この世界の全貌、そして羨望 後編
「混合種族――」
「――別に珍しくない。他族間に生まれた種族だ。大抵は純潔主義の故郷を追い出されて、魔王討伐やそれぞれの国を旅したり、そこで国からの依頼やギルドでのクエストをこなしている風来坊たちだ」
「へぇ、この世界では冒険者の役目はその人たちがこなしてるんだね」
「別に俺達でもやってるものはいるが、混合種族の割合が多いな。あいつら行くとこがないんだ。つまりそもそも国を持たないし、団結も糞もないから敵じゃない」
「僕らの世界だと、血が混じった方が強くなるみたいな風潮があるんだけど、こっちは違うの?」
神崎は七つの玉を集めるアニメを思い出していた。
「基本的にはどっちつかず出来損ないだよ。あと、人間は弱すぎるから、他種族との混合種族はいないな。産んでも人間の血が弱すぎてすぐ死んでしまう」
「そこでも人間は差別されてるんだね」
神崎はやや引きつった笑みを浮かべる。
ルークは「まぁ、これもどうでもいいんだが」と付け加えて最後の種族を教えてくれた。
「変態族――」
「――変態だ」
「「ん?」」
神崎と強華は仲良く首を傾げる。
「ルーク、今、真面目な時、ふざけたらダメ」
強華がジト目でルークにツッコミを入れる。
しかし、今度はルークが首を傾げる番だった。
「は? ふざけてなんかないぞ。なぁ、リオン、ティグレ」
元からこの世界の住人であるリオンとティグレもルークの問いかけに頷く。
それを見た二人はしばし沈黙して、先になんとか神崎が口を開く。
「えーっと、あの、ルーク。その変態族についてもう少し詳しく教えて貰えるかな?」
「だから、変態だ」
「国とかは?」
「多分持ってない。あったとしても地図に載らないぐらいの小国だ」
「どういった種族なの?」
「だから、変態だ」
「いや、攻撃手段とか、固有の力とかないの?」
「あいつらは攻撃なんて概念はない。ただ、己の性癖を満たすために特化した種族だ」
「えーっと、見た目とかは?」
「人型が多いが、性癖によって見た目は様々だ。触手プレイが好き過ぎて触手が生えてきた者もいるし、赤ちゃんプレイが好き過ぎてずっと赤子のままの者もいる」
神崎と強華は二人で頭を抱えた。
「「この世界ってそんなに酷い生き物がいたんだ」」
「こら、他人の性癖に文句をつけるな」
ルークが比較的まともな注意をする。
「とにかく、変態族はそもそも自分の性癖第一だから、領土争いも魔王討伐もどうでもいいんだよ。だから、この二種族はどうでもいいって言ったろ?」
「……まさか、本当にここまでどうでもいい種族が存在するなんて」
リオンが最後に付け加えた。
「変態族には近づかないのが一番無難でいい方法よ。基本的に今の世界は亜人族と獣族の小競り合いと鬼がそこに気まぐれで加わったり加わらなかったりみたいな感じだから」
神崎がそこまで聞いて、あることを思い至った。
「あっ、そう言えば魔王は何族なの?」
この世界の魔族にこれだけはっきりした分類があるなら、魔王もその中にカテゴライズされていて、種族を知っておくことで戦い方も変わって来るのではと考えた。
ルークは「あぁ、忘れていた」とうっかりした様子で補足した。
「魔王は魔王だ」
これ以上なくシンプルな補足だった。
これには流石に神崎と強華も不満気な目で無言の抗議をしたので、仕方なくルークは更に言葉を足す。
「魔王は、前魔王を倒した際に襲名することが出来る属性だ。勿論、しなくてもいい。魔王を倒したものが魔王を襲名しなければ、今後百年は魔王は現れん。しかし、討伐から百年後に自然とまた誕生する。もし、魔王を継ごうとするならば、人族でも獣族でも、それまでの属性を失い、魔王と言う属性になる。魔王には絶大な力とある一つの能力が付加される」
ルークはやや溜めて「それは」と切り出す。
「死者の蘇生。これはこの世界で魔王にしか持ちえぬ能力で、魔王討伐者は、この能力の乱用を防ぐために魔王を殺そうとするものか、自分が魔王にとって代わってその能力を利用しようか企む者が多い」
神崎は「うーん、結構王道だね」とやや不満を漏らした。
強華は「死んだ人が生き返るなんて凄い」と単純に感動していた。
「まぁ、俺は単に魔王の地位が欲しいだけなんだがな」
現魔王があまり統治に積極的でない為、今の世は小競り合いが絶えないが、魔王が本気になれば、そんなものはすぐに止まってしまう。
それほどに力が魔王にはある。
ようは一魔族ぐらいでは止められない強さなのだ。だから、ルークは全魔族を束ねて、魔王城に総力を持って臨みたいのだ。
「まぁ、取り敢えず邪魔が入りそうな種族のことだけ覚えてればいい」
ルークは一通り説明を終えると、全員の顔を見渡す。
「ホイホイは今表向きは人類統一の為に動いている。しかし、ここにいる五人だけは真の目的、世界征服、魔王討伐まで知っている人間だ。ホイホイとは別にこの五人だけの組織をチャトランガとする。まだ詳しくは説明せんが、その内この組織の重要性も説明する。今は頭に入れておくだけでいい」
リオン以外の三人は首を傾げたが、特に言うこともないようだ。
そして、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「シグレさんが来た。行くぞ、強華。礼嗣は留守番頼んだぞ、防衛団長たちと問題を起こすなよ。万が一、俺の留守中に敵が攻めてきたら、遠慮なくセブンズを使え」
ティグレもルーク後をついていき、今度はリオンだけが首元の黒いチョーカーを抑えながら、何をしていいのか分からないと言った顔でキョロキョロしていた。
「ちょっと、ルーク! 私何も聞いてないんだけど? あんた今から何しに行くわけ?」
ルークは、顔を決してリオンに合わせず「あぁ、お前も留守番を頼むよ。ニアリスの遊び相手でもしてやってくれ」と言うと、これからのルークの予定を話した。
「……ちょっと、ラブジルで結婚してくる」
ここからのルークの行動は速かった。
部屋を慌てて飛び出し、それに釣られて強華とティグレも部屋を逃げるように飛び出す。
逃げ遅れたのは神崎だけだが、リオンが呆然としている間に、こっそりと扉に手をかけた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉」
その怒号は、城内に響き渡ったとか、渡ってないとか。
流石のルークもこれだけはリオンに話すのが、怖かったようだ。




