何故、誰もが
―三層のある丘の上
「意味が分かりません。何故、魔王城がこんなところに突っ込んでくるんです? まさか、タンタリオンはトチ狂ってしまったんですかね?」
新たな魔王の襲名を知らないチェスマンは困惑するように言葉を漏らす。いや、襲名を知っていても空から魔王城が降ってきたら困惑するかもしれないが。
「うーん、これは全部が全部筋書き通りってわけにもいかなそうだね」
ドラゴも口調こそ落ち着いていたが、内心穏やかではない。そもそもチェスマンの提案とはいえ、自国をここまでリスキーな展開に追いやっているのだ。本来ならこれ以上のイレギュラーは勘弁願いたかった。
「やっぱりあれが魔王城ってことは魔王が乗っているんだよね。どうする、チェスマン? 逃げる?」
「いや、逃げる場所などありませんよ。無駄に兵を削るだけです。しかし、ここでのんびり高みの見物とばかりも言ってられなくなりましたね。一度、オオカ君とライオ君、それと前線に出しているジェントルな私の他の役職持ちの駒たちとも合流しましょう」
その時、チェスマンの表情が明らかに歪んだ。そして、先ほどまで余裕は消え失せ「いや、そんな、まさか」などと譫言を呟き始めた。
ドラゴはその様子を訝しみ「どうしたの?」と声を掛ける。
「ふふふ、どうやらジェントルな私も少し疲れているようです。他の駒たちの位置が上手く把握出来なんですよ。すみませんが、とにかくここを離れて彼等を配置したポイントへと移動しましょう」
ドラゴが「それって」と真相を口にしようとした時だった。
「その必要はないよ」
チェスマンでもドラゴでもない第三の声が走った。
二人は背後のその声にすぐさま反応する。
そこにいたのは人族のような見た目の青年。中肉中背で一応剣を持っているが、ろくな装備もしておらずとても強そうには思えない。
だが、ハクアの森の三層、最深部に辿り着いているのだから、それらの情報はあてにすべきではないと言うことは二人にもわかる。
「あなたは?」
「僕は神崎礼嗣。ルークはどこだい? 素直にルークの居場所を吐いて戦闘の意思がないのなら君たちを殺しはしない」
神崎の剣先がゆっくりと持ち上がる。
(この男、狙いはルークですか)
「随分と乱暴な物言いですね。ジェントルな私たちはこの国の支配者ですよ。どこの馬の骨ともわからないあなたの命令に従う義理は有りません。どこやってオオカ君やライオ君の包囲網を抜けここまで来たかは分かりませんが、直ぐに彼等率いる精鋭部隊が君を殺しにやってきますよ」
神崎はその言葉に短く息を吐いた。
「さっきその必要はないって言った意味まだわからないの? 本当に申し訳ないとは思ったけど君たちの仲間は降伏を受け入れてはくれなかった。だから、殺したよ」
チェスマンはその言葉に信じられないと言うふうに目を見開き、ドラゴはどこかわかっていたのか事実をただ受け入れる様に数瞬短く目を閉じた。
「ばっ、馬鹿な! 嘘も休み休み言いなさい! ジェントルな私の、私の、優秀な駒たちがあなたのようなどこの馬の骨とも分からない者に‼ 負けるわけがないでしょ‼」
神崎の剣に炎が纏う。
「それは謝ろう。説明不足だった。僕は神崎礼嗣。人類統一国家ホイホイの王ニアリスの右腕だ」
「……ホイホイ。そうか、あなたたちがルークの作った国の。元仲間というわけですか」
「そうだ。だから、殺しに来た」
チェスマンもここに来てようやく現実を受け止め、まっすぐと目の前の排除対象を見据えた。
「キング、一時的にですが今空いている残りの役職もあなたに付加します。後方からマジックにてサポートもしましょう。それであいつを殺せますか?」
「……十分過ぎるよ」
チェスマンはドラゴの肩に手を置いた。
そして、支配従属の力をドラゴに付加していく。
ナイトは攻撃力を、
ビショップは回復力を、
ルークは戦術力を、
ドラゴはかつてない力に酔いしれ、目の前の敵を憐れむ。
「……やはり誰もが死なないと分からないのか」




