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異世界から来た奴がモテモテチート過ぎてウザい  作者: 痛瀬河 病
第五章 破滅と混沌の世界へようこそ
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全てに許しは乞わない

 ルークは手の平に食い込ませていた指先の震えを感じた。何とか言葉を絞り出さなくてはと思っていても恐怖が先に勝つ。


(やっぱりこいつはやばい、やばい、やばい、やばい、やばい。昔から一切変わっていない。いや、それどころか中途半端に離れていた時間がある分、完全に悪化している)


 子供時代のトラウマがフラッシュバックする。


 生まれた時から家柄、能力、環境、資質全てが高水準だったシオンは基本的に全てが思い通りだった。

 でも、そんなシオンでも手に入らないものがあった。

 弟。何故彼女がそれに執着したのかと問われれば手に入らなかったからと答えるしかないのかもしれない。現に彼女は今ここに世界を手に入れるに足りうると確信するだけの戦力すら手に入れてしまったのだ。本当に殆どのものを手に入れることが出来るのだろう。


 だから、ルークをリオンが連れて帰った時、彼女の中で全身に電流が走った。衝撃的だった。だから、彼女の全てをもってルークを可愛がった。

 しかし、全てを持つ彼女の可愛がりとは歪んだものでしかない。思い通りに行かなくてはいけない。こうでなくてはならないとルークの行動全てに自分の理想を詰め込んだ。

 ルークはすぐに限界を感じ、バティスティ家から少し離れたところに小屋を借り一人暮らしを始めてしまった。

 力だけではルークは従わない。

 そうシオンは考えた。

 だから、彼のもっとも望んでいるものを手に入れてあげようと姉心を彼女なりに働かせて結論を出した。そうだ、世界だ。

 流石の彼女も世界を手に入れるにはかなりの下準備がいる。彼女は奥歯を砕く勢いで噛み締め、ルークやリオンらの元から離れ、下準備を始めることを決意した。


 そして、今ここに彼女は用意した。

 ルークの望むものをだ。


「お姉ちゃんが好き過ぎて照れて黙っちゃうのはルー君の悪い癖だよ」


 ルークの俯く顔をシオンは覗き込む。

 ここに割って入れるとしたらシオンの妹でルークの幼馴染のリオンしかいない。リオン自身苦手にいている姉だが、大好きなルークのピンチだ。彼女は小さく息を吸った。


「大丈夫だ、リオン」


 そう制したのはルークだった。


「残念だったな、シオン。俺だってただ漫然とここまでを生きてきたわけじゃない。お前を克服するのは難しくとも、もう怯えるだけじゃなく挑むだけの肉体と精神は育まれているんだ!」


 ルークは目一杯虚勢を張り余裕の笑みを作る。


「シオン、ご苦労! お前の兵隊たちは俺が有効活用してやる。だが、交換条件なんて無視だ! 全て無償で俺に差し出せ‼」


 そう、欲しいものは与えられるのではない。

 ルークは奪ってきた。

 例え相手が誰であってもだ。


 シオンは予想外の反応だったのか、一瞬真顔になる。


「ふーん、面白いじゃん。それでこそルー君だ。あと、それとは別に今の反抗的な態度で子宮がキュンキュンしたからもう一回言ってくれる?」


 こいつはもう駄目だ。

 その場にいた誰もがそう思った。


 それすらもシオンの術中、ペースを乱すのが目的かも知れない。ルークは敢えて意味のない深読みをして自分の意識を立て直した。

 失った空っぽの右腕を残った左眼で覗く。食事の味はとうの昔に忘れた。リュミキュリテを呼び出した際に嗅覚も失ったらしい。

 凡人のルークが失ったものは多い、しかしそうしてでしか得られないものを手にしてきた。そして、まだ道半ばだ。


「お前の戯言はガキの頃から聞かされ過ぎて聞き飽きたよ。殺される前に大人しく全てをよこせ」

「だから全部あげるって言ってるじゃん。ルー君がお姉ちゃんの本当の弟になってくれたらね」


 戦うしかない。

 彼女はある意味人類の最大到達点かもしれない。それに挑まなくてはいけない。ルークもリオンも子供の頃に一度だって勝てたことのない怪物。それは今も身に刻まれ、深いトラウマとして刻まれている。

 拳銃を握ろうと背中に回した左腕が震えている。

 見せるな、この弱みを見せれば飲み込まれる。

 だから、ルークは左腕を前に突き出せなかった。


(大丈夫、大丈夫だ、直ぐに震えは止むはず。止んだその時シオンのこめかみを打ち抜けばいい)


「ルー君?」


 何十秒経っただろう。

 なかなか、その時は訪れない。


(頼む、頼む、止まってくれ)


 何百何千の観衆(シオンの兵隊)に囲まれたことを忘れるような静寂。


 一、二、三、


 震えが止まった。


 ルークの願いが通じた。 

 わけじゃない。


「まだ終わらないのか? さっさと終わらせてマンゴーシュー買って来い」

「仕方ないわね、私負けっぱなしは好きじゃないのよね」

「奪い取るんだろ? マイダーリン」

「この世界にキングは一人ですです」


 一人、また一人とルークの左手に温かい手が重なる。


「ルーク様、このワンコ命を賭しましょう」

「取り敢えず義手出来たんで右腕付けます?」

「何かを守れる強さを教えてください」

「僕様、寝てていい?」


 ガタンと音がした。

 それは彼女がベッドから転がり落ちる音だった。


「……リュミキュリテ、ワタシを治せるだけ治して」

「……強華」

「ルーク、戦うんでしょ?」


 もう左手の震えは止まっていた。

 拳銃をシオンのこめかみに向けて真っ直ぐに突き出す。


「あぁ」


 ルークは短く息を吐き、温かな何かを飲み込んだ。


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