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異世界から来た奴がモテモテチート過ぎてウザい  作者: 痛瀬河 病
最終章 誰もが欲しいものへ手を伸ばし、勝者は只一人
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全てを統べる

「気持ちいい、気持ちいいね、ルーク。視界がクリアになったよ」

「知ったことか、このシスコンが!」


 鬼々の拳は重い。

 しかし、同様の重さのある拳をルークも持っていた。

 彼は本当に一時的に世界最強になったのだ。ルークは気持ちが高揚していた。これまでに覚えたことのない全能感、身体が発熱し意識が朧げになりそうだが、それでもこの力を噛みしめている間は全てを忘れられる。


 後、一枚。


 目の前の鬼々さえ倒してしまえば本当の意味で世界の頂点に立てるのだ。

 多くの犠牲を払い、全てを捨て去ってでも彼は証明出来るのだ。底辺でも落ちこぼれでも凡夫でも奪い得るのだと。

 頂きに。


「全く俺の周りには異常者が多すぎる」

「類は友を呼ぶんだね」


 鬼々も高揚していた。

 もう手に入らないと思っていた姉を越えると言う証明。姉に認められるチャンス。それを目の前の男一人倒すだけで貰えるのだ。

 安いものだ。

 今まで何十人、何百人、何千人と壊してきた。

 それはこの男たった一人を壊す為だったんだ。


 理屈はない。

 特別な力は互いに同じなので打ち消し合ってしまった。

 だから、ただ暴力で相手をねじ伏せるだけ。


 こういう戦いは長くは持たない。

 短期決戦だ。

 互いの体力が削れていくのを感じる。


「「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼‼‼」」


 彼と彼女の人生の中で最も思いのこもった「死ね」だった。

 両者の拳が相手を後一発で終わらせられると告げている。


 二人の体感時間がゆっくりと流れていく。

 それは本当に最後の最後の楽しみを味わうようにだ。


 拳が交わった。

 

 そこに立っているのは一人だけだった。


「……勝った」


 そこにいる者たちは見た。

 勝利を。世界を手に入れた瞬間を。


「じゃあな」


 彼は倒れている彼女の頭に銃弾を撃ち込んだ。

 絶命。これにて本当の勝利。


 ルークが勝ったのだ。

 

 ルークは足を引き摺り、息を切らして彼女の元へ向かう。

 まるで子供が手柄を褒めてもらいに両親の元へ向かうようにだ。


「……勝ったぞ、ティグレ」

「あぁ、見ていた」


 ティグレの声音は優しい。

 ルークは子供が褒美をせがむ様に片手を差し出した。


「勝者へ全てを。くれ、ティグレ」


 ティグレはせっかちな彼に呆れ溜息をつく。


「お前には余韻を楽しむという王者の風格が足りないようだな。一応、私は目の前で妹を殺されているんだ。ここで抵抗してもいいんだがな」

「くく、この実力差でか?」

「言ってみただけだ」


 従わなければ殺す。

 だから、仕方なく渡す。

 二人の会話の中にそんなわざとらしいニュアンスが混じっていた。


 ティグレがルークの頭を撫でた。


「本当にここまでくるとはな」

「お前のお陰じゃないぞ、タダ飯喰らい」


 一時間にも満たない史上最短の魔王ティグレはルークへと魔王の力を譲渡した。

 この瞬間、念願は成就する。


 ルークは魔王となり世界を統べる権利を手に入れた。


 ルークの歓喜に手は震える。


「俺は、俺はついに―」


 ヨハネが我慢できずに駆け寄って来る。

 ニアリスは複雑そうな表情でもう一つの戦いを見つめている。


 ルークの歓喜はまだ少し早い。



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