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結婚、それは政治の道具

―ラブジル城内、王室の間


 ルークたち四人は、ラブジルの王の前にいた。

 ティグレと強華は呑気なもので緊張感など欠片も見られない。

 シグレはガチガチに手が小刻みに震えている。ルークもシグレほどではないが、若干緊張していた。

 バレッタは呑気なものでニヤニヤと笑っているだけだ。


 王室は玉座にまで真っ直ぐ続く長い絨毯が道のように引かれ、四人はその上に並び、ラブジル兵は室内の端で値踏みする様な目で見ている。


 玉座にどっしりと座っているラブジルの王は、筋肉隆々としていて、黒々とした顎鬚をたくわえている。その姿はまるで年を感じさせない。しばらく、重い空気が続いたが、ルークは口を開く。


「ラブジルの王、私はホイホイの代表としてここに参りました。ルーク・レビヨンです。ホイホイでは参謀長長官を務めています」

「―ルーク、なるほど、君がバレッタの言っていた」


 ラブジル王の声は重厚で渋みを感じさせるものだった。

 しかし、聞き慣れているバレッタからすればなんのそので、茶々を入れる。


「どうでもいいから、早く結婚式でもあげようぜ」


 その言葉に、何かのスイッチが入ったようにラブジル王は目を剥く。


「ルーク君、君は本当にバレッタと結婚する気があるのかね」


 ついにきた。

 ここが勝負どころだと、ルークは思った。

 やはり可愛い一人娘を結婚させたくはないのだろう。今回の結婚してからの同盟云々もバレッタが言い出したに違いない。

 それならば最近いくつも植民地としてきた領土や資源を差し出し、同盟を結んでいた方が王としても実入りが大きく嬉しいところだろう。

 どうせ最後は自分の元に戻って来るのだから問題はないとルークは話を切り出した。


「勿論ですよ、ラブジル王。しかしながら、私のような非才の身では娘さんを―」


―グスグス


 ん?

 ルークはその涙ぐむ声に話を遮られる。

 と言うより、話を聞かせたい相手が涙ぐみだしたので中断せざるを得なかった。


「良かったなぁ、良かったよぉ、バレちゃん~」

「………………」

「ほらな、言ったろ? ルークは度胸だけはあるんだよ」


 バレッタが自分の父の元に寄り、まるで子供をあやすように背中をさする。

 そこにさっきまであった渋カッコいいラブジル王の姿はなく、なんか鼻水塗れの小汚いオッサンだった。


「…………あの」

「おぉ、何だね? 我が息子?」


 ルークは心の中で大きくため息をついた。

 大丈夫、まだ焦る時間じゃない。


「自分の一人娘を、こんな得体の知れない相手と結婚させても良いのでしょうか?」

「はっはっはっ、そんなに自分を卑下するものではない。その年で新国家の中枢にいるのだ、きっと才気溢れる若者なのだろう」

「いやぁ、でも仮にも一国の一人娘の結婚と言うことになると、いずれ私とそちらのバレッタさんの国になると言うことですがいいのですか?」

「構わん、構わん、もうほとんどバレちゃんに好きにさせている国だし、今と大差ないよ」


 その言葉に周りの兵は嫌な記憶を思い出すように頭を抱える。

 ルークは、これ以上踏み込むとラブジル王に嫌われるかもと思ったが、ギリギリまで自分を卑下し、踏み込む。


「って言うか、私なんかより娘さんに相応しい結婚相手がいるのではない―」


「―おらんよ」


 食い気味である。

 ラブジル王の先ほどまで緩み切っていた顔が引き締まり真顔になる。

 涙と鼻水まで引っ込んでいて普通に怖い。


「バレちゃんと刃を交え、戦場での姿を見たなら分かるだろ? この子と結婚しようなんて度胸のある人間はこの世にもう君だけだ。いや、もう度胸を通り越して狂気とまで言える」


 自分の娘になんて言い草だと、ルークはドン引きする。

 横に立っていたシグレは、だから先ほどバレッタは度胸があるといったのかと納得した。


 ラブジル王は、しみじみと語りだした。


「最初は本性を隠して隣国の王族や貴族と結婚もさせてみた。しかし、すぐに化けの皮など剥がれる。噂のあまりたっていない少し離れた国とも虱潰しに婚約させたが、結局同じことだ。儂はね……孫が見たいです」


 まるで某人気バスケット漫画のようなセリフを溢すラブジル王。


「……可哀想」


 強華がポツリと漏らした。

 そして、隣にいたルークの袖を引っ張り、まるで拾って来た猫を飼ってくれと頼む子供のような目でお願いをする。


「ルーク、結婚してあげて」

「お前、他人事だと思いやがって」


 ルークはかつてないピンチに立たされていた。

 得意の話術も孫パワーの前には無意味だった。

 しかし、足掻く、それしかルークに出来ることはない。


「あの、結婚の話と同盟の話は一旦別にして、まず同盟を組んでから落ち着いて話し合いませんか? 娘を政治の道具にするのは気が引けるでしょう? こちらは同盟の際に友好の証として、いくつかの植民地を用意しておりまして」


 ラブジル王は「君は勘違いをしている」と漏らし首を横に振って、ため息をつく。


「娘を政治の道具にしたんじゃない。政治を娘の結婚の道具にしたんだ」

「誰かー、この人、国を私物化してますよー」


 ルークの声掛けも虚しく、周りの兵士たちは下を向くか顔を逸らすだけだ。

 ティグレは「いい加減諦めろ」と冷たく言い放つ。


「―トリニティ」


 その言葉にルークはハッとなりラブジル王の目を見る。

 それは、この世界で力の暴走を抑える鉱石の名前。

 そして、銃を製造する際、どうしても弾丸に使用しなくてはいけない重要鉱石。


「バレちゃんから聞いたよ。欲しいんだろ? それも大量に」

「……用意できるんですか?」


 ルークの言葉にラブジル王は意地の悪い笑みを浮かべる。


「バレちゃんの将来の婿の為に必死に探したよ。獣族(ビースター)の領土からの大量入手は困難、ならば人族の領土内で探すしかない。

 なんでも、必死になるもんだなー。うちの領土の端にひっそりと山に囲まれた小さな村があってね」


 ラブジル王は下手な小芝居を挟みつつ、頭を押さえる。


「あぁ、でもあの場所はうちの領土でも秘境と呼ばれる場所だからなー、誰か案内を付けないと分からだろうな。それも一度現地に行ったことのある人間じゃないと無理だよなー」


 そこまで話すと事前にリハーサルでもしてたのか、バレッタが手を挙げる。


「おっと、そこの調査に行ったのは、私だぜ、パパ」

「おぉ、そうだったね。うーん、でもあんな危険なところにバレちゃんを何度も行かせるのは心配だな。たくましい花婿でもいれば、もう一度行かせてみてもいいんだけどなー」


 もう覚悟を決めるしかなかった。

 ルークは小芝居にイライラしながらも、あくまで表面上は笑顔を保つ。


「分かりましたよ。結婚すればいいんでしょ。結婚すれば」

「おっ、なんだか脅迫した様で悪いね。まぁ、ちょっと頑固者もいるみたいだけど、女子供ばかりの危険とは無縁の普通の村だよ。交渉には初めての共同作業ってことで二人で行ってくるといいよ」


 話がまとまったのを見ると、周りの兵士たちにラブジル王が手を叩き、宴の準備をさせる。


「さぁ、みんな今度こそバレッタの正式な婿が来た! 宴の準備だ!」


 シグレ、強華、ティグレは三人で口をそろえた。


「「「おめでとう」」」ございます」


 ルーク、結婚。



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