理不尽にひれ伏す
「あいつを殺して‼」
たった一つのシンプルな命令。
しかし、それが果たされることはなかった。
「逆効果だよ」
ルークはゆっくりと鬼々の方へ歩いていく。
しかし、そこまでには今生き返らせた大量の鬼族たちがいる。
「殺して‼」
鬼々は叫ぶ。
しかし、その命令も虚しく、まるでモーゼが海でも割るように、生き返った鬼族はルークに辿り着くことなく膝を折り、逆にルークの動きはどんどんと軽快なものになっていく。
敵に対して指先一つ触れずにルークは場を制圧した。
距離を詰めるルークに対し、負傷した足を引き摺りながら逃げていく二人。
何が起こればこんな事態になるのだろうか。
一歩、一歩、確かに距離は詰まっていく。
ルークは歩いている。
だが、それ以上に二人の逃げるスピードが落ちていくのだ。
最後に神崎と鬼々は逃げる力すら無くなった。
「チェックメイトだな」
ルークは地面にへたり込む神崎の顔を足で小突く。
「ルークッ!」
神崎が吠えた。
「くく、まだ吠える力は残っていたか。いや、逆に言えばもう吠える力しか残っていないのか」
「その力は何だ!」
「理不尽だろう? これが俺が味わってきたものだ。凡人が骨身に染み込まされた現実だ。そして、理不尽は誰の身にも降りかかるんだよ。こんなふうにな!」
ルークが神崎の顔を踏み付けた。
抵抗する力は残っていない。
「やった! やったぞ! 俺は世界を手に入れたんだ! 頂点に踏ん反りかえっていた奴らがこの様だ!」
何度も何度も執拗に神崎を踏み付ける。
それは神崎への恨みだけではない。
世界への憎しみ、絶望、これまで味わい続けた屈辱。
その全てが籠もっていた。
「……僕も味わったことがある」
「あ?」
「理不尽を」
「あぁ、今味わっているだろう」
「いや、もっと前に、この世界に来る前からだ」
「そうか、お前は前の世界では何の力も持たないイジメられっ子だったな。でも、そんなお前が俺のお陰でこの世界では誰からも羨ましがられる力を手に入れたんだ。本来ならもっと俺に感謝するべきだったんだよ。まぁ、結果はこの様だ。俺はお前と違って寛大な心を持っているからなここでお前を殺して許すことにするよ」
ルークが拳銃を構えた。それは真っ直ぐに神崎の脳天を狙っている。距離は目と鼻の先、外すことは考えにくい。




