初めての結婚、都ラブジル
おかしい。
何かがおかしい。
ルークはラブジル領に入った時から違和感があった。
始めはラブジルの国境の門番に入国証を見せた時だった。
その入国証を見るや否や強面の門番たちの恐ろしい眼光は鳴りを潜め、目頭を押さえて、泣きながらルークたちの乗った馬車を歓迎した。
そこからしばらくすれば、ラブジルの首都、つまりバレッタ達を待つ都が見えてくる。
都の周りは乾いた岩肌の目立つ乾燥地帯で、遠くにポツンポツンと工場のようなものが見えた。
しかし、都とは言っても、同規格の白い正方形の建物がいくつも並ぶとても殺風景な見た目で、都の中央にさらに大きな正方形をいくつも組み合わせた神崎の世界のピラミッドのような建物があり、そこがバレッタ達の住む城なのだろうと見当がついた。
シンプル過ぎる外観に、前にティグレが殺風景と言ったのを思い出した。
そして、都に入る際の門番にも泣かれた。
門を入ってすぐの大道路は、そのピラミッド型の城まで一本道で繋がっており、ルークたちの馬車は一直線に城に向かう。
大道路の周りは都に住んでいる者たちの商店が多くみられ、ホイホイでは見たこともない食べ物や用途のわからない雑貨を目にした。
最初は明るく商売をしていた人たちや、買い物客だったが、ルークたちの馬車を見ると、心なしか表情は曇り、ひそひそと内緒話を始めた。
「おい、ティグレ、あれはラブジルの国民性なのか?」
ルークは、この国に唯一立ち寄ったことのあるティグレに話し掛けた。
ティグレは行きで袋一杯の食料を食べあげ、小さくゲップをしていた。
「知らん、スイートポテト以外に興味はない」
ルークは短く舌打ちをする。
唯一、この国に足を踏み入れたことのあるティグレを一応連れてきた者の、あまり役には立ちそうもないからだ。
ある程度、分かっていたと言えば、分かっていたのだが、外務大臣のシグレ、護衛の強華までは当然として、ティグレは余計だったかもと今になってルークは後悔する。
ずっと、外を眺めていたシグレが城についたことを知らせてくれた。
「着きましたよ。とにかく、失礼のないようお願いしますよ」
城の前まで着くと、ルークたちは馬車を降りた。
そこには、バレッタがホイホイに来ていた際に後ろに控えていた臣下の二人だった。
もみあげの濃い男がルークたちに向かって頭を下げる。
「よくいらっしゃいました。ここからは私、ジャッカルとこちらのリールが城内を案内させていただきます」
そう言うと、隣いたジャッカルと紹介されたポニーテールの女も頭を下げた。
ホイホイの時に見た少し力のこもった目とは違い、幾分緊張のほぐれた優しい目をしていた。
城の中に入ると、中のつくりは一般的な城と変わらず、ルークたちはそれが逆に不思議でキョロキョロと見回してしまった。
「意外と中は普通でしょ」
その心を読んだかのように、ジャッカルはルークたちに話し掛けた。
「あぁ」
「そうですね」
四人を指定の部屋まで送ると、しばらくお待ちくださいとジャッカルたちは消えた。
その部屋も特に面白みのない、金持ちの待合室と言った具合に、軽食と趣味の悪い絵画と高そうなテーブルとイスが並んでいるだけだった。
ティグレは軽食を覗き、スイートポテトがない事に嘆息しながら、備え付けられていたソファに寝転がる。
「お前、初めて会った時より幼児退行してないか?」
「あの時のお前が私を知らな過ぎただけだ。私は元々こんな感じだ」
軽く二人で睨みあうと、そこにノックもせずに入って来る者がいた。
「ようよう、マイダーリンにその妾たち、見たことない面もいるが、私は気にしないぜ。大歓迎だ」
「……バレッタ」
相変わらず妙なテンションのバレッタだった。
そして、相変わらず真っ赤な服装、今日は軍服だろうか、それに裸足で紅いペディキュアを付けている。
後ろには先ほど部屋まで案内してくれたジャッカルとリールが強張った表情で並んでいる。
「取り敢えず、飯の前にパパに挨拶でもいっとく?」
バレッタの言うパパとは当然、ラブジルの王を指す。
正直、バレッタとの結婚などラブジル王は望んでいないだろうと、ルークは推測する。
それ故に、同盟にあまり乗り気ではなかったのではないかと考えている。
リオンには「結婚してくる」と言ったが、ルークとて出来れば、あんな化け物女と結婚などまっぴらごめんだ。
今日は、あの時保留した答えにノーを突きつけに来ている。
そのために手土産の小国を沢山手駒にしている。
最悪の場合は覚悟もしているが、出来れば避けたい。
さて、鬼が出るか蛇が出るか、ルークは腹をくくり、バレッタたちについていく。




