現実の立ち位置を何故認めない
ルークは焦りと緊張を心の中にだけしまいこみ、いつものように出来るだけ冷静な口調でハレルを煽る。
「これはこれは誰かと思えば、負け犬ではないですか。俺に負けた負け犬が何を教えてくれるって?」
そう、亜人族のハレルはかなりの実力者だが、ルークは前回の戦いで接戦で尚且つ相手の慢心もあったが、それでも勝利を収めていた。
「……俺はお前を見て世界を変えるのにはもっと大きな力が必要だと思った。おまえのようなクズは大っ嫌いだが、そこだけは唯一学べたところだと思った」
ハレルは虚ろな目でルークの言葉も無視して独白のように言葉を吐き捨てた。
「義賊ゴッコはやめて大嫌いだった祖国に帰り、国のトップにいつまでも居座るジジィどもを掃討しクーデターを成功させた。お前のような邪悪が蔓延らない世界を作るには今までのようにちまちまと活動するのではなくもっと大きな力を得て世界そのものを一度手中に収めないといけないと分かったからだ」
ルークたちにも分かるように彼はルークに負けたその後の話を始めた。ルークからすれば自分から全てを奪っておいてハレル自身は国に帰り一大勢力を手中に収めたのだから胸糞悪いことこの上ない。
そして、最後に何故ハレルがここにいるのかだが、それは獣族を支配下に置き魔王城に攻め込み自身が次代の魔王になろうと計画していたからだ。
「そこにさらにお前が満身創痍の中トリニティを狙ってこのハクアに侵入しようとしている話も耳に入った。まさに一石二鳥。殺し損ねたお前を殺して、獣族には俺の配下に入ってもらい一緒に魔王を討伐する。その為に俺は多くの同志を連れてこの国へ進軍した」
そんな野望を抱く男の前に魔王城が現れた。
迷いはあった。だが、ここまでハレルは多くを成し遂げた。腐敗しきっていた老人中心の亜人の国エアを建て直し、ここハクアでは多くの獣族を圧倒し、無力化してきた。
ゆっくりと自信を確信へと変化させていっていたのだ。
だがら、ここ魔王城へ足を踏み入れた。
「確かに俺はお前に負けた。だが、あれは慢心も油断もあり、奥の手も使わずじまいだった。俺自身が本気になり勝利を望めば魔王相手にだって引けを取らない。そう確信し多くの仲間を引き連れこの城へと乗り込んだ」
その結果は聞かなくても分かる。
彼の傷付いた身体を見れば答えは明白だ。
「はは、笑えるぞ。これは魔王を相手にした傷ですらないんだ。たった一人の異形の姿をした女に次々と仲間は飲まれ、裂かれ、吸収された」
恐らくそれはシオンだ。
ルークたちは直感的に同じ人物を頭に浮かべた。ハレルを含め、亜人族の精鋭をそうも容易く圧倒できる人物など世界に片手の指の数ほどもいないはずだ。ルークたちはほんの少しだけ不憫さを感じた。
「……そう言えば肩に乗ってたうるさいチビがいないな」
「その女に飲まれたよ、妹は裂かれた。きっともう少し先のフロアに身体の一部が転がっているだろう。数が多すぎて兄の俺でも分からないがな」
「いや、もうきっと死体すら残っていないぞ。ここはそういう場所だ。時が経てば死肉どころかワインの染み一つ残らんよ」
「……そうか」
ハレルはどこか空虚な返事を口から発する。
そして、ようやく膝に手をつき立ち上がる。
「戦う理由はもう無いように思えるが?」
ルークは目の前の敵に問うた。
「誰しも死ぬ前に心の整理をしておくものだ。俺はここでお前たちに勝っても負けても死ぬつもりだ。仲間をそれだけ無駄に多く殺してしまった。だが、最後にせめてちっぽけな悪の一つこの世から払ってからでも遅くはなかろう?」
「なんて迷惑な男ですです」
ヨハネが皆の心の言葉を代弁した。
「迷惑なのも重々承知。寧ろ、お前たちに迷惑だと思わせられて嬉しいよ」
ハレルの顔に濁った笑顔が張り付いた。
それはどこかルークの笑顔にも似ていた。
「……ようこそこちらへ。己の願望のままに生きる世界へ。もうお前が正義を語ることは許されないな」
嫌いな奴を嫌い。
好きな奴を好む。
正義や悪を語る奴等は何故かこれを認めない者が多い。
誰に命令されたわけでもないのに使命を語る。
「それが鼻につく」
ルークは隠し持っていたドロク製のトリニティ爆弾をいきなりハレルに投げつけた。開戦の合図など当然ないままに殺し合いが始まった。




