そんな権利すら奪われた
神崎が伝えたい事は全部伝えた。
ルークは仰向けに倒れたまま口を開いた。
「……普通? それはお前が全部持ってるからだろ? だから、そんなどうでもいいものが欲しくなるんだ」
「いや、例え君が僕の世界に来ようとも僕は同じことを言うよ。何より多くの人の不幸の上での世界最強だの世界征服だの、優しい君は絶対に心のどこかでしこりを残す。それが幸せだなんて僕には思えない」
ルークは上半身を起こす。
「いいさ、これ以上の議論は無駄だろう。太古の昔から最後は武力だ。残り四十秒程度なら大量の男の戦士で蘇らせて物量で押し切ってやる」
ルークが魔王の力で三度死者を蘇らせようとする。
神崎は「くっ」と歯噛みする。魔王になったとはいえ、ルークの身体のベースはティグレの血を飲み吸血鬼となっている。耐久力も生命力も半端なく、ちょっとやそっとの攻撃では死なない。
もう止められないのか?
ルークは右手を前方へ掲げた。
「グファッ‼」
その瞬間、ルークは死者を蘇らせることなく血反吐を吐いた。
何が起きたのかその場の誰にも分らなかった。
そして、意外にもその状況を一番最初に理解したのはティグレだった。
「……早かったな」
その言葉はルークの耳に届き、ルークが二番目に理解する。
「まさか、ありえない」
ルークが口元の血を拭う。しかし、血は次から次へと口から溢れてくる。ルークは理解しているだろう。だが、敢えてティグレは残酷な現実を口にした。
「吸血鬼化の代償だ。肉体が限界を迎えたようだな」
ルークの体内に取り込んだティグレの血が暴走を始めたのだ。世界最強の吸血鬼の血がただの人間の器にそう長い時間留まれるはずもない。
「嘘だろ? 長ければ一ヶ月、短くても一日、二日は持つって、まだ数十分じゃないか―」
「それはあくまでこれまでの過去の例だ。それも他の鬼の血のな。ルーク、お前はその過去の他の誰よりも肉体が脆く、耐久性がなかったんだよ」
「嘘だ! 嘘だ、嘘だ、ありえん、ありえない。やっとだ、やっと俺はここに登りつめたんだぞ‼」
ルークは無理やり起き上がろうと膝に力を入れるが、もうその力は彼に残っていない。そんな権利は許されない。




