漏らしそう
それは許されるはずのない温かさ、必要なものだけを選びそれ以外を切り捨てた男が一生手にする機会を失ったモノ。でも、それはいまこうして歪な形となってでも出現した。
そして、シオンが号泣した。
「うぅぅ、ええん、ルゥーくぅん、よがったねぇ、おねぇちゃん以外にもこんなにあっだかい友達作れたんだねぇ」
周りはドン引きした。どこまでいっても締まらない敵だ。
シオンは直ぐに涙を拭うと、またいつもの明るい笑顔に戻った。
「安心してね。勿論、アレットちゃん含めて周りにみんなにはルー君たちに手を出させないし、ルー君たちはお友達皆でお姉ちゃんを倒しに来ていいよ。ルー君が義手を付ける時間も待っててあげる。戦いたい場所とかある? 移動してあげようか?」
戦うのはシオン一人。こちらは何人でも。戦闘の準備も待つし、場所も選ばせてあげる。
シオンはそう言ったのだ。
至れり尽くせりとはこのことだ。
しかし、それだけの、それ以上の差があるのは事実なのだ。
驕っているわけではない。
「……お言葉に甘えようか」
少しでも勝ち筋を伸ばす。
ルークは一時間後に同じ場所、つまりこの宿に戻って来ると言い残してシオンの元を後にした。
シオンの隣にアレットが立ち皆を見送る。
「一応、逃げないかどうか見張ってましょうか?」
「いや必要ないよ。ルー君は逃げ……たりもするけど、どうせお姉ちゃんからは逃げられないってことはわかってるはずだから」
「リオン様にはなるべく怪我をさせないで下さいね」
「それはどうかなー、心配ならアレットちゃんも向こうの味方してもいいよ」
「……因みにルーク様たちの勝算は?」
「あれ? 気になる? っていうかわかりきってるでしょ」
シオンは自信満々に胸を張る。
「愛が負けるわけないからね」
アレットだって本当は聞かなくても分かっている。
前人未到のLEVEL10。
この人には勝ち目はない。
そんなことはわかっているのに何故ルークは挑むのだろう。アレットは本当に理解に苦しんだ。思えばアレットがルークに対してあまり好意的になれない理由の一端がそこにあるような気がした。
分不相応、大言壮語、どう考えても非才の彼には成し遂げられないようなことばかりを夢見て口にする。分をわきまえ、主のやり方に口を出さず口を慎んで生きてきたメイドであるアレットとは真反対のような生き方をしている。
アレットは周りを見渡した中立地帯の荒くれものどもがシオンの命令一つで敵であるルークらに一切の危害も加えず道を通した。それだけシオンのカリスマ力が高いと言う証だろう。恐らく彼ら彼女らはシオンに死ねと言われれば喜んで死ぬのだろう。それだけ従順で純度の高い兵隊がこの数いればどこの国とでも渡り合うことは不可能ではないとアレットは確信した。
だが、シオンには国盗り、世界征服なんてまるで興味のない話だ。好きな人が求めているからそれを実現させ得る材料を用意しただけ、やれと言われればやる。それだけだ。よくいる恋に盲目な夢みる乙女。
ただ彼女の場合、そのやれることに際限がないだけの話。
「まずはどうしよう」
「え?」
「ルー君との戦いだよ。これから戦うんでしょ。もう想像しただけで興奮が止まらないよね。勿論、お姉ちゃんとしてはルー君を虐めたりなんてしたくないんだけどね。それでも仕方ないよね。だって、可愛い可愛いルー君がそうしたいって言うんだもん。あぁ、楽しみ過ぎるなぁ。どうしよう。まずは多分新しくつくだろう義手かなぁ。せっかく新調したおニューの義手を速攻でもぎ取るの。それって絶望感凄くない? あぁ、絶望したルー君の顔を想像しただけで濡れてきた。日頃見せない仕草や表情って萌えるよね。いっそ、生身の左腕もちぎっちゃおうかな、あぁ超悩む。骨を折るぐらいはいいよね。それで芋虫みたいに地面を這いつくばるルー君は史上最強にプリティだと思うの。でも敢えてルー君には一切攻撃せずに周りのお友達を一人ずつ壊していくってのも乙かな。まずはあの一番強そうな強華ちゃん。次にバレッタちゃんとワンコちゃん。戦闘が苦手そうなヨハネちゃんやティグレちゃんの顔面を丁寧に殴って歪めるのもいいよね。それを必死で周りは止めようとするだろうけど、みんなお姉ちゃんに手も足も出なくて絶望するの。あぁ、ちょっと漏らしちゃった。そのシナリオも捨て難い。少しだけ互角風演技とか全攻撃敢えて一回ずつ受けて全部ノーダメージです演出とか、私だって色々考えてるんだからね」
「……そうですか」
(前世でどれだけの大罪を重ねたらこんな女性に好かれるのだろう)
アレットは違う意味でおしっこを漏らしそうだった。




