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本当の力、ナロウ

 ルークの参謀室には珍しく四人が揃っていた。

 ルーク、リオン、神崎、ティグレ。

 ルークのスキルと神崎の秘密を知る四人。

 本人たちには言っていないが、ルークが世界征服を企むことを知るメンバーであり、心の中ではこの四人をチャトランガ、イリアタを乗っ取った際に名乗った組織名のメンバーであると思っている。

 今のところ、この四人だけだ。


 今日、集まったのは、ルークが四人を呼び出したからだ。


「あー、本日は大変重要な知らせがある」


 ルークは、少しテンション高めにいつもの偉そうな口調で切り出す。

 他の三人は息を呑んで、その知らせを待つ。

 ルークは特に焦らすことなく、スパッと報告した。


異世界(ナ・)転生(ロウ)がレベルアップしてた」


 ルークは自身の透明な素材でできたスキルカードを皆の前に出した。


【能力名】

 異世界(ナ・)転生(ロウ)

【LEVEL】

 LEVEL2

 ~次のLEVELまで?

【スキル詳細】

 ????????????????


 ティグレが少し目を見開く。

 リオンは大袈裟に「えー!」と声をあげ、神崎は興味深げにじっくりとカードを眺める。


「いつレベルアップしたの?」


 神崎がルークに質問する。


「いや、知らん。今日気が付いた」


 神崎は呆れ顔でルークを見る。


「えー、普通主人公とかなら、ここ一番で覚醒して戦況をひっくり返したりするのになぁ。レベルってアップした時に知らせたりしてくれないの?」

「最初からレベルMaxのお前には分からんだろうが、そんな便利な機能はない。普通はレベルアップまでの状況を見ながら、ちょこちょこ確認するもんなんだよ」


 ルークが神崎の恵まれた状況を恨めしそうにしながら、反論していると、カードを神崎の横から興味深く覗くリオンが話に加わった。


「にしても、これ、どうレベルアップしたのか、全然分からないわね」

「あぁ、相変わらず【スキル詳細】が? だらけだ。本当に不便なスキルだ。お前は何か知らないのか?」


 ルークはこのスキルの発動のきっかけであるティグレに聞いた。

 彼女は興味深そうにカード……ではなく、ラブジルで最近流行っているスイートポテトを見ていた。前回のバレッタ訪問の際の手土産だ。

 それを素手で摘まむと口に含み、更にべたついた指を舐める。


「さぁ、使ってみればわかるだろ」

「全く役に立たん女だな」


 ルークは呆れながらティグレを見ていたが、確かに彼女の言う通りだった。

 使わない事には分からない。


「仕方ない。お前ら少し離れていろ」


 ルークは部屋の真ん中に立ち。

 他の三人は端に寄った。


 分からないとは、言ったものの、ルークには大体の予想はついていた。

 異世界(ナ・)転生(ロウ)は、異世界の住人を呼び出したとは故、結局は召喚系スキルに分類される。

 それも生物を召喚するタイプだ。

 その召喚系スキルの成長するポイントは大きく分けて二つ。

 召喚獣自身の強化か召喚獣に対する従者の支配力の強化だ。

 召喚獣自身を強く出来れば、戦闘に大きく有利になることは言うまでもないが、従者の支配力を高めることも戦闘を有利にしたり、使い勝手がよくなり、大変便利だ。


(俺が望むのは勿論従者の支配力の強化だ)


 ルークは部屋の真ん中でほくそ笑む。


(神崎の強化も魔王と戦うなら必要かもしれんが、今はとにかくこいつに従順になってもらった方が有難い。下手な芝居もせずに済むしな)


 ルークの思惑は成就するのか、期待を胸にそのスキルの名を叫ぶ。


異世界(ナ・)転生(ロウ)!」


 その掛け声とともに、スキルは発動される。


 ……しかし、一件見た目の変化はない。

 ルークは恥ずかしくなって神崎に話し掛ける。


「なぁ、お前、その右手以外に紋章増えたりしてないか?」


 ルークの右目と神崎の右手の甲にある幾何学な紋章。

 それは恐らく彼らの契約の証。

 神崎も確認の為身体中を見回すが特に変化はない。


「僕にも何も変化はないね」


(なんでだ? 何か間違えたか? それとも発動条件があるのか?)


