どの道を選んだとしても待っているのは地獄だけ
「……なんだ、これは」
ルークたちは第二層の居住エリアまで進んでいた。ここまで来れば後はその居住エリアを真っ直ぐ一本道でトリニティの鉱山だ。視界にもその目的地を捉えることが出来た。
だが、勿論それは机上の空論で、実際は居住エリアには獣族や戦闘中の他種族も入り乱れているだろうから、外周沿いに隠れながら鉱山を目指す予定だった。
しかし、目の前に広がる光景はルーク一行が思わず足を止め、その目的も一瞬忘れてしまう程に荒れ果てていた。
まず生き物の気配が殆どしない。
更に建物は爆発でもしたように瓦礫の山となっている。
そして、極めつけは元市街地であったであろう場所のど真ん中に大きな城が突き刺さっていた。
「まるで世紀末ね」
「まるでというより本当にこの世界は今大きく変革しているってことなんだろ。歴史の変わる瞬間だ。ワクワクするね」
リオンの溜息交じりの言葉にバレッタは軽口で返す。
「で、どうするんだ? 予想以上にもうこの国自体は終戦モードだ。亜人か人間かどっちが勝っているにせよ獣族はもう終わりだろう。下手に時間を食う回り道よりも真っ直ぐ市街地を抜けるのもありなんじゃないか?」
「あぁ、それもそうだな」
ティグレの珍しく有意義な意見にルークも同じことを考えていたようで暫し長考する。
『あのど真ん中に突き刺さっている城、どこかで見たことがある気がする。いや、何かの文献で読んだのか? あれの正体次第のこの戦局が変わって来るんじゃないのか?』
ルークは顔を上げた。
「よし、真っ直ぐ市街地を突っ切るぞ」
「だろうな。とにかく時間が惜しいんだろ? なんせ、目の前にお前が欲しくてほしくて堪らない魔王城が見えてるんだからな」
「あぁ、そうだななんせ魔王城が……は?」
ルークは狐につままれたような間抜けな声と呆気にとられたような顔をしてティグレの方へ視線を向けた。
「今なんて?」
「だから、時間が惜しいんだろ?」
「いや、その後だ」
「目の前に魔王城が見えてるんだからな、か?」
ティグレのもちもちのほっぺをルークは意味もなくつつく。
「そういうことは早く言え、早く! あれが魔王城なのか」
「なんだ、魔王になりたがってたくせにそんなことも知らなかったのか、あっ、つつくな」
「人間の持つ資料の魔王城の情報なんて微かにしかないに決まっているだろうが! 頬をつねるぞ!」
「やめろ、つついててもいいからつねるな」
二人の会話で他のメンバーもようやくあの街の中心に見える突き刺さった城が魔王城だと認識する。
思わぬ形でルークたちの最終目的地で目の前に現れたのだ。
「くそ、何がどうなってるんだ?」
ルークはティグレのほっぺをつんつんしながら考えをまとめる。本当にこのまま魔王城をスルーしてトリニティ鉱山に向かうべきなのか。いや、目の前に魔王城が見えているからこそ早く戦力を整えるべきではないのか。だが、ホイホイの兵士たちがいたと言うことはかなりの高い確率で神崎もいるトリニティの鉱山なんてとっくに張られているのではないか?
様々な推測の域を出ない仮説がルークの頭の中を飛び交う。
「どうする、ダーリン? このまま魔王城に殴り込みに行ったっていいんだぜ?」
「ちょっと、そんなの無茶に決まってるでしょ。まずは戦況を整えてから」
「その整える時間は本当に残っているのかねぇ」
「私ぃはキングの指示に従うですです」
仲間内でも意見は割れている。
それだけ難しい選択で約束された答えはない。
「……真っ直ぐ突っ切ってトリニティの確保を優先するぞ」
ルークの下した決断は当初の予定通りトリニティの確保。しかし、ルートは変更し真っ直ぐに市街地を抜けていくというもの。
それに誰も反対する者はいなかった。
「まぁ、あんたが決めたならいいわよ」
「リオン、ツンデレですかぁ」
「はいはい、何とでも言いなさい」
「戦闘はなるべく避けていくぞ。恐らく今ここは世界一危険なエリアだ。魔王、神崎、獣族の王、シオンがいる可能性が高いんだからな」
その名前を並べるだけで皆の背筋が凍りつくほどのビックネーム。明日の朝にはその中の誰もがこの世界の頂点に立っていても不思議ではない連中だ。
ルークたちは今一度気を引き締め鉱山へ向かった。




