歴史の分岐点
―獣族の森ハクア
獲物を釣り上げる為には餌がいる。
「しかし、その餌を捕まえるにも餌がいる」
「ご褒美ですよ」
「トリニティの爆破のニセ情報を流しましたが、あまり動きらしきものはありませんね」
「ふーむ、思った以上にルークは弱り切っているのでしょうか」
「それとも他の敵と交戦中とか?」
キングが何気なく発した言葉にジェントルはハッとした。
ルークに最後に会った時に同じく遭遇した女性。
てっきりルーク側の人間だと思い込んでいたが、あれがもし敵で今も交戦中でルークたち自身が動けないとしたら?
(言葉の通じない女だとは思っていましたが、まさか)
「……そうなるとジェントルな私の華麗な計画に遅れが生じてしまいますね。なんとしてもあのにっくきタンタリオン……じゃない、魔王を殺してしまいたいのですがね」
魔王タンタリオンはジェントルのかつての旧友だった。それも、稀代の天才と言われ並び称された亜人族の伝説。しかし、それは遠くから羨望している者たちの真の価値のわからない賞賛でしかなかった。
凡人たちから眺めれば同じ頂に見えても高いレベルに生きている天才たちには明確に感じる違いがある。
ジェントル自身何度も真の天才であるタンタリオンには何度も煮え湯を飲まされてきた。まさに目の上のたん瘤。
ジェントルは逡巡して計画の変更を告げた。
「少し順番を前後しましょう。真のジェントルは臨機応変なものです」
ドラゴ、ライオ、オオカの三人がチェスマンに視線を集める。
「ルークを誘き出す為にはまず先に本当に三つ巴の戦い。つまり人族のホイホイ、亜人族のエアの兵士をここに招き入れるのです」
「それが難しいから先にルークを餌に二つの種族を誘き出すんじゃなかったの?」
「前後するだけです。逆に二つの種族にルークがハクアで暴れているぞと嘘の情報を流して誘き出すのです」
「うーん、上手くいくかな」
「今や罪人扱いで首を狙っているホイホイは確実でしょうね。亜人族の方はクーデターで頭が変わったらしいですよ。新たな当主はジェントルな私も噂には聞いたことのある人物です。彼のような人物はルークのような卑劣漢が嫌いでしょうし、ルークの名自体はホイホイ時代に既にかなり流れてきていましたし大丈夫でしょう」
キングは整理するように敢えて言葉に出してみる。
「つまり餌を釣る為の餌を餌にして、ってあれ? こんごらがってきた」
「まぁ、取り敢えずやってみましょう。こちらの準備はもう済んでいるわけですし」
チェスマンとキングは部下である二人オオカとライオに目を向けた。見た目はそこまで変わった様子はないが、チェスマンとの仮契約のちの本契約により強さのレベルが一段階上がっている。
「どうやら馴染み始めているようですね。フフフ、ジェントルな私の支配従属のマジック、奴隷の(・)晩餐。いまこそ世界をジェントルな私たちの元に招き入れましょう」
ちなみにマジックの名前は開発者が付ける。
ちなみに作戦は引くほどはまった。
ルークの名前を出しただけで親の仇の様にあちらこちらから人族と亜人族の兵士が押し寄せてきた。
「……フフフフフ、まぁ計画通りです」
これにはチェスマンも少し引いた。
まだ、誰も知らない。
チェスマンも魔王もルークも神崎も、いや神ですら知り得ない。
この戦いがこの世界の歴史において最も大きな戦いとなりのちの世界の分岐点となる。