 ルークが悩ましげに考える。

 部屋をぐるぐる歩き回りながら、唸り、目を閉じて考える。

 だから、気が付かなかった。


 空から自分と同じ年くらいの女の子が降って来るなんて。


「いってぇーーーーー!」


 まぁ、空からと言っても室内だが。

 空中から降って来る女、そして、目を瞑っていたルーク、二人の頭がぶつかる。

 ルークの頭に懐かしい痛みが走る。

 そう、神崎と出会った時と同じ痛み。

 慌てて、自分と同じように頭を押さえている少女を見る。


 燃えるような緋色の瞳、そして対照的な静かな表情。

 きらきらと光る金色の髪は腰のあたりまで無造作に伸び、手足はすらっと長い。

 服装は一枚のボロ布から手足を出したようなもので、裸足だ。


「お前、言葉は分かるか?」


 金髪の少女はこくりと頷く。


「どこの国の生まれだ? 日本か?」


 ルークは神崎の母国の名前をあげる。

 彼女もまた異世界からの住人ではないかと思ったからだ。

 しかし、少女は首を横に振る。

 そして、ゆっくりと艶のある唇を開いた。


「ワタシ、生まれた国知らない。バミューダ博士のクローン技術を元に作られた強化型試作機」


 その場にいた人間が皆目を見開いた。

 神崎はその非人道的行いに、その他の三人はその技術力にだ。

 ルークと神崎はあまりもの事態に頭を悩ませる。


「つまり、人を人工的に生み出したと言う事か? そんなことは可能なのか?」

「僕たちのいた世界では理論だけは確立されていたよ。でもそれをすることは禁忌とされていた。ねぇ、君の博士の出身国は分かる?」


 少女は頭を縦に振り肯定する。


「バミューダ博士、出身国はバーバリアン共和国。世界一の研究者と呼ばれていた」

「神崎、分かるか?」

「ごめん、聞いたことがない。ねぇ、日本って国聞いたことがある?」


 少女は頭を横に振る。


「ワタシ、世界中の国の名称をインプットされている。ニホン聞いたことがない」

「なら、ラブジルやホンニは?」

「それも聞いたことがない」


 四人は顔を見合わせる。

 少女の言っていることがどこまで正しいかは分からないが、もし正しいとすれば、ルークのスキル異世界(ナ・)転生(ロウ)で神崎とはまた別の異世界の住人をこの世界に召喚したことになる。

 ティグレがにやりと笑う。

 リオンはまだ困惑している。


「なるほど、そういった方向性か、見当もつかなかった」

「え? つまりこれからレベルが上がるごとに異世界の住人をこの世界に召喚するってことなの?」

「まだ、一つレベルが上がっただけなので何と言えんが、可能性は出てきたな。おい、お前名前は?」


 金の髪をさらりと揺らし、少女は首を傾げる。


「―? 先ほど言った。名称は強化型試作機」

「いや、もっと個別に判断できる名前はないのか? 強化型試作機はお前の他にもいたんだろ?」

「うん、強化型試作機はワタシを含め世界に三百七十三体いた。ワタシが最後の強化型試作機となり、個体番号は373だった」

「そうか、面倒だから強化型試作機からとって強華でいいな。強い華と書く良い名前だろ」


 神崎は「そこは個体番号とかから取らないんだ」と少し肩を落とす。

 強華は目をぱちくりとさせる。


「それはワタシに名前をくれるということ?」

「あぁ、俺が呼び出したんだ、それぐらいのことはしてやる」

「……ありがとう。あなたの名前を聞いてもいい?」

「ルークだ。世界をとる男の名前だぞ」


 その名前を聞き、強華は改めて頭を下げる。


「わかった、ルーク。ワタシも名前の礼を尽くす為に世界をとる為のお手伝いをする」

「どんだけ、デカい礼よ」


 思わずツッコんでしまうリオン。

(今回のはやけに従順だな。神崎が特別なのか、こいつか特別なのか?)

 ルークは色々と考察するが、むしろ分からない事が増えていった。

 しかし、材料が少ない事を考えても仕方ないとルークは材料を作る事にした。


「よし、強華、取り敢えずお前の力が見たい。城の裏手にもうほとんど使ってない演習場がある。そこに行ってお前の力を見せてくれ」


 強華はこくりと頷く。

 ルークの予想とは違った形のレベルアップになったが、むしろ神崎クラスがこれからも大量に自身の手駒になる可能性に少年のようなワクワクを覚えるルークだった。


 五人で移動しようとルークの参謀室の扉に手を掛けた時、神崎は違和感を覚えた。


「ん? そう言えばルーク。強い華っていつの間に漢字を覚えたの?」


 ルークは一瞬間を置いて答える。


「あぁ、それならお前の生徒手帳を貸してもらった時に独学で学んでたんだ。まぁ、俺の趣味だよ」

「へぇー」


 そう、この世界にはない、漢字、ルークはそれを強華の名前の由来に当てていた。

 神崎がこの世界に来た時、確かに異世界から来た証拠にと生徒手帳をルークに貸したことがある。

 だが、それは半日にも満たなかった。

 それでどこまでの日本語を習得できるだろうか?




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