虫の息遣い
鬼々は足元の死体を見つめ少し物思いに耽っていた。
みんな、弱い。
虫は鬱陶しく自分の周りを不快な音をたて飛び回るが、いずれにしろ一度叩いただけで死んでしまう。
「本当に弱いね」
物思いにふける時間終了。
目の前の残りの生きている虫に目をやった。
ルークは絶望に膝を折りそうになる。
しかし、更なる追い打ちが彼にのしかかる。
「ルーク、茶番はもう終わりだ。君はここで僕が殺す」
事の顛末を様子見していた神崎までもがルークを殺そうと立ち上がった。
例えどちらか一方に絞っても勝てはしないだろう。
それが二人、今度こそ完全に終わった。
だが、二人の攻撃は直ぐには始まらなかった。
「神崎、邪魔するならお前から先に殺す。ルークを殺すのは鬼々」
「さっきこの部屋に入った時もそんなことを言ってたね。僕こそがあいつを殺す使命があるんだ」
「鬼々はお姉ちゃんにルークを殺すって約束したもん」
鬼々と神埼の二人がどちらがルークを殺すかで揉め始めたのだ。
どちらも決して譲らず、また最初にルークたちがこの部屋に訪れた時の様に二人の戦闘が始まろうとしていた。
「はは、恨みは沢山買っておくものだな」
ようやく部屋と扉の外で立ちすくんでいたティグレの口から嫌味を言えるだけの元気が戻ってきた。ルークはゆっくりと入り口の方へ歩き、状況を整理する。
「呑気なことを言っている場合か、どのみち奴らが俺をここから逃がすはずはないし、誰に殺されるかの違い程度にしか変わってない」
「なら、諦めるか?」
「いや、ごめんだ」
神崎と鬼々の戦闘が始まった。それは間違いなくこの世界の頂点の争い。レベルが違い過ぎてどちらが上なのかもルークにははっきりしない。
そこでティグレに助言を求める。
「元世界最強のお前に聞こうか。あれはどちらの勝利で終わる?」
「何の制限もなしに殺すことへの覚悟を決めた神崎がここまで強いとは正直思わなかったが、それでも鬼々だろうな。鬼族の頃ならまだしも今は魔王だ。生物の生死を操り、死者を自由に蘇らせる力は強力だ。無限の兵を手に入れたに等しい。まさに鬼に金棒か。鬼々と戦闘になっているだけでも十分に快挙なんだがな」
神崎は物凄い猛攻、とにかく手数を増やし鬼々に死者を蘇らせる余裕を与えない。しかし、鬼々はその攻撃をいなし、反撃の機会をうかがうだけでいいが、攻撃を続ける神崎は徐々に消耗していく。
「……キング、一度退いては?」
ようやくヨハネも正気を取り戻したが、いつも強気の彼女らしくない弱気な発言が零れる。
「無理だよ。奴らはあの戦闘の片手間で俺たちを殺せる力がある。だが、あくまで狙いを俺だ。お前だけなら逃げられるかもしれないぞ」
「……それだけはできないですです」
ルークはドロクに貰った最後の注射器に目をやった。中身は分かっている。それは盤面をひっくり返せるほどの力はない。
異世界転生は現在LEVEL8。一度LEVELが上がるごとに異世界転生者を一人呼び出せるから、上限はLEVEL9なのであと一回。先ほど三人連続で呼びだしてこの様だ。最後は頼ることになるだろうがギャンブルには違いない。
腰に携えて拳銃が今までで一番頼りなく思えた。この化け物たちの戦闘に何の役に立つのだろうか。
ルークは目を閉じる。
深く目を閉じる。
どうせ目を開けようが、閉じようが、化け物には勝てない。
それでも深く考える。
そして、答えかも知れないものを見つけた。
「……くそが、これしかないのか」
ルークは再び目を開く。
ルークはティグレとヨハネに最後の作戦を伝えた。




