彼の最後の抵抗
シオンの露出している上半身部分や顔面には複数の裂傷の後がある。そのダメージは決して小さそうには見えない。
「こんな姿になるのお姉ちゃんも初めてなの、力が暴走してるのを凄く感じる」
シオンはそう言いつつ周囲を見渡した。
「右腕が無くなってるね。複数個の右腕を生み出して身体の一部になっちゃったか。あのね『未来の右腕』はね、お姉ちゃんの妄想なの。ここに集まってくれた兵士を愛して愛されて、妄想するの。この人との未来はどんな世界だろう、どんな子供が生まれてくるだろう。そして、獲得する。その未来に生まれてくる子供の右腕。つまりパートナーの力の獲得。親密になればなるほどその未来は具体的にイメージできこの力は行使しやすくなる」
シオンの四肢(全部右腕だが)が一瞬動いた。
次の瞬間、ルーク以外の味方全員が地に伏していた。
「人生で最高のダメージに頭も強く打ってるお姉ちゃんの妄想力は完全に暴走状態なの。一度に一本しか使えなかった右腕はこんなにも沢山生えてきてる」
シオンは紅潮する頬を残った一本の左手で隠すように抑える。
「はぁはぁはぁ、なにより! 頭がバクちゃったことで何度挑戦しても駄目だったルー君との初夜が! 結婚生活が! 子供までもが具体的に妄想できるように合ってるの‼‼」
ルークはシオンを無視し倒れている味方に目を向ける。
「そうか、何か既視感があると思ったがこれは俺の時間外労働か」
「そうだよ‼ 子供は五十人作ろうね‼」
シオンは半分錯乱状態で意味不明な言動が混ざり始める。
いや、もしかすると平常運転かも知れない。
「ルー君の時間外労働はね。バレッタちゃんやリュミキュリテちゃんの回復系の力を私が獲得すれば自分まで疲労しちゃうって弱点を克服した完全無欠な力になるかも。はぁはぁはぁ、早く彼女たちのことをよく知らなきゃね」
「二人とも女(リュミキュリテは怪しいが)だろうが」
「関係ある? 愛があれば性別なんて関係なく愛し合えば二人の元に子供は必ず授かるはずでしょ?」
シオンは正気を失っていた。
いや、もしかすると平常運転かも知れない。
「またわけのわからないことを」
「何がわけがわからないの? お姉ちゃんはいつだって本気だよ」
もぞもぞと複数の右腕が蠢く。
それらがルークに照準を合わせ始めていることをルーク自身がひしひしと感じる。
(俺たちが時間を稼いで作ったゴローの最大値の一撃が敗れた以上、もう神頼みしかないよな)
ルークは小さく息を吐き、思いっきり煽り顔を作る。
「ガキの頃からいつまでも妄想垂れやがって、だから何時まで経っても―」
「あっ、ルークそれはやばい」
顔を上げる力すら残っていないリオンがルークの声を聴き、身を震わせる。戦闘を近くで見ていたアレットは無意識に一歩後方へ下がる。
「―処女なんだよ!」
周り少し騒めいた。
だが、次の瞬間黙らされた。
「んー、聞こえなーい」
笑顔は崩していない。
それでもシオンからは今までと違った禍々しいオーラが感じ取れた。
ルークは反応する事すら困難なスピードで足を掴まれ、持ち上げられると数十の右腕から滅多打ちを喰らう。
「ぐふっ‼」
「ごめんね、良く聞こえなかったからもう一回っていいよ」
「処―」
「むー、聞こえないな」
「処―」
「なんて‼」
「しょ―」
「聞こえないってば‼」
当然、ルークが口を開くたびにシオンは星の数ほどの拳を浴びせている。ルークの顔は晴れ、段々と虫の息になっていく。
(これでいい)
一方的にボコられていくルークを見て既に虫の息のティグレが意図を読み取る。




