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第二十四話 飾り物の王、普通の女の子

 ホイホイの王に担ぎ上げられたニアリスは自室の机で頭を悩ませていた。

 国はルークたちの指揮の元、徐々にいい方向に向かって活性している。

 しかし、肝心の王である自分はまだまともに仕事をしてないのである。


(このままではお飾りと笑われるのも時間の問題だわ)


 いつもの柔らかな瞳を細め、指先でウェーブのかかった銀髪をくるくると弄ぶ。

 何か出来ないかと唸っていると、入り口の扉の前で警備の兵と誰かが内容までは聞きとれないが会話している声が漏れ聞こえてくる。

 そして、自室にノックの音が響く。


「どうぞ、入ってください」


 ドアの外の見張りの兵が扉を開けると、そこにいたのはいつもの鬼の面をした神崎だった。


「まぁ、礼嗣様! どうかなさったのですか?」


 ニアリスの声は先ほどまでの深刻さが嘘のように弾む。


「特に用事は無いんだけど、ダメだったかな?」


「いっ、いえ、そんなことはありませんよ。むしろ、嬉しいです」


 ニアリスは椅子から立ち上がり、戸棚からお気に入りの紅茶とお菓子をあたふたしながら用意する。

 その様子は、好きな男の子が遊びに来た年頃の女の子そのものだった。

 神崎は鬼の面を外し、一息つく。


「ふー、城内でこれを外せるところが限られ過ぎていてしんどいよ」


「ふふっ、宗教上の理由なら仕方ありませんね。私の部屋でよければいつでも遊びに来てくださいね」


「ありがとう、ニアリス」


 色々、紆余曲折会ってニアリスにお面のことを誤魔化すのに宗教を持ち出したルーク一行だった。


 神崎が面を外せるところがあるとしたら、神崎、ニアリス、ルーク、リオン、ティグレの自室とルークの参謀室ぐらいのものである。


 神崎は椅子に腰かけ、ニアリスの入れた紅茶をすする。


「ニアリス、王様の仕事は大変じゃない?」


 まさにタイムリーな話題である。

 ニアリスは顔に少し影を落とす。


「はい、特には問題ありません。大変なところはルーク様がやってくださってますし、外交問題もシグレさんが頑張ってくれています」


「そっか、ならよかった」


 ニアリスは自分の入れた紅茶を少し苦く感じた。


「……本当にいいのでしょうか?」


「どうして?」


 ニアリスは顔を上げる。


「私も中途半端な気持ちでこの国の王を引き受けたわけではありません。なら、王としての責務をもっとしっかりと果たすべきではないでしょうか?」


「そう肩に力を入れなくても、大丈夫だよ。君はしっかりとやってるよ」


「……礼嗣様」


 両親が死んで、急に新しい国の国王になってまだ一ヶ月も経っていない。

 神崎の言葉はお世辞などではなかった。

 事実、彼女の人徳のお陰でついてきている国民も多い。


 神崎はこれ以上ニアリスが思いつめないように話題を変える。


「そう言えば、僕はまだニアリスのスキルを知らないんだけど、どんなのなの?」


 すると、ニアリスは恥ずかしそうに顔を伏せる。


「お恥ずかしながら、まだ後天的スキルを獲得していないのでスキルは一つしかないのですが、礼嗣様ほどの方の前でスキルの紹介なんて気が引けますね」


 ニアリスも神崎の異常なスキルの一覧は知っているので当然と言えば当然だろう。

 もじもじとするニアリスに神崎は笑いかける。


「そんなの気にする必要はないよ。僕が純粋に好奇心で知りたいんだけどダメかな?」


「いえ、その……では、笑わないで下さいね?」


「勿論」


 ニアリスは清水の舞台から飛び降りるような覚悟を決め、小さな声を絞り出した。


「……する……です」


「え? なんだって?」


 神崎が鈍感系主人公お約束のセリフで聞き返す。

 その言葉にニアリスは目を閉じ、先ほどよりも大きな声で自身のスキルを声にした。


「だっ、だから、人の頬を緩ませるスキルなんです!」


「え? なんだって?」


 今度は聞こえていたが、聞こえてなお理解が追い付かなかったので、神崎は聞き返した。

 一度、大きな声で言った事で諦めが付いたのか、ニアリスが渋々と言った具合に説明する。


「私のスキルは相手の頬の筋肉を緩ませて、緊張感を無くすスキルなんです。本当に何の役にも立たないハズレスキルです」


 ニアリスは自身のエメラルドのように光るスキルの箱を出し、中に入った自分のスキルのカードを神崎に手渡す。


【能力名】

 接客(ゼロ)基礎(エン)

【LEVEL】

 LEVEL1

 ~次のLEVELまで、このスキルを十回発動させる。

【スキル詳細】

 対象の一人の頬の筋肉を緩ませ、しまりのない顔にする。

 使用回数、一日五回。

 発動時間五分。


「プッ」


 神崎の口からつい空気が漏れる。


「あっ、笑いましたね! 約束したのに!」


「ごめん、きっとニアリスのスキルのせいだよ」


「私は今スキルは使っていません!」


 珍しく声を荒げて抗議するニアリス。

 その様子がまた年相応の子供の抗議なので、神崎は微笑ましさからまた笑みがこぼれる。


「あっ、また!」


「ごめん、でもそのスキルとっても素敵だと思うよ」


「え?」


「人を笑顔にするスキルなんて素敵じゃないか」

 

 その言葉にニアリスは頬を染め、小さく礼を言う。


「……ありがとうございます」


 ひとしきり笑って神崎は満足して目の前の紅茶を飲み干すと立ち上がる。

 案外、肩の力が抜けたのは神崎の方かもしれない。


 また、鬼の面を被り、ニアリスの部屋の扉の内側に手をかけると、後ろのニアリスに目は合わせず、神崎は問うた。


「ニアリスはこの国が好きかな?」


 ホイホイ、それは前国家イリアタとはまた違った形だが、現在進行形で歪んでいるかもしれない国。

 ニアリスは神崎の質問に少し首を傾げる。


「へ? 好きですよ。色々ありましたが、みんなで力を合わせて頑張ってますし、ルーク様やリオン様、ティグレ様なども力を貸してくれます……それに礼嗣様もいらっしゃいますし」


「……そっか、なら良かったよ」


 そして、神崎は部屋を退出した。

 その時の表情はお面の中に隠れ分からなかった。



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