彼のいない国
―ホイホイ
ニアリスは王室の玉座に腰掛けていた。その椅子は酷く座り心地が悪い。それもそのはずだ。いま王室には人類の全て、中枢を担う人物たちが集められていた。
これからのことを考えなくてはいけないからだ。
あり得ないと思われていた。人類が一つになると言う現実がどんな形であれ実現し、そのトップに少し前までお飾りと言われた王女、ニアリスが立っているのだ。戸惑うなと言う方が無理である。
「いやいやいやニアリス殿、これは壮観な景色だね。元メアリカの最大主である私にアシロの元帝王代理であるフライト殿、華中の天王フゴル殿、第四の都市と言われたラブジルの王ダンガン殿、元イリアタの王子バカァホ殿。これだけの人間が揃うのは人類史初めてじゃないの?」
「……ウーノ、ニアリス全王に対して失礼な口の利き方はやめなさい」
「これはこれはこれはフライト殿、失礼した。まだ彼女が全王だということになれなくてね。にしても君は以前に会った時に比べて随分やつれたね。あっ、そうか君の右腕左腕の双子キースとノーボスはこの間の戦争で死んだんだったね。本当に辛かっただろう」
嫌味たらしい彼女の視線はちらりと背後の人類最強と謳われた自身の兵士オセロムに向ける。自分だけはまだ切り札を所有している事を見せつけるようにだ。
「……黙れ、ギザ歯の風見鶏が」
ウーノとフライトは視線だけで静かに火花を散らした。
「二人ともやめてください。形式上分かりやすくするためにホイホイの王であり、人類をまとめる大役を仰せつかった私を全王と名付けましたが、ここにいる皆さんは対等な立場だと思っています」
その悪意のない慈愛の言葉にバカァホ王子は短く舌打ちをした。
「んんん? 確かに私たちは最早国の境はなくみなホイホイの庇護下にある一つのグループだけど、一つだけ仲間はずれがいるよね」
「はいはい、僕珍のことでしょ。みんなが言いたいことは分かってますよ。敗戦国のトップは辛いね。ケスバ、アレだしてあげて」
「はいはい、了解しましたっと」
褐色の紳士的な見た目の男ケスバはフゴルに指示を受けると胸元から一枚の紙きれを取り出す。
「流石に院のジジイたちもここまで立場が悪くなって事を荒立てたりはしないよ。大人しくホイホイの傘下に入る胸の書類に判を押してある。これで僕珍も華中の元天王だよ」
ウーノはその書類はにやにやと見回すとフゴルに言い加えた。
「おやおやおや? ここにはあの事が書かれてないようだが? それがこちら側が君たち反逆国を無条件で受け入れる条件だったはずだけどねぇ」
「ウーノ様、やはり私はそこまでするのは酷かと」
「ふぅ、こちら側か、随分な物言いだね。君だって終始あの戦争では良いところなしだったくせに」
「最後が大事なんだよ、お坊ちゃん」
フゴルのこめかみが僅かに痙攣した。
「分かってますよ。そこ書かなかったのはもう十中八九彼女の居場所を突き止めているからだよ。で、引き渡せばそれでチャラなんでしょ?」
その言葉にニアリスは安堵の表情を浮かべる。
「ステニー様が見つかったのですか!」
「まぁ、彼女も最後は勝手知ったる華中に潜伏するくらいしか手段はなかっただろうしね。目撃情報はかなり出ている地域を割り出してあるし、時間の問題だよ」
「あぁ、よかった。これでパンプキンケーキで苦しんでいる民を救えますね」
そうホイホイ含め、今の人類の大国の当面の問題はルークの撒いた中毒性のあるパンプキンケーキの解決にいあるのだ。その為、開発者の一人と思わしき元華中のマッドサイエンティストであるステニーの居所を探っていた。
しかし、ウーノは不満気だ。
「あああ? 大体の居所は掴んでいる? 時間の問題? それは何一つ解決していないってことじゃないか。書面の効力を恐れて記述を避けているようにしか思えないね」
「ウーノ様、おやめください」
ウーノの挑発じみた発言にフゴルとケスバは静かに殺気立つ。
形式上一つになった人類もまだまだ一枚岩ではない。




