が相手してあげよう」


 一度は母国ホンニの王族を殺され、主を失った彼だ。

 主を『黒狩り』に奪われ、生き甲斐を失った彼にルークは新たな生き甲斐を与えた。

 アシュバルはホンニの王族の命を奪ったのは真犯人がルークだとは知らない。

 でも、知っていても構わなかったかもしれない。


 彼は守るものが欲しかった。

 幼い頃から強大な力を得て、周りに恐れられて生きていた。

 己の過ぎた力を制御するために、誰かの為の力でありたかった。


「……我は、誰かを守る為に力を使いたい」


 今、まさに、その場面に直面している。

 アシュバルが吠えた。

 目の前のトライと蟲大蛇を退ける為に駆けだした。


 拳を握る、その一撃さえ入れば、例えどれだけ格上でも戦況をひっくり返せるスキルを込めたその拳を、今、蟲大蛇に突き立てる!


―バチン、バチン、バチン、バチン、バチン、バチん


 アシュバルが蟲大蛇の無数の手に押し潰された音だ。

 一本、一本、その上にまた一本と重なり、人の身で耐えられる重量を遥かに超える。

 

「なんか、猪突猛進? って感じのワンパターンな男だったね」


 トライは彼を総評した。


 アシュバル、一言のみの出番で命を終えた。



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