そこに区別はなく、あるのは だけ 後編
「ならば、牙を交えようぞ!」
アレーニェは立ち上がった。
そして、背後の壁に背中から飛び込むと、その壁はクッキーのようにボロボロと崩れた。
恐らく、元々脆く作っていたのだろう。
部屋に残された二人の上方からは無数の刃物が落ちてくる。
躱すことの出来ないタイミング。
「ちぃ」
バレッタの握力超過では全てを払うことは出来ない。
咄嗟にルークに覆いかぶさり、無数の刃物を自分の背中ですべて受ける。
「くっ」
苦悶の表情を浮かべるバレッタだったが、その切り傷、刺し傷はたちどころに回復していく。
「わりー、ダーリン、背中に刺さったの抜いてくれるか?」
これがバレッタのもう一つのスキル。
Aランクは必至の超貴重スキル。
【能力名】
毎日休日
【LEVEL】
LEVEL8
~次のLEVEL到達の詳細不明。
【スキル詳細】
自身に負った外的傷を回復させる。
疲労、精神的なものは不可。
傷が深ければ深いほど、回復に時間を要するものとする。
ただし、足の裏が地面に接している場合のみスキル発動可能とする。
発動時、肉体的疲労を伴う。
人間の身で他種族とも戦える可能性のあるAランクスキル。
彼女はそれを手にしている一人だ。
「さっさと、あのチビを追うぞ」
バレッタに急かされ、ルークもその狭い部屋を出る。
廊下を走ると、先ほどまで、ぽつぽつと見えていた村人は完全に建物の中から姿を消していた。
「出口だ」
ルークたちが入ってきた扉が見えた。
それを思いっきり引くと、外の日差しが目に入って来た。
「遅いご到着じゃな、だが先ほどの攻撃で無傷とは流石としか言えん」
ルークたちのいる建物の入り口の正面三十メートルほどにアレーニェは立っていた。
「逃げなかったのか? 随分余裕じゃねーか」
「逃げたところで、無駄じゃろ。目的はわしらではなく、この土地なのじゃから」
アレーニェの言い分はもっともだが、それはラブジル最強の戦士バレッタと相対することを意味する。
「もしかして、私、舐められてる?」
「いや、ちっとも」
バレッタは目の前の戦に確実に神経を高ぶらせていた。
「ダーリンはまだ怪我明けだろ、ゆっくり観戦してな。ってか、手を出すな」
ルークは、その怪我は誰が負わせた怪我だとツッコミたかったが我慢した。
バレッタと一度戦ったルークだから分かる。
バレッタクラスは、神崎の様なイレギュラー相手でもない限り、人間と一対一で負けることはほぼないだろう。
ましてや、こんな田舎の謎の部族の村長に負けるはずがない。
ルークは最初から言われるまでもなく傍観するつもりだった。
「八つ裂きだ!」
―ビリッ
焦れて最初の一歩を踏み出したバレッタは、その場で丸焼きになった。
そして、その場に崩れ落ちた。
「無意味な特攻はやめておけ、向こうのお仲間のようになるぞ」
ルークは、村の入り口付近で待機させていたラブジルの兵士たちに目をやった。
十人近くはいたはずだが、全員衣服が焼き焦げ、その場に倒れていた。
「世界を見て、足元を見ないお主らには分からんじゃろうな。ただ、力を振りかざすものだけが強者ではない」
アレーニェは静かに焼き焦げたバレッタを見下ろした。




