魔王城隕石
―魔王城
鬼々が魔王の座につき、シオンに殺された同胞四十三名を全て生き返らせ魔王城には鬼族が全員集合状態になっていた。
鬼々の魔王就任を祝う者、生き返ったことに困惑を覚える者、シオンへのリベンジに燃える者、反応は様々だ。
「鬼々さま、今後の方針は?」
「報復しかないでしょ。これだけ皆を殺したんだから、そのシオンってやつを殺さなきゃ」
「しかし、あの女が今どこにいるかなんて」
「魔王になって大分時間が経ってきていくつか便利なことに気が付いたんだ」
鬼々が右手を前にかざすと魔王城の大広間の床が透明になり、下界の様子が映し出された。鬼たちからは感嘆の声が上がる。
「これで探せるでしょ」
大広間の床は世界中のあらゆる景色を次々に映し出した。画面が切り替わりを繰り返しているうちに皆の反応が一瞬固まる。
「これは?」「内乱か?」「獣族の領地ですね」「いつもの亜人族との小競り合いだろ」「いや、それにしては深く攻め込まれ過ぎだ」「確かにいつもより敵の数も多い気がする」
鬼々も皆の反応を見て獣族の森ハクアにスポットを当て、注視した。聞くところに寄ればシオンと呼ばれる女は戦闘狂の可能性が高い、なれば戦場にいる可能性が自ずと高くなるのではないかと思ったからだ。
「……獣、亜人、それに人もいる」
鬼々は「あっ」と短く息を吐いた。
「どうかされました?」
「ううん、なんでもない」
(あれはお姉ちゃんを探しに行ったときに戦った奴。確か名前は神崎とか言ってた)
あの時、対峙した印象より大分険しい表情をしているので一瞬誰か分からなかったが、鬼々はハクアの森で人族を率いる神崎を発見したのだ。
「ここにはいないみたいだね」
鬼々が次の場所へ画面を切り替えようとしていた時、屈強な鬼族たちにしては珍しい悲鳴が上がった。
「鬼々様! お待ちください! 今、そのハクアへものすごい勢いで向かってきている者がいます」「こいつは‼」「少し見た目は変わっているけどあいつじゃない?」「くそ、身体が震えてきた」
ハクアの森に新たな来訪者が現れたのだ。
およそ人型の形をしておらず魔物のようにも見えるが、それは人だった。焦点は合っておらず時々「ルゥゥゥクゥゥゥンンン」などと謎の鳴き声を発している。
「……化け物?」
同じ化け物、世界の頂点に立った鬼々ですらそう呟きたくなるほどの奇怪な姿。しかし、これが鬼々の探していた同属の仇であるシオンなのだ。
「鬼々様‼ こいつです‼ こいつがシオンとかいうふざけた女です‼」
その言葉に鬼々の表情が変わった。
「……こいつが?」
魔王になることで家族の様に大切にしていた同属たちを皆生き返らせることが出来たけれど、それでも村に帰って来たときに一族皆殺しにされていた時のあの絶望感は忘れていない。
そして、屈辱ものだ。
世界最強の種族である鬼族に喧嘩を売るものは絶対に許さない。
ましては負けっぱなしなんてあってはならない。
「鬼々様、直ぐに向かいましょう」
皆が魔王城を降りてハクアに向かうよう鬼々に提案していたが、鬼々はそれを片手で制した。
「必要ないよ。魔王城は浮遊要塞。魔王の意思によって好きに動かせるの」
鬼々は「みんな、掴まってってね」と指示を出すと腕を一度高く振り上げ、力強く振り落とした。
「このまま突っ込むよ‼」
鬼々の頭には血が上っていた。
今回の戦闘への意気込みは神崎、ルーク、強華を相手にしていた時よりずっと上だろう。
自分たちより優秀な存在を許さない絶対のプライド。
この無茶な使用方法のせいで魔王城はこの後、一切の制御機能を失い半永久的にハクアの森に鎮座することとなる。
そして、これがのちの歴史に名を残す『魔王城隕石』の全容である。




