世界への咆哮
ニアリスの顔に恐怖はない。
「ルーク様、私を殺しますか?」
「あぁ、殺すね。お前は邪魔だ。お前を殺せば神崎の奴も生きる糧、支えを失い勝手に瓦解、自滅するだろうさ」
「ふふ、無理ですよ」
「……お前は分かっていないようだな。神崎にとってお前がどれだけ大切なのかを」
「いいえ、それは分かってます。これでも私、結構図々しい女なんです。私と礼嗣様はかなりお似合いのカップルだと思っています。あっ、これを話したのルーク様だけですから他の人には内緒にしててくださいね」
「イライラするな。なら、何が無理だっていうんだ」
「……ルーク様に私を殺すことがですよ」
「知らないうちに随分と自信満々な態度を手に入れたようだな。何か俺の知らない物凄いスキルでも習得したか?」
「いいえ、私はあなたたちと初めて会った時から変わらない只の無力な小娘ですよ」
「なら、なんだ? まさか俺がお前を殺すだけの度胸もないと言いたいのか?」
「はい、そのまさかです」
ルークは大きな舌打ちをして拳銃の引き金を握る指に力を込めた。
「舐めているのか? 俺がこれまでしてきたことを見てこなかったとは言わせないぞ! 今更お前ひとり殺すぐらいわけない」
拳銃を突きつけられてもニアリスの表情に一切の焦りはない。どころか落ち着き笑顔のままで優しさが溢れているようにさえ見える。
「……貴方は子供なんですよ」
「なに?」
「貴方が殺してきたのは貴方の知らない赤の他人、どうでもいい知らない人達、関わらなかった、交わらなかった人達です。そんな人達なら貴方はどこまでも利用し、非情になり殺すことも命を弄ぶことさえ厭わないのでしょう。でも、それはただ単に自身の欲を優先するあまり想像力が欠けていただけのこと。我儘な子供です。それが他の人にどれだけの迷惑を掛けるのか想像しない、迷惑を掛けてもいいと思っている子供」
ルークの引き金に掛けた指先に無意識に力がこもった。しかし、頭は決して逆上するのではなく寧ろ冷静にさえなっていた。
「でも身近な人は? 大切な人は? 理解し、どんな人間なのか知ってしまった人は? それらを貴方は殺せますか? いえ、ルーク様、そんな人を貴方は殺したことがありますか?」
ニアリスの目は温かかった。
子供を諭すような目で真剣にルークに訴えかけていた。あれだけのことをしでかし、様々な人に地獄を見せたルークにまだ信頼の念さえ浮かべている。
「……随分甘く見られたものだ」
「信じているのですよ。貴方は根っからの悪人じゃない。いや、根っからの悪人なんて本当は存在しないのかもしれませんね。私はこの戦争を止めたいだけです」
「また善だの悪だのを語るか! そんなものはどうでもいいんだよ! 俺は引き金を引けるぞ!」
―パァン!




