どちらに転んでも私は死ぬけどね
五人は足音が遠くなっていく。
アレーニェは迷わず一本の注射器を右腕に刺した。
「さて、どうなるかの」
それはバレッタが使ったものと同じ他種族の血を混ぜて力を底上げする薬。それをアレーニェはルークの懐から残り二本の内一本を拝借していた。
「警戒心の塊のような男の癖に存外抜けて居るところがあるの」
それとも意外にも心でも許していたのか。アレーニェは笑えない妄想に首を横に優しく振った。
そして、次に表情が歪む。
「無駄打ちとかいうオチは勘弁じゃぞ」
そう、アレーニェは本来ここで注射を打つまでもなく他種族の血を混ぜている。蜘蛛の様に糸を吐くタイプ獣族の血が混じった混血体だ。
アレーニェが苦痛に表情を歪め、蹲っていると切断音とともに瓦礫が降って来る。それをかろうじて躱す。
「悪いがすぐに奴らを追わなくてはならない。殺すぞ」
「……ふん、どうせこの先に進めばお前が怖くて怖くて堪らない化け物の巣じゃろ。どのみち奴等は死ぬじゃろ」
「それもそうだが、それでもあの害虫は俺の手で殺したい。見たところお前もあの害虫が嫌いなようだが、俺の行く手を阻まないのなら見逃してやるぞ」
害虫とは間違いなくルークのことを指しているのだろう。
アレーニェは徐々に引いていく痛みから解放されゆっくりと立ち上がる。
(これは痛みが薄れてきたと言うより麻痺してきているだけじゃな)
アレーニェにとって恐らく人生最後の戦いになる。
アレーニェの背中からは蜘蛛のような長く細い脚が複数本生え、顔には血管が蜘蛛の糸のような模様として浮き上がる。
「自分の生き死ににはとっくに興味を無くしたわい」
アレーニェの全身から糸が噴き出し、それを伝い高速移動をする。
「ぐっ」
それを阻むようにハレルが糸を薙ぎ払おうとするが、その糸には電気が流れている。さらにハレルのリーチの外から大量の針が発射される。
その一本一本が地面や壁にめり込むほどの威力でその針にも当然の様に電気が流れている。その針はまるで蜂の針の様に鋭く長い。
アレーニェの首に首輪の様に黒い模様が数本浮き出す。
「あいつが死んでもすっきり、しぶとく生き残っても同胞が生き返ってすっきり。これは鼻から私には勝ちしかない賭け事じゃったんじゃよ」
彼女の一世一代の時間稼ぎが始まった。




